かわいい幼馴染のブルマを俺は絶対に盗ってないのに犯人にされてクラス中から変態野郎と罵られた件。

kazuchi

かわいい幼馴染のブルマを俺は絶対に盗ってない……。

「――何で、俺がブルマを盗んだ犯人にされてるんだ!!」


 ワナワナと全身に震えが来て、怒りで目の前が真っ暗になってしまった。

 怒髪天を衝くとはこう言うことだ。十七年間生きた中で初めて経験した……。


「そ、それも結衣ゆいの体操服なんて絶対に盗るわけないだろ!!」


高槻たかつきそんなに興奮するな。犯人と言っている訳じゃないんだよ……。

 だけど目撃した生徒がいるんだ。お前が仮教室のプレハブから出て行く所を。

 広橋結衣ひろはしゆいの体操服について、何か知らないかと聞いているだけなんだ」


 昼休みの職員室、激高する俺の目の前には担任の八代やしろ先生が座っていた。


 放課後、バイトで溜めたお金で、楽しみしていたラノベの全巻セットを、

 本屋に買いに行くんだと、それで頭が一杯だった。

 まったく脳天気とは俺のことかもしれない。


 香月、職員室まで来い!! と語気強く呼び止められた俺は、

 普段から冗談ばかり言って生徒を笑わせる八代先生のことだから、

 またキツい冗談に違いないと思っていた。


 八代先生の目の奥は全然笑っていなかった……。


高槻伸吾たかつきしんご君よ、そんなに取り乱すと言うことは何か知ってんのか」

 ヤバい、普段は俺達の名前を呼ぶとき、八代先生は君付けはしない。

 これはマジなモードの時だ……。


 そう言えば今日、学校に来たら教室が変な雰囲気だったんだ。


 俺の通う県立高校は、校舎の老朽化で立て替え工事が進んでおり、

 二年B組の教室は工事の間、簡易のプレハブ教室で授業を受けていた。


 今日の午前中体育の授業があり、女子生徒は文句を言いながら着替えていた。

 ブルマと聞いてハーフパンツじゃないの? と思うかもしれないが、

 我が千葉県君富市、大乳気おおにゅき高校では、

 全国でも珍しくブルマが絶滅していない県立高校なんだ。

 その筋のマニアの間では神の高校として崇められているらしい。


 真夏の炎天下で、プレハブ教室は相当な暑さになる。

 女子の着替えが終わった後は、全ての窓が換気のため全開にしてあり、

 侵入も容易だったが仮教室は学校の敷地内なので生徒以外とは考えにくい。


「濡れ衣だ、俺は体操服なんて盗んでない!! それに八代先生も知ってるでしょ。

 俺と結衣は幼馴染みなんだ。あいつが子供の頃から知ってんだよ……」


 そうだ、俺と結衣は生まれた時から隣同士の関係なんだ。

 確かに結衣は陰キャの俺と違ってクラスの人気者だ。

 子供の頃から習い事の多かった結衣は勉強やスポーツ万能で、

 おまけに性格も良い。

 俺が定番でからかわれるネタは、何であんな美少女とお前が仲がいいの?

