第18話マナーあれこれ

皆様は事につけ「マナー」について注意されたり注意をしたりすると思います。


私も社会人になるにあたって「ビジネスマナー」なる物の研修を受けたりもしました。

ですが、後々講師の方の言っていた事が本当に正しいのか…

自分の「常識」が「非常識」なのか?


最近はよく悩みます。


最近疑問を呈されている「マナー」があります。それはしてはいけないと盛んに言われていた事です。



渡し箸。


渡し箸をしてはいけないと言われた事はありませんか?

理由はみっともない…も有りますが、「渡し」箸ですので、渡すのは箸と音が同じな「橋」。渡し橋は三途の川の橋を意味するから縁起も良くないから止めるべき…

一時期そう言われていましたが。


最近では「こじつけ」だと言われていますね。

更に禅寺では渡し箸は問題なく行われている…地獄、極楽を理解し、悟りを開く僧侶が「渡し箸」は問題無いと言っていますから、こじつけマナーだとされます。


本来は「ねぶり箸」と同じく行儀が悪い…程度の話だったのでしょうが。

ですが、魚料理の「なめろう」が有りますが、名前の由来は旨すぎて「皿までなめろう」…から来たとか。

箸を舐める…皿を舐める…時と場合によっては料理への最高の賛辞ともなりましょう…



次に見直されている「マナー」ですが。



銚子の口


と言うのも有ります。

燗酒等を入れる酒器の銚子。徳利とも言いますかね?

銚子の丸い口には注ぎやすくする為の「切れ込み」が入っています。

その切れ込みを使って酒を注ぐと…

「貴方と縁を切る」に繋がり失礼であるから注ぎ口の切れ込みは使うな!と言うのです。


これもメディアで大々的に取り上げられ、一躍「マナーの常識」となりました。

ですが、注ぎやすくする為に付けられた口を使わずに酒を溢す…のも良くないのでは…


今ではこれもこじつけマナーとされております。

銚子の造り手の思いやりを「縁切り」とは酷いですよね。

探せばすぐに出てくると思いますが、「マナー講師抗議銚子」が存在します。

丸い銚子の口の四方を「注ぎ口」とする形で、どう回しても注ぎ口からしか注ぐ事が出来ないと言う逸品です。




これは今でも悩むのですが…



寿司は手で食べるか箸で食べるか…


これです。

元々の寿司は…

起源を辿ると鮒寿司に代表される「熟れ鮨」が元祖とされます。

半年以上寝かせて、飯が発酵で酸っぱくなり、鮒の身と一体になり口に運ばれる。

それがもっと早く提供出来る様になった押し寿司を始めとする一夜寿司…発酵での酸味が出ないのでここで「酢飯」が登場します。ネタも酢で〆ます。が考案されます。

そこから江戸時代になり、「早寿司」として登場したのが現在の寿司。「握り寿司」です。


そして江戸時代の寿司は屋台料理でした。

酢で〆たネタや醤油の漬けのネタを粕酢の酢飯と握り、注文からすぐに出す。更には初期の握り寿司はおにぎり位のサイズで、三貫も食べれば満足…と言うお寿司。

そして屋台に箸は置いてませんので、職人が握った寿司を客も「素手」で取り、口に運びます。

そして汚れた手は暖簾や縄暖簾で拭って客は去る。

暖簾はお手拭きの役目をしていたと言うのも驚きですよね。


長くなりましたが、そんな「歴史」が有るならば…素手が正当か…

昭和から経営されていて、総理大臣賞も受賞された寿司職人さんは。


「俺の手が汚いって事か?」

箸で食べるお客様が多数になった現在…悩まれています。


今では国営放送でも寿司を「箸」で食べる為の「マナー」なるものが放送されています。


お客様も多様になったので、「素手」と「箸」を選べる様になっています。

それを捏ね回して素手は「邪道」とする…のは行き過ぎと思います。


寿司に関しては、我々は新たな「マナー」の誕生の瞬間に立ち会っているのかもしれませんね。




この寿司の話をしたのは、マナーとは歴史と照らしても移り変わっている…と言いたかったのです。




伊達政宗公のヒラメの逸話



人から聞いた話で面白かったのでまだ覚えていました。


伊達政宗公にはヒラメ(カレイ)についての話も伝わっています。


伊達政宗公が江戸で大名や幕閣と食事をしていました。

その日の膳にヒラメの焼き物が出たそうです。

伊達政宗公はヒラメを綺麗に平らげます。


すると幕閣が笑います。


「何か可笑しな事でも?」

政宗公が聞くと。


「伊達政宗公ともあろう方が魚の食べ方もご存知ないのかと思いまして…」

そう幕閣は言います。


江戸ではヒラメやカレイは片身魚として表の身のみ食べ、裏側の白い皮の身は食べない…と言うのです。


言い分はこうです。

ヒラメやカレイの片身魚は古来大陸の皇帝が半身のみ食べた魚を川に流すと、魚は生き返り半身しかないヒラメやカレイとなった…

との故事から片身のみ食べるのだと。


政宗公はそんな「マナー」等聞いたこともありません。

ですが笑われるのはお門違いです。ですから思わず言ってしまいます。


「なるほど。江戸では片身しか無いのですな。いやいや、我が領国ではヒラメ等は両身の魚ですから…国と同じだとばかり」

政宗公はこう言ってしまいます。すると幕閣も引きません。


「ヒラメが両身の魚とは知りませんでした。伊達殿、是非ともお国のヒラメを馳走して下され」


万座がまた伊達政宗公が始めたぞ…と興味津々。



「そうですな。ですがまだ時期ではなく、私は江戸に居りますから国元と離れております。ですから用意出来ましたら馳走致しましょう」

伊達政宗公…やってしまいます。


「武士に二言は御座らんな?伊達殿、お忘れなく」

幕閣は伊達政宗公が詫びると思い、そう言うとその場はお開きになります。



屋敷に帰ってきた政宗公は国元に急ぎ馬を走らせて。


「両身のヒラメを捕まえろ!」

漁師に触れを出しました。


伊達政宗公…諦めません。



すると一ヶ月程で国元から。



「とったどー!」(違訳)


漁師が両身のヒラメを探し出して捕まえ、江戸屋敷に運び込みます。恐らく塩漬けか干物か…



伊達政宗公我が意を得たり。


江戸城で政宗公は。


「お待たせ致した。やっと時期になり国元からヒラメが届きましたぞ」

居合わせた大名や幕閣は。


「伊達殿の領地には両身のヒラメが泳いでいる…」

そう信じたそうです。


実際には当然変異のヒラメだったとは思いますが、伊達政宗公は面目を保ち、更には出来たての「マナー」にも一言申しました。


それからは江戸でもヒラメやカレイの食べ方はそれぞれで良いとなりました。





「こんな事も知らないとは」

ですとか。


「常識だよー」

ですとか。


言ったり言われたりすると思います。


ですが、それぞれの業界、地域、集団、家庭、環境…それぞれがマナー…ひいては人格を形成していくと思います。


軽々に貶めたり押し付ける前に理由を聞く。


逆に押し付けられたり貶められる謂れも無いと思います。


ですが、犯罪等の禁止されている事は「マナー」ではなく「法律」ですので、厳格に身を守るべきとは思います。

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