第24話 入寮式

 先に搬入されていた荷物をニコルが片付け、夕食の時間が近づいた頃にアレクシアの部屋にノックの音が響く。

 ニコルが対応に出るとそこにはリリアンがメイドを従えて立っていた。



「アレク! お久しぶり、今日からお隣だからよろしくね」



「リリアン、こちらこそよろしくね! お隣だなんて凄い偶然ね、嬉しいわ」



「うふふ、偶然だなんて……。お父様にお願いしたに決まってるじゃない」



 ファサッと肩に掛かる髪を払い退けながらドヤ顔をキめるリリアン、相変わらずの我儘お嬢様っぷりにアレクシアはカクッとコケそうになる。



「わたくしが到着した時レティを見掛けたわ、彼女も今日から入寮するみたいね。明日の夕方には入寮式があるから必ず顔を合わせるでしょうけど、夕食を一緒にどうかしら?」



「そうね、一緒に食べましょう」



「決まりね! ミラ、私達は先に食堂へ向かうからレティに伝えてちょうだい」



「かしこまりました」



 ミラと呼ばれたリリアン付きのメイドは一礼すると、レティシアに伝言を伝えるべく階段へと向かった。

 部屋の前には名前が表示されているからすぐに部屋を見つけられるだろう。



 リリアンとアレクシアが共に食堂へ向かうと2人の姿を見た寮生とそのお付きのメイド達が騒ついた、公爵令嬢だったら部屋に食事を運ばせるのが普通で、しかも美少女が2人並んでいるせいだ。

 しかも片方……アレクシアは初めて見る者は大抵息を飲んでしまう程の女神のような容姿をしている。



「お嬢様方、あちらのお席が空いております」



 ニコルに促されて席に着くと、ニコルが食事を受け取りに行った。

 100人程入れそうな食堂には丸テーブルがいくつも置かれている、学園と寮の運営は国費と寄付で賄われている為、貴族と同じ物を平民もお付きのメイドも食べる事が出来る。



「お待たせ致しました」



 ニコルがカートに食事を乗せて運んで来た、寮の食堂なだけあってトレーに乗せられるタイプになっている。

 テーブルに準備をしているとミラに連れられてレティシアがメイドと一緒に現れた。



「リリアン様、アレク、お久しぶりです。食事に誘ってくれてありがとうございます」



「レティ、わたくしの事も様を付けなくて良いと言ったでしょう。これからは言葉遣いもアレクと同じ様で良くってよ、同じ学園の同級生な訳ですし」



 リリアンは澄ました顔でレティシアに言っているが、1人だけいつも丁寧に対応されている事を寂しく思っていた事をアレクシアは知っている。

 戸惑うレティシアにクスクス笑いながら頷いて見せる。



「うふふ、本人が良いって言ってるからそう呼んであげて? その方が仲良しって感じがするものね?」



 アレクシアはそう言ってリリアンにも笑顔を向けるとリリアンは拗ねたように頬を染めていた。



「別に……、感じがしなくても私とあなた達は仲良しじゃない……」



(デレた! リリアンがここまでデレるとかめっちゃ珍しいな! やっぱ公爵家から離れて学生っちゅう身分になったせいかなぁ? こういう可愛いとこ見せられたら婚約者もすぐに決まるやろうに)



「ありがとうございます……あ、ありがとう……リリアン……」



 照れ臭そうにはにかみながらリリアンに笑顔を向けるレティシア、食堂の中にはそんなレティシアに悪意ある視線を向ける者は少なくなかった。



 女神のように美しいアレクシアと、王族に次いで身分の高いリリアンと親しくしているのが伯爵家とはいえ、2人と並ぶには烏滸おこがましい見た目なのだ、故にそれも仕方ないと言えるだろう。



 レティシアはそんな視線に気付いて萎縮していたが、リリアンは素で気付かず、アレクシアは敢えて無視して3人で食事を楽しむ。

 付き合いが長いとわかるような会話を挟み、レティシアの後ろには2人がついている事をアピールした。



(これでかなりマシになるやろけど、まだ絶対の安心には程遠そうやな。レティのとこのメイドさんにも言うて報告してもろた方がええやろ)



 既に顔見知りになっているレティシアの専属メイドのマリーに、何かあれば報せてくれるように言っておいた。

 マリーは準男爵の娘でこの学園の卒業生でもあるので心強い味方だ。



 翌日にはお茶会で顔馴染みになった面々とも言葉を交わし、さりげなくレティシアが心配だと伝えて味方を増やした。

 令嬢達はお茶会では初めの頃こそレティシアに対してよそよそしかったが、控えめで優しい性格の良さを知って今では受け入れてくれている。



 そして夕食を終えて入寮式の為にサロンに皆が集まった、最高学年の寮長が歓迎の挨拶をしているが妙に落ち着かないようだった。

 ふと視線を巡らせると寮長の側に嫌な視線をこちらに向ける人一倍横幅のある令嬢が立っていた。



「あ……っ」



 レティシアが小さく声を上げ、カタカタと震え出す。

 その状況にアレクシアは視線を向けるその令嬢が誰かを思い出した、ベアトリス・ド・ポンポンヌ侯爵令嬢、初めてリリアンの家でのお茶会に参加した時レティシアを虐めていた令嬢であった。

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