茜色した思い出へ

おくとりょう

第0話 回るのは夕暮れ

 あたしは、つぅーんと人差し指を突っ立てて、ぐぅっと息を圧し殺した。その子を脅かしてしまわぬように。こぼれる笑いを噛みしめる。

 その子の目の前に、そぉーっと指を突きつけて、ゆっくり。くるくるくると回し始める。指先だけがぐるぐるぐると。指から下は像のように、じぃーっとじっと動かさない。

 素直なその子は指につられて、ぐるぐるぐると。頭もだんだん動き出す。ぐるぐるぐるぐる目が回り、ぐるぐる頭も回った頃にゃあ、丸い頭はぽろっと取れる。秋に木の実が落ちるように。枯れた花が散るように。

 そして、身体は飛び立った。


 あぁ、可哀想な子。あたしは思わず涙をこぼす。まさか死んでしまうとは。

 目尻から垂れたひとしずくは、頬を伝って流れ落ちる。何故か上がった口元へ。

 しょっぱい味を舌に覚えたあたしは、頭のないまま飛び立つ身体を見送った。どこまで飛んで行くのだろう。


 まるで日暮れの空のように、あたしの心は満たされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る