助けた彼女を引き連れて〜 いざ、新たな街へ! 〜

ログイン17 揺れる馬車、永遠の除け者

 ガタガタガタ・・・


 定期的な揺れに身体を上下に移動させながら、礼央は何も建造物がない平野を移動していた。命のやりとりを伴った戦闘が、終わった後とは思えない静けさに包まれている。外の世界と隔てる四人乗りの小さな小部屋を引きずる馬車の中は、紛れもない静寂が広がっていた。


乗客数は三人。礼央と足を負傷した少女。加えて、彼女の付き人と紹介された黒いスーツを身に纏った清潔感漂う老人が共に同じ振動に身体を揺らしていた。時折、彼から突き刺すような鋭い視線が、礼央に向かって向けられる。何か言いたそうなそれを、礼央は窓から外を眺めることで回避してきた。だが、どうやらその作戦の賞味期限がすぎたようだ。


「変わらぬ景色に目を向けるのも結構ですが、そろそろ私にあの森で何が起きたのか説明して欲しいのですが」


 静寂を破る彼の低い声が、馬車の狭い個室に反響する。特に説明することはやぶさかでは無い。だが、彼の持つ独特な空気感が礼央の口から言葉を発することを躊躇させていた。何というか、怒ってはいないのだろうが、学校で職員室に呼び出された時に感じる、何かやらかしてしまったかもしれない、という不安感。それを、猛烈に刺激してくるのだ。


「この人も神の遣い人なのよ、ザラナ。この世界を牛耳る、五つの王国の王たちと同じね」


「何と・・・それは本当ですか・・!?」


「えぇ。私はこの目でちゃんと見た。彼が誘いの森に眠る神物に触れて、その力を引き出している瞬間を。おとぎ話だけの話かと思ってたけど、私は信じていたわよね。こういった力を持つ救世主が必ず現れるって!」


「話の腰を折るようで悪いが、さっきから話しているその・・・神の遣い人・・?って何なんだ? 申し訳ないが、俺はそんな大層な身分を持ち合わせていないぞ。ただのそこら辺にいる男子高校生の一人だからな」


 ボルテージを増す彼女の隣で、話についていけず反比例のようにテンションが下がる礼央は、盛り上がる会話にいつの間にか口を挟んでいた。途中で遮られたことが不愉快だったのだろうか。それとも、何を今更と思ったのかもしれない。二人から向けられる目線には羨望の色と同時に、揶揄を笑うように柔らぐ雰囲気が立ち込めていた。


「またまたご冗談を。ビエラお嬢様が見たと話されるのであれば、私が疑うことはありません。あなたは、紛れもなく神物から力を引き出せる選ばれし人なのでしょう。あまりご謙遜をしなくてもよろしいのですよ?」


「いやいや!! 冗談とかじゃなくてな、本当にそんなすごい人じゃ無いんだって、俺は。この世界に来たのも、ほんの数時間前とか? そんなものだし詳しいこの世界の情報なんてものも、持ち合わせていないから!」


「それは——益々信憑性をあげてしまいましたね。ねぇ、お嬢様」


「真の神の遣い人は、突如としてこの世界に現れる。理不尽を超える強さを誇って。幼い頃から読んできたおとぎ話の主人公と、あなたはとても似ている! 誘いの森で見せたあの強さ。あれも、理不尽としか言えない強さだったわ。なんてたって、素手でゴブリンキングをぶっ飛ばしちゃったくらいだしね!!」


「その話は真ですか!? なるほど、もしや本当にこの世界の——。いやはや、長生きしていると、突拍子のないことも起きるものですね〜」


「この世界の何だって??」


「いえいえ、色々諸説ありますから」


 少し呆けていて、彼の言葉がうまく聞き取れなかった。しかし、問い返してみても付き人は笑みを浮かべて話を流してくる。どうやら、何度聞き返しても、返ってくる答えは変わらないようだ。礼央は、彼に向けていた視線を再び隣に座る彼女に戻す。


「ザラナ、さっきの反応。あなた私の話を少し疑っていたわね? 信じているとか、口先ばっかしなんだから、もう!」


「いえいえ、そんなことは断じてありませんよ!」


「もう、勝手にしてくれ〜」


 やはり、二人の会話の中で邪魔者は礼央一人だったようだ。自身の話題であるはずなのに、気がつけば存在を忘れられている。口を挟んでも、すぐさま二人の世界に入ってしまう。これでは、自分がしたい話などできるわけがない。


全てを悟った礼央は、再び窓の外の景色を眺めた。先ほどと代わり映えのしない、緑の絨毯がひかれた平野。どこまでも続いていきそうなそれは、まさにこの小さな部屋の中で続く会話と同じように、礼央には感じられた。  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る