ログイン22 息が・・・できねぇ!!

「おい! その魚腐ってるんじゃないのか!? その魚を買って食ったやつが、死んだって話を聞いたぞ!!」


「へへへ。人聞きが悪いことを大声で言わないでくださいよ〜。その噂話、どこに証拠があるんですか?」


「じゃあ、どこでその魚を取ってきたの教えろよ!!」


「泥棒だ〜!!! ウチの野菜が盗まれた〜!!!!」


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 遠くに霞むように君臨する白と赤が入り乱れるように彩られた古城。建てられている土地が少し隆起しているからだろうか。少し、視線を上げなければその城の全容を拝むことはできない。


この王国を支配する王族が住んでいる城なのだろう。周りの建物と見比べてみても、明らかに異彩を放っている手の込みようだ。遠くから見てこれなのだ。近くから見ると、それがより鮮明に伝わるだろう。


人の手によっては作り出せないと思わせるような建造物の形をした神々しさ。それに加え、一日に何度も見上げてしまうほどの羨望のオーラが、そこからは途切れることなく放たれていた。


 その眼下に広がるのが、人々の声が止まない場所——城下町だ。中央に大きな街道が通り、両端に別れるように道が定期的に分岐しては、細い通路を伸ばす。中央の街道が行くつく先は、先程まで見上げていた城だろうが、左右の道が繋がる先に何があるのか、礼央には予想すらもできない。


 そのような物思いにふけらながら、現在礼央とビエラ、そしてザキナは、馬車を王国の入り口付近にあった停留場に止め下車。その後、そのまま直進をして街道を直進していた。


 街道を挟むように脇に伸びている屋台からは、絶え間のない掛け声が飛び交ってくる。意識せずとも、耳の空洞から忍び込んできては、礼央に頭痛という悩みをもたらした。あまりの煩わしさにいっそのこと、黙って欲しいと懇願しようかと思ったほどだ。


しかし、何食わぬ顔を浮かべながら、歩む足を緩めることがない二人を見た時。それが如何に小さなことで、無駄な労力であることだと思い知らされているようで、喉元まで出掛かった言葉を、唾液と共に飲み込んだ。これを何度か繰り返した結果、街道を埋め尽くす罵詈雑言に顔を歪ませながらも、礼央は歩く速度を更に早めるという行動に移ることにした。


「今日はまだ治安が良いみたいですね、ビエラお嬢様」


「えぇ・・そうね。少しホッとしているわ」


「これで治安が良いとか・・・この国の日常はどうなっているんだよ?」


 早歩きで周りの風景を後ろに流しながら、二人の僅かなやり取りに礼央は苦言を挟む。すると、歩く速度を遅くすることはないが、顔だけをビエラはこちらに向けてきた。


「後で、全てお話ししますから」


 あまりの小さな声は、周りの雑踏で危うくかき消されてしまうほど。それを聞き漏らさないように注意していると、いつの間にか前傾姿勢になっていたようだ。一番重たい頭が前に突き出す形で、バランスを崩していた礼央は、街道の僅かな段差に足を詰まらせた。


「おっと!」


 転びそうになる身体を、数回片足で跳躍させることでバランスを保とうと試みる。だが、それでは傾いた身体の軸を元に戻すのは困難だったようだ。前に移動する力を抑制することは叶わず、跳躍する距離が一歩づつ大きくなる。次第に、飛び跳ねる周期も早くなり、気がつけば少し前を歩いていた二人を、礼央の身体は追い越していた。


「レオニカ様!?」


「うわぁァァァ!!!!」


 ザァパパパン!!!!


 異変に気付いたザキナの声が、背中越しで聞こえた気がする。しかし、彼の声では、間近に迫った未来を変えることは力不足だったようだ。


勢いを殺しきれぬまま、直進を続けた先にあったのは地面との衝突——ではなかった。全身を覆い包み込む冷たい感覚に、呼吸が思うようにできない息苦しさ。酸素を求めて口を何度も大きく広げるが、入ってくるのはこの場を満たすであった。


「ブハァァ!!! はぁはぁはぁ・・・はぁ・・・。な、なんでこんな街のど真ん中に水が満たされてるんだよ!!!」


 水から顔を離し、足を底につけてその場から立ちあがる。驚きのあまり、着水の瞬間に水を飲み込んでしまったためか、喉の奥底に水臭さがこびり付いていた。だが、直感的に込み上げてきた言葉を、そのまま飲み込むことは礼央にはできなかった。

 



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