ログイン29 五人の刺客?

 街灯によって照らし出される大通り。日中の活気はどこに行ったのやら。日が沈み始めた大通りには、路肩に張り巡らされた露店が各々閉店の準備を始めている。その作業音だけが辺りを支配していたが、その中に一つ異音が紛れ込んでいた。


カツンカツン⋯⋯


 大通りに広がる場違いなほど高くなる金属音。それは、最初こそ遠方から聞こえてきたが、時間が経つにつれて音は次第に大きくなっていく。それは、一定の間隔を刻み、それでいてどこか懐かしみを漂わせている。しばらく静寂を切り裂いた金属音は、突如として何かの合図を待っていたかのようにそれを消し去った。


 いや、正しくは動きを止めたと表現するべきか。夕日の伸びる五人の人影が、慌ただしさを体現する大通りの中で、何も急かされることなくその場に座り込んでいた。通りの右端、そして左端に二人ずつ並んで座り、それぞれが背中に武器を装備し、それに夕日を反射させている。

 

 そして、彼ら四人をまとめ上げるのが、正面に座りこんだ最後の一人だ。仮に、彼らのことを何も知らなくとも、一目見れば彼らの関係性に気づけるだろう。正面で口から丸めた葉っぱに火をつけ煙を上昇させる。


そんな彼は、この場に不相応な程の威圧感を放っていた。それは、空気をも振動させ、正面に立っているだけで自然と背筋が伸びるほど。目を隠すほどに長く伸びた前髪の隙間から垣間見える彼の青い瞳が、カレの瞳を貫く。それは、覗かせるだけで畏怖を生み出し、自らの心を冷たく凍りつかせるようであった。


 そんな彼が影響を与えるのは、何も見ず知らずの目の前に立つ男だけではない。辺りを固める彼ら。彼らすらも、正面に座る彼の一挙手一投足に細心の注意を図っているようであった。何もしていないように見せかけて、時折中央に視線を移しては、彼の言動を意識している。まるで——彼を出来る限り怒らせないようにしているかのように。


「準備が整ったのか? 神に逆らおうとする愚か者よ」


 向けられた目線を逸らすことが出来ない。何か言葉を紡がなくてはいけないと頭では分かっていても、上手く言葉が繋がらなかった。吐き出すように出た言葉は、真意からは、大きくかけ離れた言葉であった。


「神に逆らっているつもりはない。あるべき姿に戻すのだ。それこそが、神の洗礼が生み出された理由なのだから!」


「ふん! 調子のいいこと言っちゃってさ。 私たちだって、あんたらの手足となることで少なからず命の危機を晒しているわけだしさ。ちゃんと成功させてくれないと困るのよ。そこのところ、分かってる?」


「煩わしい音を出すな、ボメミ。我達の間でその内容を議論する段階は終わったはずだ。我々の王、ビエラお嬢様が認めた神の遣い人。まだ対面したことはないが、彼が現れるのを、我々は今か今かと待ち望んでいたではないか。彼にしか成しえない任務もあることだしな。それで、その件についてはもう伝えたのか? よ」


「まだだ。それを明日伝えようと思っているということを、お前たちにも伝えておこうと思ってな」


 ザキナはそう言うと、少し居心地の悪い靴の感触を、つま先と地面を数回ぶつけ合わせることで解消するのであった。コツコツという音が、静まり返ったこの場所に響き渡る。一方で、刻一刻と礼央と王国を巻き込む不穏な動きは、日の当たる場所を探して動き始めていた。

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