ログイン31 動き始める中央の影

「単身で乗り込み、神の銅像に触れたと言うのか⋯⋯ ? 確か、あの場所に置かれている軍の指揮を執っているゴブリンキングは、噂の範疇を出ないが優にレベル30を超えると聞くぞ。それを、一人で撃破してみせたというのか——」


「それが、確かに疑う余地はなさそうだな、リーダー。でも、何度も言うが俺は直接この目でそいつを見ない限り信じないぜ? このヒール様は、そうやって今まで生きてきたからな!!」


 熱い視線をリーダーと呼ぶ男に送るヒール。だが、それは中央にいながらも、飄々と立ち振る舞う男によって、器用に躱されてしまう。交わる点を過ぎ去ってしまったそれは、行き場もなく大通りの中をしばらく旋回した後、ザキナのところに帰結した。


「はぁ、マジでうざったい男だよね、ヒールって。そんなんでよく私達のグループに入ろうと思ったね。正直な話、私はまだあんたのことを100パー信じているわけじゃないから。いずれ何か失態を起こすのはあんただと私は、信じて疑ってないよ」


 通りの逆側から放たれる棘のある一言。そのあまりの鋭さに、会話を聞いていただけのザキナですら、身を震わせてしまうほどであった。しかし、言葉を向けられたヒールは一切そんなことを気にしていないようだ。ガハハ、と口を大きく開けて笑い声を溢すと、そのまま開口したまま言葉を返す。


「む! 何を言っているんだよ、ボエミ! 俺のこの隆起する筋肉を見てくれよ!! これを見るだけで分かるだろう。俺がこの中の誰よりも裏切りを嫌う男だということがよ!」


「分かるわけねーだろ!! どこを見れば、そういう結論に辿り着くんだよ!!」


「筋肉を見れば分かるに決まってるじゃないか!! 筋肉は裏切らない!!!」


「ザキナさん、すいません。馬鹿共の集まりなもので」


「何を畏ってんだよ、チェム!! お前はさっきからちょくちょく賢ぶってるよな!? そんなに、俺たちのことを馬鹿にして楽しいのか??」


 その一言がチェムと呼ばれた男性の琴線に触れたのだろう。隣に立つヒールに冷たい視線を飛ばすと、サッと身体の後方に手を伸ばす。そして、今まで静かに背中で収まっていた剣の柄を、力一杯握りしめた。あまりの力の強さに握りしめた手の甲には、彼の血管が浮かび上がっているほどであった。


「お、ヤるのか!!??」


 その行動を目で捉えるや否や、ヒールも負けず劣らずの速さで背中に携えた大剣の柄に手をかけた。二人の間で交錯し合う視線が火花を散らす。その現場に流れる雰囲気はまさに一触即発。どちらかが先に剣を抜いてしまえば、どちらかの命が果てるまで戦いが続くことが容易に想像できた。


「いい加減にしておけ、ヒール、チェム。今の時点でこちら側の戦力を消耗するのは不毛でしかないことだと、いくら頭の疎いお前たちでも分かることだろう? 剣を納めろ、ザキナを困らせるような真似はするな」


 リーダー格の男が声をかけると、今まで張り詰めていた緊張感が徐々に発散していく。直後、合図があったわけでもないのに、二人は同時に剣の柄から手を離した。キンという音が静かに大通りに響く。五人とザキナを合わせた六人の髪の毛が、通りを吹き抜けた風に僅かに揺れ動き、同時に鳴り響いた金属音すら丁寧に吹き飛ばしていった。


 大通りに再び静寂が訪れる。それを心待ちにしていたように、中央に陣取っていた男の影が、ゆっくりと動き始めた。


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