第2章

8話 ティンタジェル城

「ここがティンタジェル城か……」

「凄いわ。海が真下にある」


 アーサー王誕生の地、ティンタジェル。

 駐車場に車を停めたあと、延々と続く坂道を上っていくと、潮風が顔に当たる。

 見渡せば、青々とした草原に、白や黄色の花々が点々と咲いていた。

 石造りの城は、廃墟と化して、過去の栄華の見る影もない。

 近くに設置されている柵から下を見れば、岩を飲み込む波が見える。

 故郷イタリアの海とは、全然違うわ。

 緑の映える美しさと、荒れ狂う波のある場所で、英雄アーサー王は生まれたのね。


「良い風景だね、アレックス」

「そうね。なんだか感慨深いわ」


 今私は、あの英雄が生まれた場所にいて、もしかすると、彼と同じ景色を見ているのかもしれない。

 そう考えると、ありあまるロマンで胸がいっぱいになりそう。


「この城で、アーサー王は生まれたのね」

「いや、それはあくまで伝説だよ。この城自体は、1233年にアーサー王伝説が大好きな、リチャード伯爵によって作られたんだ」

「……え?」

「確かに、この地でアーサー王が生まれたという伝説はある。けどね、この城はその伝説に基づいて、『後から作られたもの』なんだ。だからね、この城でアーサー王が、生まれたというわけではないんだよ?」


 でも、看板とかに書いてあったじゃない!

 『アーサー王生誕の城』って、近くの通りにも、駐車場や観光サイトまで!!


「君、やけに大人しいと思っていたけど、まさか、『今私、アーサー王が生まれた城に、実際に立っているのね』って感極まってたのかい? あ、案外、可愛らしい、とこもあるんだね」


 あぁぁぁぁぁあぁあぁあ!!

 よりによって、この人の前で、こんな失言をしてしまうなんて!

 だって、ハワードだって、ティンタジェルがアーサー王生誕の地って言ってたし、書籍にも書いてあったし、普通そう思うじゃない!!

 驚き慌てる私をよそに、彼は横でニヤニヤと、馬鹿にしたように笑っているし!


「ひぃ、可笑しくって、笑いが止まらないよ!」

「あぁもう、穴があったら横の男を生き埋めにしてやりたいわ……」

「そこは『穴があったら入りたい』じゃないですか?! 物騒なこと言うのやめて!?」


 怯えるハワードを無視して、私は気分を切り替えて、今後のことを彼に伝える。


「とにかく、色々見て回りましょう。私は左に行くから、あなたは右を調べて」

「了解。13時になったら、ここで落ち合おうか」


 ティンタジェルは城跡も含めると、大分広い。だから私たちは、一旦別行動をとることにした。

 単独行動は確かに危険だけど、スマートフォンには、GPSが埋め込まれているから、お互いどこにいるかわかるし、何かあれば、必ず連絡することを約束したから大丈夫。

 そう信じて、私は左へ、ハワードは右へと歩き出した。


 それを見て、ほくそ笑む連中がいたことに、気が付かずに。

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