美醜逆転！？ ぽちゃり令嬢のビボー録【完結】

第3話 昼食

　果実水を飲んだアレクシアが2人の兄と話をしていると、クゥ……と可愛い音が聞こえた。

「はは、アレクシアはお腹の音まで可愛いな。もうお昼の時間だし、食堂に行くか？　それとも部屋に運ばせようか？」

「もう大丈夫だから食堂へ行くわ。今日はまだエミールに会っていないし」

　１歳になったばかりのラビュタン侯爵家の三男であるエミールは、夜泣きするという理由で離れで暮らしている。

　朝は眠っていたようで朝食には姿を見せなかったため、今日はまだ会っていなかった。

「そうか、じゃあ僕がエスコートするよ。お姫様、お手をどうぞ」

　ウィリアムが優雅に腰を曲げて手を差し出した、アレクシアは内心ぽっちゃりなウィリアムよりオーギュストがやった方が絵になるのになと思いながら、そっと手を重ねて食堂へ向かった。

「目が覚めたのねアレクシア、良かったわ」

　食堂の前でホッと胸を撫で下ろす母のクリステルに会った、その後ろにはエミールを抱いた乳母が控えている。

　クリステルはまだ27歳でありながら既に4人の母である、アレクシアの１番古い記憶にあるクリステルは既（すで）に妊娠していたせいかずっとぽっちゃり体型のままだ。

　アレクシアと似て少々残念な顔をしているのに、恐らく痩せればオーギュスト並みのイケメンの父親が猛烈アプローチして結婚したらしいと記憶していた。

　きっと優しくおっとりした癒し系な雰囲気に惚れたんだろうとアレクシアは思っている。

「心配かけてごめんなさいお母様」

　いきなり幼い娘が倒れたら心配しただろうと、アレクシアは申し訳なく思いながら謝罪した。

　するとクリステルは目を見開いて息を呑んだ。

「まぁまぁまぁ！　素直にごめんなさいが言えるようになるなんて、アレクシアはすっかりお姉さんになったのね！」

（ぐっ、確かに今までの私やったら全てやってもろてあたりまえ、ありがとうとごめんなさいを言わへん子ぉやったけどさぁ…）

　地味に精神的ダメージを負いながらも笑って誤魔化しながら、エミールに視線を向ける。

　するとエミールはアレクシアに握り拳を伸ばして眉を吊り上げて声を上げた。

「アー！　おっおー！」

　まだ何を言っているのかわからないが、とりあえず「アー」はアレクシアだと思われる。

　今までのアレクシアはチヤホヤされていた末っ子の座を奪われたという事もあり、あまりエミールを可愛がって来なかったせいか好かれていないようだった。

「エミールはさっきの雷大丈夫だった？　アレク姉様と一緒に食堂まで歩きましょうね～」

　ウィリアムの手からスルリと手を抜き取り、乳母にエミールを下ろしてもらうと手を繋いで食堂へ向かう。

　エミールは歩けるのが嬉しいのか、にこにこしながらヨチヨチと歩き出した。

「うふふ、あんよは上手、あんよは上手、しっかり歩けるようになってきたわねぇ」

　そんな2人を周りはポカンと見ていたが、メイド長のアニーが真っ先に正気に戻ってサッと食堂の扉を開けてくれた。

（やっぱ、このくらいのしゃべれん子供って犬猫と同じくらい癒しやんな～、しっかし私ほどや無いけどエミールも結構残念な顔やなぁ。今はまだ赤ちゃんやでブサカワやけど）

　アレクシアは自分と同じような黒髪に兄達と同じ茶色の瞳、そして丸々とした凹凸が控えめな顔に細い目の弟に少し同情した。

　父親はお城で文官をしているため、家族5人で食事を始める。

　ちなみにアレクシアの料理は他の人とは違う、香辛料をふんだんに使う事がステータスと言わんばかりの貴族料理が苦手なので、エミールと同じくらい薄味になっている。

　しかし美味しくないと食べないので、料理人達は苦心の末に出汁をとって味に深みを出すという事をこの国で初めてやってのけた。

　余談だがアレクシアの口に合う料理が作れるようになってから数ヶ月後、海に面した国では当たり前に出汁を取る文化があると知った料理長は膝から崩れ落ちたとか。

「それだけ食欲があるなら大丈夫そうね、やっぱりあの雷に驚いただけだったんでしょう」

　出された食事を平らげたアレクシアを見てクリステルは安心して微笑んだ。

「あ、そうそう。誕生日の2日後からアレクシアの家庭教師が来るから頑張ってお勉強するのよ？」

「わぁ！　じゃあ色んなことをお勉強できるのね、楽しみだわ」

　まだこの屋敷の敷地から出た記憶が無いので、この世界の事を色々学ぶチャンスはありがたいとアレクシアは素直に喜んだ。

「えぇ！？　アレクシアは勉強が好きなのか？」

　ウィリアムが驚いて顔を引きつらせた、既にウィリアムと共に家庭教師から学んでいるオーギュストも同意とばかりに頷いている。

「だって、知らない事を知るのって楽しいじゃない？　まぁ…覚えるのは大変そうだけど…」

「大変だぞ～、貴族の名前や国内の地名、他の国の名前に名産品、そして国の歴史もあるしな…」

　給仕された食後の紅茶を飲みながらウィリアムが苦虫を潰したような顔で覚えるべき事を指折り数え、隣ではオーギュストも同じ様な顔をしていた。

　知る為の勉強はしたいが、それを暗記しなければならないとなると話は変わってくる。

　他にも淑女として覚えなければならない事がクリステルの口からツラツラと出てくるのを聞いて、アレクシアはそっとため息を吐いた。