第3話 デートと言えば


 デートと言えばカフェである。これジェヴォーダンの鉄則。


「どうしてこうなった」

「楽しみましょ、先輩!」

「俺、カフェオレ、砂糖多め」

「先輩と同じやつで!」

「主体性ねーなー」

「好きな人と趣味を合わせるのは当然じゃないですか♪」

「……うーん」


 どうにもブレーズはこういう空気に慣れていない。そもそもなんでこんな事になったのかと言うと。


「最近、カップルを狙ったルーガルーが出没してる」

「カップル役やれって!? 課長冗談じゃねぇっす! もっと美女を呼んでください!」

「先輩?」

「ひぇっ」

「いいから行けオラァ」


 こんな感じである。ダミアンも無茶振りをするものだ。ブレーズは辟易とする。喜んでいるのはセシルだけだ。


「しかしカップルを狙うルーガルーですか、あれですかね。リア充爆発しろ! みたいな」

「……仮にも被害者出てるんですよセシルさん?」

「てへっ、この仕事やってると倫理観とか欠如しちゃって」

「自分で言うか普通……」


 カフェのテラス席でとりあえずくつろぐ二人、変化は訪れない。


「……もっとイチャイチャした方が」

「死んでも嫌だね」

「なーんでー」

「そうだぜ兄ちゃん。こんな可愛い子なのに」


 二人に割って入るトゲトゲとした男。時代を間違えたパンクロッカーみたいだ。


「誰だてめぇ」

「先輩助けてー」

「やる気無くすからやめて」

「はい」

「……俺の前で夫婦めおと漫才とは良い度胸だな?」

「誰が夫婦漫才だ」

「そうですよ夫婦はまだ早いっていうか……」


 顔を赤らめるセシルを他所に。二人の男が視線で火花を散らす。


「ジャポネーゼメンチを切るってやつですね!」

「解説してる場合か、

「もう大丈夫ですよー」

「あん? ……って俺の足が!?」


 パンクロッカーの足の腱が断ち切られていた。


「ルーガルー特攻ナイフです。実戦で使う事になるとは思いませんでしたけど」

「問答無用で首を刈っちまえば良かったのに」

「ルーガルーじゃなかったら可哀想じゃないですか」

「可哀想で済むのか……?」

「なんで俺がルーガルーだと……!?」


 その問いに二人は答えない。ルーガルー特攻課はルーガルーとの会話を極力避けるように教育される。それはである。

 人の形をしたものに憐憫を向けないための、徹底した教え。

 一撃で頸動脈を絶ち切るセシル。血飛沫が噴き出す。獣としての姿が露わになる。


「やっぱりルーガルーでしたね」

「後輩よ、死後確認止めません?」

「この方が確実ですよぉ?」

「こわぁ」

「さ、デートの続きしましょ!」

「は!? 任務完了で帰るんでしょうが!?」

「ささっ」


 そのまま連行されるブレーズ。実は単純な腕力だとセシルのがブレーズより強い。先輩の面目丸潰れである。

 次に向かった先は遊園地。復興直後に何故か出来たテーマパーク。他に作るものがあるだろとバッシングを受けていた物件だ。


「ジェットコースター乗りましょー!」

「いや俺苦手……ってうお!?」


 ブレーズは無理矢理引っ張られ、乗せられる。他に乗客はセシル以外にもう一人。元々、人気のない遊園地なのだ。

 ジェットコースターが発射する。

 そこで、が聴こえた。


『よくも私の彼を』


 ブレーズは安全バーを取り外し立ち上がる。ジェットコースターが発射する。初速から加速するタイプのジェットコースター。Gで吹き飛ばされそうになるのを脚力だけで堪える。特攻グロッグを構える。


「お前もカップル狙いのルーガルーか」

『私達は最高のカップルだった』

「浮気されてましたよー?」

「こら後輩」

『小娘から殺す』


 相手もジェットコースターの安全バーを取り外し、立ち上がる。ジェットコースターが頂点に達する。そこで一瞬止まるのを確認して。撃った。

 爪で弾かれた。


「また全弾撃ち切りかな」

「私も立っていいですかー?」

「座ってろい」


 駆け出すルーガルー。喰らいつかんと大顎を開ける。狙いはセシル。しかしそれはブレーズに隙を見せる事になる。


「脳天直撃コースだ化け物」


 銃撃が何度も響いた。全弾撃ち切った音がした。何度も爪で弾かれる音がした。しかし、一撃だけ、破裂音が響いた。頭から血を流したルーガルーがジェットコースターから落ちていく。座って安全バーを付け直すブレーズ。


「あー、怖かった」

「素敵です先輩!」

「あー、はいはい」


 その後、地獄の三百六十度スパイラルに絶叫したのはまた別のお話。


「……つーわけで、見事二匹のルーガルーを狩って参りました」

「私達のコンビプレーでっす! ぶい!」

「いいねぇ。その調子で狩ってくれや。百三匹狩りの必勝コンビ!」

「俺は支給品壊しのブレーズですけどね」

「あとサイコキラーのセシルちゃんな」

「なにか言いましたかダミアン課長?」

「いえ何も」


 セシル強し、である。

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