第14話 ポリニャック兄妹とお茶会

「ではゆっくり楽しんでいってね」



「はい、ありがとうございます、クリステル様」



 開かれたサロンのドアからポリニャック兄妹きょうだいが入って来ると、会話しつつここまで案内してきた母のクリステルが去って行った。

 セザールは猫を被って立派な紳士の如く対応していたが、アレクシアはお茶会やポリニャック公爵家に遊びに行った時に横柄な態度を見ているので騙される事はない。



 クリステルの姿が見えなくなると、セザールはまずウィリアムに向き直り挨拶を始めた。



「お久しぶりですウィリアム様、今日はよろしくお願いします。アレクシア嬢は相変わらず美人だね、そちらが噂の弟君かな?」



(お前は番組のMCか! 客やのになんで場ぁを取り仕切っとんじゃ! しかもさり気にオーギュ兄様の事シカトしとるし)



「初めまして、ぼくはエミール・ド・ラビュタンともうします。セザール様、クリストフ様、リリアン嬢、いごおみしりおきくださいませ」



 内心憤慨ふんがいするアレクシアをよそに、エミールが緊張しながらもきちんと挨拶をした。

 エミールのたどたどしくも愛らしい挨拶に、ポリニャック兄妹は相好を崩す。



「まぁぁ、なんて可愛らしいんでしょう! 流石アレクの弟ね、上手にご挨拶出来て偉いわ、もぅ連れて帰りたいくらい可愛い!」



 テンションを上げるリリアンの「連れて帰りたい」発言を聞いてエミールは隣に立つアレクシアのドレスの裾をギュッと握った。



(真に受けとる! エミール……リリアンの言葉でめっちゃ不安そうにしとるやん、可愛過ぎるやろ……!)



 アレクシアは今すぐ抱き締めたいのを我慢して、クスクス笑いながらエミールの頭を撫でた。



「エミール? 本当に連れて帰られたりしないから安心しなさい。ずっと一緒にいたいくらい可愛いって言ってるだけだからね。いくらリリアンでも私の大事な弟を渡したりできないわ」



 そう言われてアレクシアとリリアンを不安そうに見比べるさまを見て、リリアンは口元を押さえてプルプルと悶えている。

 普段こんなに人に興味を示す事は少ないが、親友と呼べる程仲の良いアレクシアと似ているせいなのかもしれない。

 最初は不安そうにしていたエミールだが、大好きな姉とも似ているリリアンに可愛がられ、小一時間もした頃にはすっかり懐いていた。



 結局お茶会は長男同士が2人で話し、オーギュストが残りの弟妹達のお世話係の様な形になっている。

 しかし時々聞こえよがしに大きくなるセザールの会話は「醜い弟がいると肩身が狭い」だの「暗い奴が居ると家の中まで暗くなる」だの『醜い弟を持つ兄あるある』を楽し気に話していた。



(あかん…、そろそろ我慢の限界や。ウィル兄様は前やったら一緒になって笑っとったかもしれんけど、オーギュ兄様が普段から努力しとる事も知っとるからドン引きしとるやないか! 公爵家の令息やからツッコめへんだけって事に気ぃついて無さそうやし)



「ちょっと失礼するわね、セザール様にお庭を案内して差し上げたいの。後で皆も一緒に行きましょうね、セザール様はきっと皆とは違う所がお好きだと思うから先にご案内してくるわ」



 セザールを案内すると言った途端にリリアンがムッと眉根を寄せたが、先手を打って後で一緒にと言ったら眉間からシワが消えた。

 実際セザールとリリアンは好みが全く違うせいだ。



「仕方ないわね、ちゃんと後で案内してね?」



「もちろん! エミールと3人で手を繋いでお庭を歩きましょう」



「やったぁ」



 素直にエミールが喜ぶ姿を見て周りが微笑んだが、オーギュストだけは何の為に庭へ行くのか知っているだけに心配そうにしていた。

 そんなオーギュストの表情を見てアレクシアは微笑みかける。



「大丈夫ですって、すぐに戻って参りますから3人のお相手よろしくお願いしますね?」



 安心させるようにオーギュストの肩をポンポンと叩いてセザールとウィリアムの方へ向かう。



「お話中失礼します。セザール様、よろしければ2人でお庭を散策しませんか? 私に案内させてください」



 アレクシアは心の内を見事に隠し、ニッコリと微笑んだ。



「アレクシア嬢が案内してくれるのか? 喜んで!」



 にこにこと愛想の良い笑顔を見せるアレクシアにセザールはふたつ返事で頷いたが、ウィリアムは細い目を見開いて固まった。



 幼いながらも肘を曲げて差し出しエスコートをしようとするセザール、アレクシアはにこにこしたままスルリと手を掛けると庭へと誘導する。



「セザール様ならあちらのお庭の雰囲気がお気に召すかと……。区画によってテーマが違いますからお好みを教えて下さいね? あ、護衛の方々はここまでで結構よ、この先はここを通らなければ入れませんもの」



 さり気なく護衛を遠ざけ、何気ない会話をしつつ庭の奥の子供の身長だと完全に隠れるくらいの庭木で作られた迷路へと入って行く。

 中心まで行くとそれなりの大声でないと庭木に声が吸収されて聞こえにくくなっているその場所へとアレクシアは獲物セザールを引き入れた。

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