13話 海に響く断末魔

「さぁ、お仕置きの時間よ。お前たちが侮辱した私の力、とくと味わいなさい」


 朱く輝く軍神の槍を彼女は優雅に、しかし瞬時に振るう。そして腰を低く落とし、空を舞う魔物に狙いを定める。

 魔物インプは、武器の形状が変わったことに驚きはしたが、それでもまだ高をくくっていた。

 『人間風情が、魔物に勝てると本気で思ってるのか? 弄んで殺してやろう』と彼女の言葉など、気にも止めていなかったのだ。


それが、彼らの死に繋がると知らずに……


「はあっっっ!!」


 一瞬だった。彼女の咆哮、風を切り裂く鋭い音が聞こえたかと思えば、いつの間にか頬をナニカが切っていたのだ。

 魔物の頬を伝う血液が、つうと海に消えていく。


「あ、あえ?」


 自分のすぐ横にいた他のインプ3匹。それらは既に、ぐさりと貫かれていた。

 朱く輝く軍神の、神殺しが持つ槍に。

 あまりに一瞬の出来事で、空中に浮かぶ魔物たちは呆けてしまっていた。そして、知能が低い彼らでも、こう感じていた。


『あれこそ神の槍、たかが魔物の自分たちが敵うわけない』と


 串刺しにされた三匹のインプは、ひくりと体を震わせると塵となって消え失せる。獲物を失った槍は、光のような速さで彼女の手に戻った。

 魔物である自分たちが、ただの人間に殺された。人間は獲物であり玩具、自分たちはそれを狩るもの、弄ぶもの。今や立場は逆転し、次は誰が狙われるのか、串刺しにされるのかわからない。

 恐怖、怒りは瞬く間に伝染し、インプたちを浅慮な行動に移させた。


『自分たちがやられる前に、女を殺そう』『全員で一気に襲ってしまえ!』


 空を漂う魔物が、一斉に降下して彼女の周りを取り囲む。もはや絶体絶命、四面楚歌の状況。

 だが、彼女は笑っていた。その笑みは嘲笑、眼光は捕食者、佇まいはまるで王者のように堂々としていた。


「馬鹿な奴ら。『的』が自分から降りてくるなんて……」


 インプの持つ鋭い牙が、爪が体に触れる寸前、彼女は槍を縦横無尽に振るった。

 遠くから見れば、赤い光線が舞っているかのように、それはあまりに素早く、2mは超える槍を軽々と、まるで踊っているかのように。

 鋭利な穂先がインプを蹂躙し、貫いていく。ティンタジェルの穏やかな海に、インプの断末魔が響いた。


「こ、ころさないで! もうしない、しないから!!」


 最後の一匹が、彼女に無様に命乞いをする。空を舞うための羽は傷つき、もう逃げることはできない。

 こわい、おそろしいと、もっと早くに逃げるべきだったと、様々な感情がとぐろを巻くように、インプの心中で渦巻く。


「降参するかどうか、私はちゃんと聞いたわよ? でも、貴方たちはそれをしなかった」


 地面にひれ伏すインプに、彼女は槍を向けて冷酷に言い放つ。その視線には同情も憐憫もなく、ただ殺意あるのみ。


「恨むなら己の浅はかさを恨むのね」





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