 もう中学の頃から耳にタコが出来るぐらい繰り返された……。


 尋問からやっと解放されてプレハブの仮教室に帰ると、

 俺を待っていたのはクラス中の冷たい視線だった……。


「ほら、ブルマ泥棒のド変態が帰ってきたよ!!」


「駄目っ、彩花あやか、高槻に聞こえるよ。でも前からキモいと思ってたんだ。

 あの目つき、尋常じゃないよ……」


「マジで結衣が可哀想、あいつと隣同士の幼馴染みなんでしょ。

 きっと前から結衣をいやらしい目で見てたんだよ……」


 完全に人生終了のお知らせだ。今までもクラスカーストで陽キャではなかったが、

 堅実に目立たず、出る杭として打たれないように気を付けて来た苦労が、

 ガラガラと音を立てて崩れた。ただでさえ学年でも一番の美少女と幼馴染みで、

 男子からは影でかなり妬まれていたんだ……。


 女子からは結衣の幼馴染みの男子だから、かなり優遇されていたんだけど、

 結衣の親友である佐倉彩花さくらあやかから、ボロクソに言われてるのを聞いて落胆した。

 女の子のほうが一度敵対したら、リカバリーの余地は限りなく少ないんだ。


「結衣、高槻にハッキリ言いなよ。私のブルマを返してって!!」


 ……最悪だ。


 教室の片隅で黙って会話を聞いていた結衣。親友の彩花からの問いかけに、

 びくっ、と細い肩を震わせた。その拍子に長い黒髪が艶やかに揺れる。

 清楚な雰囲気とはギャップを感じさせる豊満な胸が、嫌でも目に入ってしまう。


 こんな時に何を考えているんだ俺は!? 自分に誓ったはずだろ。

 幼馴染みの結衣を絶対にいやらしい視線で見ないって。


 結衣が中学に上がる頃から悩んでいたのは知っていた。

 どんどん成長する自分の身体が同級生だけでなく、大人の好奇な視線で

 まじまじと見られることが本当に嫌だって……。


「早く言っちゃいなよ。変態の伸吾の顔はもう見たくないって!!」


 彩花がけしかけてくる。悔しいけど返す言葉もないな。

 痴漢の冤罪は同じように捏造されてしまうんだ。どんなに弁解しても、

 男が不利なのは裁判の判例を見ても明らかだ、沈黙か逃走か、どちらかしかない。


 俺達のやり取りを黙って聞いていた結衣の瞳に大粒の涙が溢れた。


「伸吾、彩花、ごめんなさい。私、もう耐えられない!!」


「あっ、結衣どこに行くの!?」


 涙を見せまいと両手で顔を押さえながら、突然結衣が教室を飛び出した。


「ゆいっ!!」


 考えるより先に身体が動いた。俺が追いかけるのは間違いかもしれない、

 だけど、このままでは絶対に後悔する。陸上部で短距離走のホープ。

 そんな結衣に追いつくはずはないが、死に物狂いで追いかける。


 鞄も持たずに校門を後にする結衣、俺はセーラーブレザーの白い背中が、

 視界からどんどん遠ざかるのを、息を切らしながら見つめるしかなかった。


 その時、俺の脳裏にある記憶が蘇ってきた……。

 二対の狐像、鬱蒼と茂る竹林、たわいない遊びに興じた境内。

 俺達の約束の場所……。


 結衣の行きそうな場所が瞬時に理解出来た、俺はいったん追跡を諦めた。

 そして……。


 *******


「……やっぱりこの場所にいたんだな、結衣」


「……伸吾、なんで私の居場所が分かったの?」


「馬鹿、何年俺が幼馴染みやってると思ってんだよ。分からないわけがないだろ」


 結衣は古ぼけた神社の集会場に居た。その場所は俺達が子供の頃、

 秘密基地として勝手に名付けて、遊び場として利用していたんだ。

 結衣は泣き虫で最初はこの場所を怖がっていた。

 だけどおままごとの道具やお人形を持ち込んでからは、

 俺より積極的に遊ぶようになっていた。


「よくお前とおままごとしたっけ。俺がお父さんでお前がおかあさん。

 男の俺はかなり照れくさかったけどな……」


「伸吾、そんなことまで覚えていてくれたんだ……」


 殺風景な畳の六畳間、その真ん中に結衣はちょこんと座っていた。

 まるであの頃の幼い少女みたいに……。


 結衣のはにかむような笑顔を見ていたら、

 もう濡れ衣を着せられた事とかどうでも良くなっていた……。

 あの頃は男とか女とか関係なく、無邪気にじゃれ合っていた俺達、

 いつから垣根が出来てしまったんだろう。

 タイムスリップは実現可能だ、いつでも目を瞑れば記憶の中で

 あの頃に一瞬で戻れるんだ。


「伸吾は私のブルマなんか盗らないでしょ、最初から分かってたんだ」


「じゃあ何であの時言わなかったんだよ……」


「それは彩花ちゃんの剣幕が凄くて。それに……」


「それにどうした?」


「先生に話したの彩花ちゃんなんだ。伸吾が一人教室にいる所を目撃して、

 結衣のブルマを手に取ってクンカクンカしていたんだって……」


「ぶほっ!! いくら俺がラノベ好きでもそんなチャレンジャーな事しないって。

 それにブルマを吸引なんてへんなトリップしちゃうだろ。俺ならそうだな。

 ブルマを頭に被って変体へんたい!! ブルマニアン仮面ごっこするぐらいだぜ」


「……」


 あっ、渾身のギャグが滑ってしまったか。いくら結衣でもタイミングが悪かった。


「あはははっ!! 子供の頃から本当に変わってないね。お馬鹿なところ」


 顔をくしゃくしゃにながら、その場に笑い転げる彼女。

 おいおい結衣、パンツが見えちゃうぞ!?


