第26話:明治村2丁目の赤レンガ通り。



 森鴎外や夏目漱石なんかの文豪の作品をミカに読ませるにはどうしたら良いんだろう。

 あの辺りの文体に慣れないと、この後、絶対に国語の成績まで落ちてしまうし。

 舞姫なんかは、ミカも好きそうな内容なのだけれども。

 漱石は、……取り敢えず、吾輩は猫である、かな。

 ……私が『面白かったから読んで!』って渡したら、案外素直に読んでくれたりしないかな。

 石にくちすすぐ漱石と違って、ミカは素直なのだし。




 ……何かユカリが、森さんと夏目さんの名前を憶えていない私に呆れて、その人たちの作品を私に読ませるにはどうすれば良いのか考え始めている気がする。

 どうしてかって言うと、何かユカリの視線が上の方に向いているし。……突っ掛けて転んだりしないかな?

 いっそ、言われるよりも先に読んでしまおうか。

 昔の人たちだし、きっと、古本屋とかに売っているよね?

 どんな作品が有るんだろう。

 ……ひょっとして、ユカリは持っていたりするのかな?

 ……私が『読んでみたいから貸して!』って言ったら、驚いちゃうかも。

 あっ、有名な『月が綺麗ですね』って、確か夏目さんだよね? 何て作品かな?


 アヤカとシオリとカナコの3人は、私たちの前を2丁目に向かって元気良く段に整えられている坂を下りて行っている。

 ……結局3対2に分かれてしまっている気がして、何だか良くないな。

 さっき皆が言っていた様に確かに仲良くなり過ぎると妬いちゃうけれど、仲良くしているのを見るのも幸せなんだから。

 でも、変に策を企ててもおかしな感じになってしまう気はしている。

 ……先は長いんだし、しばらく様子見かな?




 色々と考えている内に、2丁目に着いていた。

 入村してからはミカの事ばかり考えていて、余りアヤカたちと仲良くなれていない気がする。

 まあ、こう云うのは焦っても上手く行かないものだし、暫くは様子見かな?


 2丁目は赤レンガ通りが真っ直ぐに伸びていて、その周りに学校や銀行、電話交換局だとかの明治に出来た施設の建物が立っていて、昔ながらの日本建築と洋風建築が共存している。

 所謂いわゆる、和洋折衷ってやつ。


 それで、皆の目的は、……ああほら。

 私とミカの方をちらっと見て、安田銀行会津支店に、……“ハイカラ衣装館”って大きく看板に書いてある所に入って行った。


「ねえねえユカリ! 着てみてよ!」


 後に続いて入った私の手を取って、シオリが懇願して来た。

 ……あれ? でも……。


「皆は着ないの?」

「えー、でもどうせユカリ程も似合わないし……」


 案の定、渋るアヤカ。

 ……っえいっ!


「えー、でも皆でお揃いの写真を撮りたいなー」

「「「着る!!!」」」


 ウルウルした上目遣いで言ったら、3人の声が揃った。

 可愛い。


「でも、皆でお金出してユカリに着て貰って、散策コースで色々写真撮ろうかとも思っていたんだけど……」

「お金使い過ぎちゃうし、それは無理だね……」


 人差し指の先を合わせて残念そうに言うシオリとカナコ。


「今日は記念撮影コースで皆でお揃いで撮って、また皆でお金貯めて撮りに来ようよ」

「「「来る!!!」」」


 私の提案に、3人は声を揃えた。

 可愛い。


 ハッとしてミカを見たら、とても嬉しそうな顔で私たちを見てくれている。

 可愛い。

 

 私は素直に幸せ者だと思う。




「じゃあ、申し込もう!」


 ユカリと皆が仲良くしている幸せに包まれながら、私がふわふわと記念撮影の申し込みをすると、衣装が幾つも並んでいる所に通された。

 その中から一着に着替えるらしい。


「あ、このピンクの桜のやつ、絶対ユカリに似合うよ!」


 シオリが早速見付けた良いやつをユカリに宛がう。

 うん、絶対に似合う。

 ……でも、黒髪ロングのユカリがあれを着たら……。


 と、私も探さないと……。

 ……あ、これとか良いかな。

 ユカリが桜なら、私は紅葉。


 私が決める頃には、アヤカもカナコもシオリも自分の衣装を決めていた。

 アヤカが桃色、カナコが赤色でシオリが黄色。

 うん、3人共、すっごくぴったり。


 ユカリは既に着替え終わっていて、その綺麗な黒髪を頭の後ろで大きな赤いリボンで結わいていた。

 ……うん、そうなるよね……。

 あのリボンは、あの華撃団のゲームにハマった時の私のプレゼントだから、私の責任だけどさ……。

 ……あのゲームの時代は確か大正だっけ。


 でも何でりにってあのリボンを持って来て……くれているのよ。

 

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