5月25日(徳嶺→鶴舞)

 鶴舞 虹子様


 お返事に時間がかかってしまい申し訳ありません。この交換日記にこれから綴ろうとしている内容は果たして適しているのか、やめた方がいいのかと、長い間逡巡してしまいました。


 せっかくの楽しいやりとりに暗い影を落としたくなかったのです。

 しかし、こんな私に何度も好意を伝えてくれた鶴舞さんへ、これ以上不誠実であることにも耐えられません。


 もしも気分を悪くされたらすみません。今日限り、この日記が返ってくることが無くとも私は決して怒ったり責めたりしないので、今後も続けるかはご自由に決めていただければ。


 まずは抱擁の件について。

 確かに驚きはしましたが、訴訟する気はサラサラないのでご安心ください。

 素直に表現するなら、嬉しかったです。

 人の温かさや柔らかさを久しぶりに体感して……少し、涙腺に来てしまい動けなかったのです。


 具体的に言えば、誰かから抱きしめられたのは実に5年ぶりです。


 こんな私にもね、恋人がいたんです。

 自由奔放というか豪放磊落というか、まぁ、そんな人でした。ちなみにその人も女性で、私の部下で、私に付き合おうと言ってくださいました。


 彼女は甘えるのが上手でお金にだらしなくて……私は私で甘えられると弱くてお金の使い道もなかったので……うーん、変な感じになっちゃったんですよね。


 結論から述べますと、彼女は私が貸した200万円と共に、別の女の人とどこかに行ってしまいました。


 それからは人間不信というか恋愛恐怖症というか……今の私がだいたい完成するといったわけです。


 だからね、鶴舞さんの気持ちは嬉しいけど、とても怖かった。

『文字は書くのも読むのも苦手』と言われたから、わざわざ『交換日記をしよう』と提案してあなたを試した。

 本当にごめんなさい。


 でもね、あの帰り道、美味しいらーめんとコップ一杯のアルコールでポワポワしていた帰り道、私も確かに、あなたと同じ雰囲気を感じたの。


 あぁ、なんていい夜なんだろう。今誰かに抱きしめられちゃったらもう、私はまたダメになっちゃうだろうなぁって思ってたら……誰かさんが音もなく、私を包み込んでくれた。


 今、私は不思議な幸福感に背を押され、多大な緊張と闘いながらペンを走らせています。

 あなたになら裏切られてもいい。

 そう思えるくらいには、信頼してしまいました。


 長くなってごめんなさいね。

 これから日記を続けるかは鶴舞さんに決めてもらいたいけど、もし止める方を選択したとしてもやっぱりコレだけは返して欲しいかな。

 あなたの文字を、日々を、言葉を読み返すと、思わず微笑んでしまうくらい幸せな気持ちになれるから。

(そしてやっぱり、返ってきたコレに鶴舞さんの言葉が綴ってあったらもう、至上の喜びです)


 鶴舞 虹子様へ

 徳峯 千束より

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