「でも明日から体育が困ったな。体操服がないと授業が受けられないよ。

 部活みたいにランニングウェアじゃ浮いちゃうし。今からじゃお店も無理だな」


 体操服のことを考えて表情を曇らせる結衣。

 俺は黙ったまま、そっと紙袋を差しだした……。


「これは……。新品の体操服!?」


 袋の中身に驚く彼女。そうだ、追いかけるのを断念したのはこの為だ。

 彼女のお母さんに連絡を取って結衣のサイズを聞いたんだ。

 お母さんは電話越しにビックリしてたけど、俺の真剣なお願いを聞いてくれた。


「そうだぜ、男の俺が近所の洋品店で買うのは恥ずかしかったけどな」


 体操服の上下がかなり高かったことは結衣に内緒だ。まあラノベ全巻セットは

 泣く泣く諦めよう。それより結衣の悲しむ顔は見たくない。


「伸吾、ありがとう。結衣すっごく嬉しいよ!! ここで着てみてもイイかな?」


「うん、いいぜ!! んっ、お前、今なんて言った。ここで着る!?」


「そうだよ、せっかく伸吾が買ってくれたんだもん。すぐ着てみたいんだ」


 ごくり……。 思わず固唾を飲み込んでしまった。

 駄目だ、邪心な妄想をしちゃいけない!! 耐えるんだ俺。


「じゃあ後ろむいてて。結衣がイイって言うまでこっちを見ないでね……」


「あ、ああ、分かってるよ!!」


 照れ隠しで何故かキレ気味の口調になってしまう。


 後ろを向き、ぎゅっと両目を瞑る。制服を脱ぐ衣擦れの音が俺の耳に響く。


 しゅるりとナイロン生地の擦れる音が混じる。こ、これはブラを外しているのか?

 思わず興奮で身震いしてしまいそうだが、滝に打たれる修行僧の気持ちで、

 必死に堪える。固く握りしめた手のひらに爪が食い込みそうになる。

 こ、心を整えるんだ。エロい事ではなく、何か悲しい事を思い浮かべて!!


「おばあちゃんごめんね、死に目に会えなくて……」


 急激に俺のが収まるのが分かる。あれっ、ウチのばあちゃんはまだ健在だぞ?

 ばあちゃん勘弁してくれ……。 脳内で勝手に亡くならせて。


「はい、お待たせ!! もうこっち向いてもイイよ♡」


 グキッ。


 首がヤバい、むち打ちになりそうなくらいの勢いで振り向いてしまった。


「伸吾、どうかな?」


 結衣が真新しい体操服の裾を引っ張りながら照れている。


「ウチの高校だけなんだけど、やっぱりブルマってお尻のラインが、

 出ちゃって恥ずかしいな……」


 お尻に食い込んだブルマの裾をしきりに気にして、指先で直している。

 見てはいけないが、上から下まで結衣を食い入るように見つめてしまう。


 やっぱり可愛い……。


「伸吾、そんなに見つめられると、私、恥ずかしいかも……」

 結衣が両手で身体を隠すようにする。


「あっ、ごめんごめん!!」


 慌てて視線を逸らそうとするが、結衣の仕草が俺に取ってあだになった。


 胸の前で組んだ腕に圧迫されて、余計に結衣の胸元が目立ってしまう。

 たわわなおっぱいが白い体操服に包まれて何倍もの破壊力だ。

 俺の童貞力が、完全に負かされてしまいそうだ……。


「おっ、お前は自分の胸のだな、大きさをもっと自覚して!?」


 慌てて何を口走っているのか分からなくなる。


「えっ、なに、何、結衣の胸がどうしたって?」


 無邪気に笑いながらにじり寄ってくる彼女。何やらマウントを取って嬉しそうだ。


「きゃっ!?」


「おわっ!!」


 次の瞬間、畳の縁に足を取られた結衣が俺の上にのし掛かってくる。

 本当にマウント状態だぁ!!


