第26話 入学式

「おはよう、アレクシア、リリアン嬢、レティシア嬢」



「おはようございます、オーギュ兄様」



「「おはようございます、オーギュスト様」」



 翌朝、オーギュストと約束をした男子寮と女子寮の合流地点へと向かいながら、マクシミリアンがいるのではと密かに期待していたアレクシアは、オーギュストが1人で待っているのを見て内心ガッカリしつつも笑顔で挨拶した。



(友達って言うても毎日一緒に登校しとるとは限らんしな、でも入学式会場ならマクシミリアン様もおるやろ! カメラあったらオーギュ兄様に頼んで写真ゲットするのになぁ。スマホがあったら間違いなく)



「リリアン嬢、セザールは生徒会の役員として準備しなければならないから、先に行くと言っていたよ」



「元々一緒に行く約束はしていませんでしたから、問題ありませんわ」



 セザールとオーギュストの仲はアレクシアによる意識改革のお陰で見た目よりも能力重視になった事により、好んで近づいては来ないが、オーギュストの実力を認めてお互いを呼び捨てにするまでになっている。

 ほんの少しだがポテチのお陰かレティシアやクリストフ同様、顔の輪郭がふっくらとしてきた事も手伝っているのかもしれない。



 敷地内とはいえ、寮から入学式会場の講堂までは5分以上歩く。

 その道中4人はずっと好奇の目に晒されていた、羨望と値踏みと嫉妬と興味、そしてオーギュストとレティシアに向けられる蔑みと『あの程度の容姿で』美少女2人と共にいる事に対しての嫉妬だ。



「あ、セザールお兄様」



 講堂の入り口に机と椅子があり、セザールと数人の学生が新入生にプリントを渡していた。

 リリアンが呼んだ事によって4人に気付いたセザールがプリントを3枚持って近付いて来る。



「おはよう、アレクシアはまた綺麗になったようだな」



「おはようございます、セザール様。セザール様はまた背が高くなられたようですね」



 アレクシアの背が低い事もあり、セザールとは軽く頭ひとつ分は身長差があった。

 マクシミリアンは背が高いという印象だが、セザールは横幅もある分侯爵令嬢のベアトリスよりも圧迫感がある。



「はは、まだまだ伸びている最中さ。それより入学おめでとう、今日の予定表だ」



「ありがとうございます」



 アレクシアは差し出されたプリントを受け取り、セザールはリリアンとレティシアにも渡すと、おめでとうと声を掛けた。



「もうっ、お兄様ったら妹より先にアレクに声を掛けるなんて、順番を間違っているのではなくて?」



 リリアンが頬を膨らませて唇を尖らせ、不服を主張する。



「ははは、そう怒るな、リリアンは怒った顔も可愛いが笑った顔の方がもっと可愛いぞ」



 イケメンの自覚があるからかサラリと気障な言葉がポロポロとセザールの口から溢れ、その度に周りの女生徒達から黄色い声が上がっていた。



「それじゃあ私は生徒会の仕事がまだあるからここで。オーギュスト、席までのエスコートを頼んだぞ」



「ああ、わかってる。じゃあ行こうか」



「ええ、セザール様、お仕事頑張って下さいね」



「お兄様、また後で」



「失礼致します」



 ニコニコと4人を見送るセザールは、あのラビュタン家のお茶会で見せた傲慢ごうまんさがすっかり無くなっていた。

 ウイリアムが卒業した現在、既にセザールの人気は王族と肩を並べている。



 最高学年には王太子のジェルマンが居り、すぐ下の学年にセザールと第2王子のテオドールが居る。

 王族は公務がある為、生徒会には所属しないが特別枠で運営には携わっているので従兄弟同士で共に居ると女生徒達の視線を釘付けにしてしまう。



 地位、能力、人格に定評のある紳士であり、俺様気質だがリーダーシップがあると捉える事も出来る見目良いテオドール、傲慢なところも多少あるが容姿に拘らず実力を認める事の出来る学園でイケメン3人衆の1人セザール。



 ちなみに生徒会長もイケメン3人衆の1人で、もう1人は2年生に居る。

 テオドールはイケメン認定はされているが、残念ながらセザールと並んでしまうと明らかに見劣りしてしまうのだ。



 アレクシア達はオーギュストに案内された新入生の席で、周りと会話しながらそんな話を聞く事が出来た。

 やはり人気男子生徒の話は姉が居る令嬢が詳しいので、その令嬢は他の令嬢からも質問攻めにされていた。



 入学式では学園長の挨拶や担任の紹介、生徒会長の挨拶もあり、生徒会長はお茶会で見た事のある愛嬌のあるぽっちゃりさんだった。

 アレクシアはそんな事よりさり気なく視線を巡らせてマクシミリアンを探したが、残念ながら見つける事は出来なかった。



 が、神はアレクシアを見捨てなかったようで、入学式とホームルームが終わり寮に戻る途中でマクシミリアンを見掛けた。

 声を掛け様とした時に振り向いたのでニコリと微笑んだ瞬間、何と会釈をして脱兎の如く姿を消してしまったのだった。



「く……っ、メタルなスライムか!」



 アレクシアの口惜しそうな小さな呟きは春の風にさらわれて誰にも聞かれる事は無かった。

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