第23話 約束

 生徒達はいつも通りの空気を表面上は取り戻し、いつものように動き出した。

 そしていつものように入浴し、本を読んだりして過ごしてから、ふと、窓の下を見た。

「あ、ちょっと出て来る」

 均に言いおいて、悠理は外に出た。

 暗がりで1人、竹刀を振る人影があった。

「沖川さん」

 竹刀を下ろしたタイミングで声をかける。

「なんだ、敷島か。どうした」

「いえ。自主練しているのが見えたので。

 はい、どうぞ」

 スポーツドリンクを手渡すと、沖川は礼を言って受け取り、それを一気に半分くらい飲んだ。

「流石。食堂では見事に納めましたね」

「敷島のボケも見事だったな」

 沖川が返し、お互いに笑う。そして、悠理は訊いた。

「沖川さんも、唐揚げとビールの為に、戻って来るんですよ?」

 沖川は少し笑って、悠理を見た。

「何だ、心配か」

「ええ。ビールに合うのは唐揚げだけじゃないし、ビール以外にも美味しいのはあるんです。

 ええっと、そういう噂です。噂」

 悠理は付け加えて、沖川を見た。

「沖川さんは、いつも誰かの為に動いてるから。誰かを守るために俺達は確かにここにいる。でも、沖川さんだって、誰かに守られていいんですよ」

 沖川は悠理をじっと見返し、フッと視線を外した。

「敷島は不思議だな。時々、本当に何歳かわからない時がある」

「老けてるとかそういう意味ですかね」

 沖川はくすっと笑った。

「俺だって怖くない事は無い。お見通しだろ、どうせ」

 悠理は肩を竦めた。

「誰だってそうでしょう」

「あれは半分、自分に言ったようなもんだ。

 わかってはいたし、覚悟はしていたつもりだったんだけどなあ」

 沖川は空を見上げた。

 星がきれいに見え、波の音が聞こえる。

「子供にそんな覚悟をさせるとは、申し訳ない」

「敷島だってその子供だろうが」

 沖川が吹き出すのに、悠理も笑って返す。

「ああ……若年寄的に言ってみた?」

「へんなやつだな」

「はは。申し訳ない」

 視線が合い、悠理は念を押した。

「取り敢えずは実習。戻れよ。戻らなかったら、怒る」

「じゃあ戻ったら?」

「褒める?」

 沖川はふわりと笑うと、悠理の頭をくしゃりと撫でた。

「悠理」

「はい?」

「いや。皆そう呼ぶと思ってな。

 悠理は何か秘密を抱えているように見える」

 悠理は内心でギクリとした。

「まあ、秘密のひとつやふたつやみっつ、誰でもありますよ」

「ふうん?まあ、そういう事にしておくか」

 沖川はそう言うと、笑って、

「もう寝ろ。夜中になるぞ」

と、悠理を促して寮の玄関へ向かって歩き出した。


 その2日後。校区内に眷属が出現し、2年生は実戦に出た。



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