 むにゅむにゅと特大なメロンパンが俺の顔を挟み込んでくる。

 もの凄いサイズ感だ。コレが本物のおっぱいのボリュームなのか!?


「きゃうん!!」


「く、苦しいっ、息が出来ない!!」


 いっぱい顔面で触れてしまった。俺の頭の中で妄想の修行僧がずぶずぶと、

 滝壺に沈んでいくのが見えた。

 ポクポク、チーーン。


 これはあくまで事故だ。 


 俺はラノベを買わなくとも、現実リアルで最上級のラブコメ体験したのかもしれない。


 *******


 ポーン。

 結衣の携帯にメッセージが入ったみたいだ。誰からだろう?


「あっ、彩花ちゃんからだ、何これ……!?」


 親友の佐倉彩花からのメッセージを見て彼女の表情が一変した。


「結衣、一体どうしたんだ?」


 黙って携帯の画面を俺に見せる。そこには謝罪のメッセージが書いてあった。

 彩花は大好きな結衣が、幼馴染みの俺といつも一緒な事に嫉妬していたそうだ。

 それで体操服を隠して俺にブルマ泥棒の罪をなすりつけたんだ。

 必死な謝罪文から充分に反省が伺えた……。


「伸吾、本当にごめん、彩花ちゃんのこと許せないよね……」


 俺はしばし考えた。そして結論を出したんだ。


「もういいんだよ、確かに腹は立つけど俺には彩花ちゃんを責められない。

 本当は俺が体操服を盗んでいたかもしれないんだ……」


 俺の告白を聞いて結衣が驚いた表情になる。


「ウチの体操服って結構身体にピッタリしてんだろ。俺も前から嫉妬してたんだ。

 結衣が体操服を着ていると、他の男子がイヤラシい視線で胸ばかりみる事に、

 体操服がなければそんなことも無いのにって。本当に馬鹿だよな、俺」


「……伸吾、そんなことを」


 思い出深い場所を訪れて、俺はどうかしてしまったみたいだ。

 心の声が全部ダダ漏れになってしまう。


「昔から大切に想っている結衣のこと、他の男にイヤラシい目で見られるのは、

 絶対に我慢出来ないんだ。俺だけの結衣でいて欲しいから……」


 結衣は無言で俺の顔を凝視している。


 やっぱりキモいよな、俺。


 結衣の顔がまともに見てられない。俺はうなだれて畳の縁に視線を落とした。

 俺が目を離した隙に結衣が何やらもぞもぞ動いているようだ、

 体操服の衣擦れの音で、動作を見なくても分かる。


 かぽっ!!


「もがああっ、目が見えない。真っ暗だ!? 結衣、俺に何をしたんだ!!」


 いきなり視界が真っ暗になって、布のようなモノを頭に被せられた。

 なんだ、この物体は? ほんのり人肌みたいに暖かいし、

 何だかえも言われぬいい匂いがするぞ、まさか結衣の香りか!?


「変体!! ブルマニアン仮面ごっこだよ、伸吾♡」


 そのまま、ぎゅっと抱きしめられた。視界を奪われて見えないが、

 俺の上半身の感触で彼女の暖かさがしっかりと感じられた……。


 「これからも結衣のこと、ずうっと守ってね。

 ブルマを被ったヒーローさん……」


 結衣の明るい声が、ブルマから飛び出た俺の両耳に心地よく響いた。


 ブルマを頭に被せられた俺の姿は、世界で一番恰好悪かったに違いない。


 だけど俺は世界で一番幸せな変態仮面ヒーローだった……。



 次回に続く。



 ☆☆☆お礼・お願い☆☆☆


 ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


 面白いと思っていただけましたら、


 レビューの星★★★でご評価頂けたら嬉しいです。


 つまらなければ星★1つで構いません。


 今後のやる気や参考にしたいので、何卒お願いしますm(__)m


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