いつも

どもども

1部

ザッ、と土を雨が打ち、新芽が出始めた春に泥のにおいと湿り交じりの風を落とす。


カーテンの隙間から赤い傘をさしながら歩く小学生が見え、空は依然と黒い雲に覆われている。


ムーミンの絵がついている毛布をかぶり、机の横にかかっているカレンダーをパラパ

ラめくりながら赤ペンで丸を付けた日を探す。あった。


暗い日々にすこしだけ希望が湧いてくる。まだ八時。

ぐるんと足を回し、起き上って窓を開ける、雨の日なのに眩しい。


布一枚の床からはひしひしと冷たさを感じる。硬くなった節々に力を入れベットから起き上がると、そっとドアを開ける。


突き当りの廊下のすぐ横にポットとカップ麺が置いてある、すっかり日課のようになった素っ気ない動きに疑問すら感じなくなった。


「う、ぐん」と軽く咳払いをして目をシュバシュバさせながら歩く。


ちょっと髪を搔いてみたりして。


給湯器はただ「給湯可」のランプを光らせながら、じっとご主人様の帰りを待っているようだ。


私が会社を辞めてから2ヶ月がたった。


母には会社に行っていると言っているが嘘は続かないだろう。いつか家に来るかもしれない。


なにか学校生活に似てる。いっつも母さんに対して「部屋に入るなっ」って、。

カップをビニールから外しながら思い出す。


私は以前、建設会社で働いていた。そもそも働く意欲も乏しく、ただ早く仕事が終わる事を楽しみに生きてきた日々に私はふと心を病んだ。


この生活が永遠に続くと思ったからである。


給湯器横のセロファンテープで蓋を止め、鋭く息を吐き、固い体に染み渡るように空気を吸い込む。


地面に叩きつける雨音の中で遠くに子供の声とさえずりが聞こえる。廊下を抜け部屋に戻る。


パソコンの電源を入れ、すっかり打ちなれた「1101」を打ち込み、いつもより力強くエンターを押す。


もうそろそろいい頃だろう。1ヶ月前、とある文学賞に自分の作品を送っといたのだ。


「陶山涼子様

今回送って頂いた作品ですが、残念ながら

本戦への出場は見送らせていただきます。ますますの精進をお祈り申し上げます。」

 

機械的な返答に期待で目を開いてみた私がバカだった。


私が受かるわけないのだ。


というか今こんなに熱心じゃない時点で他参加者に負けているのかもしれない。


パソコンを閉じ、カップ麺を頬張る。

「頑張るって何なのかな~」この作品も結構な時間をかけて作った、これがいい転機になると思った、そんなチャンスをこのメッセージ一つが。

海に沈んでいく月光のように暗く、そして、消え果てさせたのだ。


文章を書くことは昔から好きだったが、なにか作品を書いたのが、自分ではないような、嘘に塗り固められているような感覚になる。


いつから私は目が濁ったのだろう。


そう初めて思った中学の時のような感じがする、遠くで薄れかけた記憶をぬぐう。


もういい、私は頑張ったのだ。無駄ではない、何もしないよりまだマシではないか、


そう言い聞かせベットに戻る。花柄の天井を見つめ、口までしっぽり毛布を掛けて目を閉じる。ないも変わりやしない日々に背を向けて。

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