宣戦編ー2

 ―嘘だ。おかしい。なんであいつがあんなもの持ってるんだよ。爆破スイッチとかずるいだろ。汚い手を使いやがって。絶対に後で痛い目に遭わせてやる。でも、気をつけないとな。―

 橋本は、先ほどの衝撃を抑えながら、ソフトボール部員たちと話し合っていた。

「でも、まさか川嶋が犯人だなんてな!絶対に後で懲らしめる!」

 橋本がそういうと、浜田が続けた。

「そのときは、慎重にいかないと。また返り討ちにあうよ。」

 このソフトボール部の話し合いが行われる前、このようなことが起こった。


―「ちょーっと!ソフトボール部の皆さん、これを見てくれる?」

 川嶋が、その場にいた全員に届く声で言った。そして、何かのスイッチのようなものを見せた。ソフトボール部の浜田は言った。

「え、川嶋くん!それはまさか...爆破スイッチだったりしないよね?」

「...早くそこから離れないと、スイッチ、押すよ?」

 しかし、その言葉に、橋本は動じなかった。

「ふざけるな!」

 橋本は川嶋に襲いかかろうとした。だが、

「橋本くん、この学校のどこに爆弾があるのか、知っているの?爆弾があるのは、校舎だけとは限らない。地雷って知ってる?」

 川嶋は、声のトーンを変えずに言った。橋本にとって、その川嶋の表情は本物であるように見えた。もう、愉快犯にしか見えなかった。そして、その場から引き下がるしかなかった。―


「くそおっ!生意気な真似しやがって!あいつが主犯なら、最初に川嶋をぶっ倒しておけば、学校から抜け出せるのか?うん。そうに違いない!」

 先ほどから橋本は、大声ばかりだしていた。理科思考部に対して、大きな復讐心を抱いていたのだ。


 ソフトボール部と理科思考部の衝突があってから、川嶋が犯人という噂はあっという間に広がった。すると、ソフトボール部以外の生徒たちは、川嶋を倒すためではなく、理科思考部を倒すために部活動同士で集合した。よく近くにいる部活動のメンバーであれば息も合い、理科思考部を倒すことができるのではないかと考えたからだ。ここではテニス部が話し合っていた。

「さっきも言ったように、川嶋が犯人らしいぞ。だから、川嶋を倒しておけば、この学校からきっと抜け出せるはずだ。よし、理科部を倒す計画を早速立てよう。」

 竹下はテニス部員に呼びかけた。すると、D組の鈴木翔太が言う。

「え、まってまってまって。なんで理科思考部を攻撃するわけ?川嶋だけでいいじゃん。」「あーそうだまだ説明してなかった。実は、川嶋は犯人である上に理科部を支持してるらしいんだよ」

「え?」


―その場から引き下がるしかなかった。すると、川嶋は、

「みんな、とにかく生物室に戻るよ。一回落ち着こう。このままじゃ、けが人が増えちゃう」

「何やってるの?川嶋くんが犯人なの?どういうこと?教えてよ!」

 白鳥は怒り混じりの声で言った。しかし、

「とにかく、部室に戻ろう。」

 川嶋が爆破スイッチを持っており、何をするかわからない今、その言葉通りにするしか無かった。そしてその行動は、遠くから見ていたソフトボール部にとって、川嶋は理科思考部を味方しているようにしか見えなかった。―


「そういうことだったのかー。」と鈴木。

「ん?」

 竹下は小さな声を漏らした。

「どうしたの?なんかあったの?」

 鈴木は訊いた。しかし、

「いや、なんでもない」

 竹下はそっけない返事をしただけであった。そして、

「とにかく、理科部まるごと倒そう!それで爆破スイッチとかを奪って、学校から抜け出そうぜ!」

 それを合図にテニス部は、計画を立て始めた。


 生物室は緊迫していた。

「まさか、あんなことをするなんて。犯人かと思っちゃったよ。驚かさないでよね。」

 野犬は川嶋に言った。すると清水が続ける。

「自分が犯人だと名乗って、ソフトボール部の動きを一時的に止めるってまあ、よく考えたもんだよね。驚いた。でも、あれでソフトボール部の怒りは最高潮だよ。僕たちいつ襲われるかわからないよ。」

「うん。ごめん。でもあのままじゃ本当に大変だったから。ただの怪我じゃすまなかったかもしれない。」

 川嶋は答えた。

「まあねえ...」

 古畑は鈍い反応をした。そしてさらに川嶋は言った。

「でも、僕が犯人ではないことはいずれだれかがわかってくれると思うんだけど...仮に僕が犯人だとしたら、あの手紙に書いてあったことと矛盾するからね。」

「うん。僕もさっき気づいた。あの手紙には、僕たちに部活動戦争をさせたいという趣旨のことが書いてあったから、ソフトボール部と理科部の争いを止めるような行動は明らかにおかしいよね。」

