第51話:初陣。



 1回戦の試合が全部終わって、2回戦までの間に10分の休憩が取られた。


 トーナメントの左側の山に居る、同じクラスのバスケクラブメンバーのチームと球技系クラブメンバーのチームは順調に勝ち進んでいる。

 中でもバスケクラブメンの方は圧倒的な力を見せ付けていて、決勝まで行ったら当たるのはこのチームかも知れない。


 2回戦からは左の山と右の山の1戦ずつをして行く事になっていて、第1試合の私たちは直ぐに出番なので、5人で集まって、今の内にと体育館のふちっこでウォーミングアップをしている。

 チームで輪になって座って柔軟をしているけれど、やっぱりユカリだけ身体が硬い。

 ……これでも、前よりは大分柔らかくなってはいるのだけれども。


「ユカリさん、押した方が良いですか?」

「べ、別に要らないわよ! ほら、こんなにも痛い痛い痛い痛い!」


 態と皆に聞こえる程の声で言って、ユカリの返事を聞き切る前に押してあげると、ユカリは大袈裟に痛がった。

 チラっとクラスメイトたちを伺うと、『また始まった』と呆れ顔。

 ……だから、お願いだから吹き出さないでね、アヤカも、カナコも、シオリも。




 ピー!


 第2回戦が始まるホイッスルが鳴った。

 私たちのチームの初陣。

 ジャンプボールはアヤカの圧勝。

 ユカリがそのボールを取りそうなのを見て、相手の奥に走り込んで振り返った処にパスが飛んで来た。

 相手の子たちは誰をマークする訳でもゴール下を守る訳でも無く全員でボールに群がっていた様で、私、どフリー。


 ……良いや、このまま打っちゃえ。


 ポスン。

 ボールは静かに籠をくぐった。


 チラっと同じクラスの人たちの様子を見てみたけれど、皆の視線はもう一つのコートに集中しているみたい。

 ……仕方無いか、あのバスケクラブチームがやっているし。


 相手のスローインで始まったけれど、直ぐに受け取った子がドリブルをミスしてボールは私の足元に転がって来た。


 この子たちは純粋な文化系で押し付けられた組かな、どうしようかなと拾ったボールをその場でつきながら考えていると、

「ミカさん、アヤカさんにパスで!」

とユカリの声が響いた。……ユカリちゃん、りょーかい。

 私が無言で頷くと、アヤカとカナコとシオリも頷いた。

「分かっているから!」

と苛立っている風の返事をして、アヤカにパスを通す。


 ……今のユカリの言葉は、予め決めておいた、走り込み少な目でパスで回す体力温存策の合図。

 それは、『パス“で”』と言った場合。普通のパスの指示は、『パス“を”』と言い分ける様に決めてある。

 そりゃ、私だって出来る事なら全試合、全力で当たりたい。その方が、何も考えずに楽しめるし。

 でも、決勝まで勝ち進んだとして最大4戦。普段鍛えてはいない分、流石の私たちでも体力や筋肉には限界が有るから。

 しかも決勝で当たるのが最低で運動系クラブメンチームと来たら、『獅子は兎を狩るのも全力を尽くす』とか、綺麗事を言っている場合じゃない。

 因みに、その逆で全力で走り込んだりする場合は指示に単純に“走って”が入っていた時。


 ユカリの声に見物人の目の多くがこっちのコートを向いた中、緩やかなドリブルからのアヤカの綺麗なレイアップシュートが決まった。


 ……皆、アヤカの良い処、ちゃんと見てくれていた?




 全力を出したらこっちのチームと相手のチームの力の差は、明らかな様な気がする。

 そんな中で大差で勝ったからと云って、チームメイトたちを良く思わない人たちに『いじめだ』と言われる可能性こそ有れ、誰からの評価も上がる事は無いと思い、パスワークの指示を維持している。

 お互いに緩慢な動きをしている中で相手が積極的にボールを奪いに来る分、良い試合をしている様には、……見えないかな、やっぱり。

 相手のチームの子たちも、最初のミカとアヤカのシュートで全てを悟って諦めている感じが有るし。


 因みに審判をしている先生も、8秒ルールや3秒ルール等の秒数ルールも左の山の試合では普通に取っていたのに、こっちでは何秒経とうと何も言われない。

 取ってしまったら、相手のチームがボールを持っている時はそればかりになってしまいそうだけれど。


 ……尤も、うちのチームは勝手にそれを意識してやっているのだけれども。

 トーナメント表がこうハッキリと分かれてしまった以上、私たちの目標は、決勝まで行って良い試合をする事にアップグレードされているのだから。




 試合は結局、私たちの圧勝。

 挨拶をして相手の子たちと握手とかするけれど、見物人からは「ですよね」って云う感じで、疎らな拍手が有るだけだった。


 もう一つのコート、勝ち上がったバスケメンチームと、良い試合をした相手のチームには、惜しみない拍手が送られていた。


 ……うん、仕方無い、仕方無い……。

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