第57話 卒業パーティー2
「こんなに人に見られるなんて初めてだ……」
会場中の視線を集めていると言っても過言ではない状況で、マクシミリアンは俯きそうになるのをグッと堪えた。
アレクシアは人に見られる事に慣れてはいるが、ゴージャスなドレスを着ているだけに居た堪れない気持ちは拭えない。
「ちょっと恥ずかしいけど……、マックスが私のモノって皆に知らしめる為にも見てもらいましょう?」
アレクシアが照れ笑いを浮かべながら見上げると、マクシミリアンは蕩ける笑顔を向けた。
周りからみれば見るに堪えない姿だが、アレクシアはうっとりとその笑顔に見惚れた。
「2人の世界に入り込むにはまだ早いんじゃないかな? まだダンスすらしていないんだぞ?」
2人が見つめ合っていたらオーギュストに声を掛けられ振り向くと、時が動き出したかの様に周りはザワザワと騒めき始めた。
「オーギュ兄様! シャルロット様、ドレスとてもお似合いですね」
異性にうっとりしているところを兄に見られて気まずいアレクシアは、さりげなく話題を変えようとシャルロットに話しかけた。
それを見抜いているのか、オーギュストはジト目をアレクシアに向けている。
「ありがとうございます、アレクシア様こそ神々しい程に美しいです。同性の私でも見惚れてしまうくらいですもの、マクシミリアン様は幸せ者ですね」
「そうですね、今でも時々朝起きて全て夢だったんじゃないかと不安になります」
シャルロットの言葉にマクシミリアンは真顔で答えたので、アレクシアとオーギュストは苦笑いを浮かべた。
そうこうしていると会場にテオドール王子が到着し、開会の挨拶をすると音楽が流れ始めて皆がダンスを躍る。
アレクシアとマクシミリアンも当然共にファーストダンスを踊った、体幹が鍛えられているマクシミリアンのダンス姿は美しく、アレクシアは踊りながら見惚れた。
婚約者である2人は2曲目も連続で踊った、1度でいいからアレクシアと踊りたいと狙っている男性陣の視線を受けながら。
その男性達の1人にテオドール王子も入っていた。
2曲目が終わると普段ならすぐに3曲目が演奏されるはずが、演奏が止まったままになっている。
そんな中アレクシアの前に緊張した面持ちのテオドール王子が歩み出た。
「アレクシア嬢、1曲お相手願います」
普段と違う言葉遣いで片膝をついて請われ、戸惑ったアレクシアはマクシミリアンを見たが小さく頷いたのを見てテオドール王子の手を取った。
テオドール王子がホッとした顔で立ち上がると3曲目の演奏が始まった、どうやらこの為に演奏を止めていたらしい。
「アレクシア、その、王宮ではすまなかった……。もう知っているだろうがあの時王配を求める王女の話が俺のところに来たんだ」
テオドール王子は流石王子だと思わされる優雅なリードでステップを踏みながら懺悔する様に言った。
「あの後……お話を聞きました」
「焦っていたとはいえ悪かった、今は既に正式に未来の王配として婚約が内定した。だからせめて今夜はお前と踊りたかったんだ……。他国に行ってしまえばそんな機会も無いだろうからな」
「テオドール様……」
寂しそうに話すテオドール王子に、あの時はやり過ぎてしまったかなと反省するアレクシア、ここで突っぱねるのは流石に大人気ないので心残り無く国を出られるように許す事にした。
「踊ってくれてありがとう」
曲が終わりテオドール王子の手が離れた。
「あの、テオドール様、あの時の事は許して差し上げます。その代わり……幸せになって……いえ、幸せになる努力をしてくださいね」
「ああ、わかった」
最後にスッキリした笑顔で立ち去ったテオドール王子は、他の令嬢達が思い出作りの為にと次々にダンスに誘っている。
それを見送っていたら複雑そうな顔のマクシミリアンが肩に手を置いた。
「少し休もうか、2階のテラスなら人も少ないだろう」
「ええ、実は足が疲れてしまっていたの」
講堂の2階は会議室などがあり、1階のフロアの天井が高い分テラスにいると騒めきが遠くなる。
パーティーが始まって時間がそれ程経っていないせいかテラスに他の人影は無かった。
ダンスをして火照った身体に春の夜の少しひんやりした風が心地良く、アレクシアはうっとりと目を閉じた。
「風が気持ち良……」
隣に立つマクシミリアンに話しかけながら振り向いた瞬間、唇に柔らかなものが当たってアレクシアは言葉を失った。
何故かマクシミリアンも驚いたように固まっている。
「「…………」」
唇が触れたまま数秒が経ち、お互い見開いたままの瞳が瞬きをした瞬間マクシミリアンが真っ赤になって飛び退いた。
「す、す、すまない……! その、頬にキスしようと……思っ……て……」
(殺されるー! マックスに萌え殺されるぅー!! さっきのタイミングで振り向いた私グッジョブ!! 一生2人の会話のネタに出来る思い出の初キスやん!! この話する度にマックスの照れ顔見れるやろ、コレ!)
恥ずかしさと照れ臭さで赤くなっているマクシミリアンと、興奮と喜びで頬を染めるアレクシア。
ふと、テンパっているマクシミリアンを見てキスの感触も吹っ飛んでいるのではないかと心配になった。
アレクシアはドキドキしながらも動揺して目が泳いでいるマクシミリアンの袖をクイクイと引っ張り、意識を自分に向けた。
「マックス……、さっきのは失敗……という事よね? それじゃあ……やり直し、しましょ?」
アレクシアはそう言うと、目を瞑り軽く上を向く。
閉じられた瞳に震える睫毛を見て、マクシミリアンは吸い寄せられるように柔らかな唇にそっと口付けた。
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