 白鳥が流ちょうに語った。そして、理科思考部員の木下(きのした)が、少し大きな声で言った。

「どーせソフトボール部はそんなことには気づかないよ。川嶋が犯人だと思ってるって。」

「うるさい、木下。黙って。」

 高端は木下を睨んだ。木下はしょんぼりとした。その直後、生物室に沈黙が走った。しばらくして、萩原が発言する。

「どうする?ソフトボール部絶対こっちに来るよ。他の生徒も部活のメンバーで集まり始めちゃってるから、ソフトボール部以外の部活も襲ってくるかもよ。なんかカオスな状況になっちゃったけど。」

「ああ、最悪。話し合いでなんとかしたかったけど、これじゃあ、何もできないよ。何されるかわからない。」

 野犬は、ソフトボール部に殴られた左肩を痛めながらも、普通に会話をしていた。生物室の近くにある冷蔵庫から取り出した氷で肩を冷やしている。 

「え、ところでその爆破スイッチは偽物なんだよね?それは元々何なの?」

 高端が言った。

「急に話を変えないでよ。まあ答えるけど。あのスイッチみたいなやつは、技術で使った部品の一つなんだよ。ほら、授業で制作をしたでしょ?その制作で使った電池の電源を使ったんだ。」

 川嶋が答えると高端はさらに質問を続けた。

「え?あんな色してたっけ?」

「あ、実は、その細かい事情はわからないんだ。あの電源は、かずっちの作品からちょっと借りた。いや、借りたとはいわないか。とった。なぜかさ、かずっちの作品の電源は、銀色に塗られてて、なんか怪しげなスイッチみたいだったから、何かあったときにと思って、生物室に来る前にとったの。こんな使い方をすることになるとは思わなかった。」

「で、どうするのかって訊いてるんですけど!」

 萩原は話の軌道を修正する。しかし、高端の問いかけがきっかけで話し合いがギクシャクしてしまった。

「いや、人の作品勝手にとっちゃだめでしょ」「いや、気になったから」「ここに襲いにくるんだったら、早くなんとかしないと!」「なんとかするって、どうするの?」「それにしてもどうしてかずっちは...」「話し合いで解決できるはずだよ!」「どーしよっかなー」

「あああうるさい!みんな一回黙って!」

 古畑は、怒号した。その声に周りの理科思考部員が驚いた顔をする。いつも大声を出さないあの古畑であるため、相当の驚きようであった。

「こんなことをいつまでも続けてたら、何も始まらないよ!話し合いをするときには、順序を踏んで討論するのが基本でしょ!じゃあ、白鳥くん!まとめ役お願い。」

「え、僕?なんで僕が。」

 白鳥は一度ためらいを覚えたが、古畑のするどい目つきを見てはまとめ役を断る訳にはいかなかった。

「...はい。やります。」

 そう小声で言うと、前の黒板の前に立った。

「今話し合うべきは、これから襲ってくるかもしれない他部活動からどう対策するかだよね。でも、対策をするといっても、暴力的な行為は絶対にいけない。自身を守る行為から、戦争は始まるんだ。一番いい方法はやっぱり話し合いだと思うんだけど、さっきソフトボール部と話そうとしたときに相手から暴力を受けてしまった。どうする?」

 最初のやる気のなさとは違い、話し始めた途端真剣になった白鳥を見て、部員の気持ちも引き締まった。白鳥の問いかけに対して、清水が答えた。

「まず、ソフトボール部ではなくて、他の部活と話し合いをすることにしない?川嶋くんが犯人だと思っているかもしれないけど、まだソフトボール部に比べたら話し合いはできる状態にあると思うから。」

 清水の意見に、周りの部員は賛成した。そして、皆真剣な目つきで、まずどの部活と話し合いをするかを考えた。話し合った結果、部活のメンバーで集まっていると考えられ、生物室から比較的近い地学室にいると思われる、文芸部の人たちに今の現状を説明することになった。伝える内容は、川嶋が犯人ではないということ、部活動戦争が起こるのを防ぎ、再度この学校から抜け出す方法を見つけだそうということであった。そう決まった瞬間、理科思考部員十六名は地学室に向かった。地学室は生物室と同じ二階にあり、少し歩いたところにある。理科思考部員は、廊下を歩き始めた。しかし、もう遅かった。一階の方から、何やら騒がしい声が階段を通して聞こえる。ソフトボール部だ。

「まずいな。生物室に向かってきてる。」

 清水は緊迫した声で言った。

「どーすんだよー!」

「うるさい、木下。黙って。」

 高端は木下を睨んだ。木下はしょんぼりとした。

「衝突は避けたいから、まず地学室に行こうよ。」

 野犬がそう言うと、部員はすぐに地学室に向かった。やはり、地学室には文芸部が集まっていた。文芸部員の生徒らは、理科思考部員を見ると、おびえた表情を浮かべた。

「ああ、心配しないで。僕たちは話し合いがしたくてきたんだ。」

 白鳥は地学室に入ってすぐに言った。そして、今の状況を文芸部に伝えた。しかし、話の途中でソフトボール部員たちの大声が近づいているのがわかった。

「かわしまぁ!そしてりかぶぅ!ふざけるなよぉ!」

「ま、まずい。」

 白鳥たちは、地学室の机の下に隠れた。どんどん足音は近づいていき、ついにドアの前まで来ているのが分かった。沢山の視線が感じられたが、白鳥たちは息を殺して隠れ続けた。


 

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