日本の料理、なます

皆様、新年に「おせち」は食べられましたか?


そのおせちには入っていましたでしょうか?



なます


はい。なますです。


私が想像しますは大根と人参、そこに柚子皮を散らした酢の物。



その「なます」にはどの様な漢字を当て嵌められますでしょうか?





スマホの変換で出てまいりました。

これでなます。「膾切りにしてやる!」と時代劇で聞いたのはこの漢字のなますでしょうか。



このお話も前話に続き引退された花板さんにして頂いた、正に「知識のご馳走」であります。



膳に乗りますなますは現在では「刺し身」等の鮮魚を使った料理も有りますので呼び名が


「向付け」と呼ばれます


なますは向付けであるそうです。


何の事だろう?


そう思いました。料理のなますの話から向付け…



まずは説明が簡単な「向付け」から話して頂きました。


懐石等の膳は四角いですよね?

そして四角とは四隅があります。

なますが向付けと言われるのは、膳を食べる人から見て右奥の隅に置かれるので、「向こう」に「付ける」料理として向付けと呼ばれるそうです。


そしてなます以外にも向付けは存在しますよね?


膳の配置には「格式」が存在するそうです。


そして右奥の隅は格式が低いそうです。

ですので向付けの料理は膳の全体を見てそれ程の格式では無い物を置くのです。


ですが格式が下なら余程の「ゲテモノ」が置かれるのか?


そうではありません。


そこに「なます」です。



なますを想像しますと私は先に述べた野菜の酢の物を想像します。


ですがなますには先にも述べましたが「鮮魚」も使われるのです。


今でしたら向付けに魚のなます和え。

白身の鯛の昆布締め。

そして刺し身です。わさびも添えて。



刺し身や昆布締めなんて大ご馳走とも言えませんか?


ですが格式では下なのです。


その成り立ちが「なます」であるからです。



なます、なます…どんな漢字を使うんだ?



生酢


こう書くそうです。



生酢とは、スダチやカボスの様な天然の酢を絞った料理だと言うのです。


生の果実の酸味故に生酢。


皆様は、私も含めて「現代」を生きております。


酢なんてスーパーで百円そこそこで買えると思いませんか?



それが懐石料理の膳の萌芽である茶席での膳。


茶の湯の起こりは室町から戦国期と言われます。


その時代の酢とはとても「高価」でした。


酢が大衆に広まったのは江戸時代中頃に酒を絞った酒粕を発酵させた「粕酢」が発明されてからと言われます。

粕酢は赤褐色でしたので赤酢とも言われます。 

そして粕酢が発明されたからこそ江戸前寿司である握り寿司が発展したのです。


そして生酢と寿司は酢を通じて無関係では無いのです。



鮮魚が入手し難かった時代の膳には「鮒のなれ寿司」の様な発酵の力で保存期間を伸ばした魚が上りました。

発酵しておりますから酸味があります。



横道ですが…


戦国時代、天下に王手をかけた織田信長公が、徳川家康公を持て成す事にし、饗応役に明智光秀が当たりました。


「魚が腐っておる」

織田信長公は饗応の膳の魚が腐っているとして明智光秀を打ち据えた…とも言われますが、その膳の魚が「鮒寿司」であったとテレビで専門家がおっしゃいます。

鮒寿司なら酸味があるので発酵…腐っていると言われても不思議は無いと。


ですが織田信長公も琵琶湖を水運で利用しておりましたから琵琶湖の鮒で作られた「鮒寿司」を知らなかったとは考えづらいです。

ですが徳川家康公の治める駿河遠江で「なれ寿司」が一般的であったかは分かりません。

織田信長公が徳川家康公の膳のなれ寿司に対しての拒否反応を見て、慌てて明智光秀に「腐っている」と言いつけ饗応膳からなれ寿司を外させた…とも考えられます…かね。私見です。


一次資料は手元に有りませんが、織田信長公の徳川家康公への饗応膳の記載のある書物に、当日の膳の本膳に「鮒寿司」の記載があります。

ですがこの話の組立てを転ばす様に、本膳には鮒寿司とは別に「膾」が乗せられたと記述があります。膾と鮒寿司、用意出来るなら二つ乗せても良いのか、更にこの饗応膳の五の膳には「鰹の刺し身」迄…後の世で「懐石料理」の「決まり」が出来上がるにつれて「生酢」とされて統合されていったのか…



また脱線ですが、他の本では「スズキ」が海水域でなく喫水域の魚であり「生臭い」ので、当時のご馳走である「鮒寿司」ではなく、三の膳に乗った「スズキ汁」が不味かったのを叱責したと言う「説」を取り上げている本も有りました。

料理は人の営みからは切れないもの。歴史を探る助けにもなるとは…私は楽しく感じます。



色々長くなりましたが、輸送の関係で当時の膳の魚が鮮魚ではなく「酸っぱい」なれ寿司が使われていた。


そこからだんだんと鮮魚を塩押しして運搬し、それを洗い生酢で酸味を足し調味した物が登場します。

更にはそのまま鮮魚を捌いて生酢和えにしたりもされる様になります。


鮮魚が使えますと生酢和えでなくても良い。


そうなりますとまだ「醤油」が一般ではない時期ですから、「煎り酒」と言う調味料が登場します。


酒に「梅干し」を入れて鍋で沸かし酒精を飛ばし、梅干しの「酸味」と「塩味」を溶かし込み、酒の旨味も合わさった調味料。


この酸味と旨味の煎り酒に刺し身をつけて食べるのです。

鮮魚が手に入り、刺し身の時代になっても「酸味」は活躍したのです。


生酢であるスダチやカボスは季節物。手に入らない時期もあります。

そこで梅干しの酸味が生酢となったのです。

梅干しを漬けている段階で液が上がってきて、それを取り置くと「梅酢」になりますからそれも存分に活用されたでしょう。


何故そこまで「酢」にこだわるのか。


それは食あたりを酸味が防いでいると感覚で分かっていたからではと伺いました。


刺し身の後には「酢の物」を出すとも聞きました。

それで胃腸を整えて、最後迄膳を楽しんで頂くと言う心配り。


早寿司である握り寿司も酢を使いネタを〆たり、酢飯にして発酵のしていない米に酸味をつけます。

これも酢で持ちを良くし、食あたりを防ぐ意図があったそうなので、生酢と近しいかと。

刺し身と握り寿司には「わさび」も欠かせません。更に刺し身にはツマとして大根も付きます。

大根を一緒に食べると「当たらない」と言われましたからわさび、大根も食あたり対策です。 



いかがでしたか?


なます



今では様々な素材が使われ、名前も変わる時が御座いますが、食べる人の事を考えた逸品。


脈々と受け継がれてきた、料理人の心の温かさを感じませんでしょうか?




おせち料理。美味しく頂きましょう。








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