第12話 厄介な予感

 均は時計を見た。

「あ。悠理、また没頭してるな」

 ほかの生徒なら、友達の部屋で遊んでいてそのままそこに泊まる、というのもあるが、悠理に関しては違うというのを均は知っていた。

 ここの教室は、夜になると鍵がかかり、朝まで開かない。

 以前悠理は鍵がかかるまで図書室の個室にいて、退出時間の放送に気付かずにそのまま閉じ込められて朝まで個室で過ごした事がある。その集中力は凄いと思うが、褒めてはいけないと均は思うし、服部と沖川もそう言った。

 なので、ちょっと見に行って来ようと寮を出た。

「あ、待って下さい!」

 校舎に行くと、校舎の鍵を閉めようとする服部と沖川がいたので均は声をかけた。

「まさか敷島か」

 服部は均を見て、察した。

「へへへ」

 均は笑い、頭を掻いた。

「どうせ図書室だと思うんですよ。個室の方。今日は相当没頭してるのか、電話しても出ないから」

 そこで沖川が言った。

「いや、いなかったぞ?たまたま今日は俺も図書室に寄ったから、万が一と思って見て来た。でも、誰もいなかったから」

 それで服部と均もキョトンとした。

「ほかに敷島の興味を引くところってあったか?」

「ええっと、化学室は好きらしいけど生徒だけでは用がないと入れてもらえないし、生物準備室では人体模型をこの前熱いまなざしで見てたし、中庭では時々居ついた野良猫に触りたそうにして餌付けを狙ってるけど」

 服部は

「敷島って、変わったヤツだな」

と肩を竦めた。

「取り敢えず生物準備室にはいなかったな。さっきまで生物の先生と話をしていたから」

 服部が言うと、沖川が続ける。

「中庭にもいませんでしたよ。あ。

 わかった。見て来るから、鈴木はもう寮に帰っていろ」

 均は

「え、俺も行きますよ」

と言ったが、

「いや、説教のおまけつきになる。先に帰ってろ」

と言われ、素直に帰って行った。

 それを見送った服部が、面倒臭そうな顔付きで沖川に言った。

「で、何を思い付いた」

「個室の外で、2年生4人がうろうろとしていたんです。図書室で見かけない顔ぶれだったので記憶に残っていまして」

「ふうん。でも、個室には誰もいなかったんだな?」

「はい。中の1人が、ダンボール箱の乗った台車を押してました」

 服部と沖川は考えた。

「倉庫、会議室、保健室、色々あるな」

「手分けして探しましょう」

 2人は急ぎ足で校舎の中に引き返した。


「いたか!?」

「いえ!」

 片っ端から部屋を回ったが、無人か鍵がかかっているかだった。

「どこへ行きやがった?」

 服部がイライラと言う。

 校舎の地上階は見て回ったが、どこにもいなかったのだ。残るは地下だが、地下にあるのは、訓練のための広い武道場と射撃訓練場、武器制作室とその準備室だ。武道場も射撃訓練場も誰かがギリギリまで自主訓練しているものだし、武器制作室と制作準備室は、普段は鍵がかかっている。そもそもここは、一斉に武器の制作をする一時期と、武器が破損して修理するか作り直す時以外は誰も行かないし、鍵がかかっていて入れない。

「いや、来週1年は武器を作るんで、準備室に材料を運び込んでいたな。もしかしたら」

 服部と沖川は急いで階段を下りた。



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