【13kpv感謝!】シルクロード・エクスキューション

ふい

1st Season

プロローグ1 束の間の休息

 やっとのことで、少女は心待ちにしていたマンガの新刊を開いた。

 内容はうだつの上がらない男子高校生が、ひょんなことから一人のクラスメイトの女子と関わりを持つようになったことから、その学校生活が徐々に色づき初めていくという青春もの。


 少女はキャラクターの台詞に視線を走らせ、魅惑的なストーリーに自分の意識を埋没させる。深く深く潜り込む。

 と同時に登場人物の表情や仕草にも目を奪われ、その美麗な造形に感性を刺激される。

 恋愛など少女にはよく理解できないが、それでもこんな生き方をしてみたかったなと思いを馳せながら。


 どこにでもあるネットカフェの、狭い個室。

 横になってかろうじて足を伸ばせるかどうかというフラット席で過ごすその時間が、少女にとっては至福の一時ひとときだった。

 上半身を起こしたり寝転んだり。

 仰向けになったりうつ伏せになったり。


 ストーリーのキリのいいところで、事前にドリンクバーで用意してきていた紅茶に口をつける。

 注文したサンドイッチにも手を付けた。

 優雅を気取ってはいるが、読んでいるのはマンガという大衆娯楽だ。詩集でもエッセイでもない。

 けれど、少女にとってはそれで十分だった。なにも高尚なものを求めてなんかいない。既に多くのものは諦めているのだから、これくらいは、と。


 ささやかな楽しみを実現させるため、普段から何かと多忙な合間を縫って捻出ねんしゅつした貴重な時間だ。誰にも邪魔されたくはない。

 けれど、それが長くは続くはずがないことを少女は知っている。


「あー、アニメも見たかったんだけどなぁ!」


 本当に、束の間の休息だった。

 少女はにわかに騒々しくなってきた店内を確かに認識しながら、個室備え付けのパソコンを名残惜しく見遣る。


 そして未練を断ち切るようにかぶりを振って、個室を飛び出した。食べかけだったサンドイッチを口に咥えて。

 向かうのは正面入り口なんかじゃない。そんなところは


 少女は窓を突き破って店を飛び出した。

 直後に鼓膜をつんざく銃声。


(お騒がせしてごめんなさいっ!)


 少女は心の中で真摯に謝って、陽の落ちた町中を駆け出した。

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