第47話 ロボットと宮坂恵介の憂鬱 序

「というか、なんでそんな余裕なんだよ。いくら喧嘩中だからって親子だろ」


キムの言葉にエディーはニヤリと笑いました。


「もう手はうったからだよ」


「手? 」


エディーは四角い板を取り出すと、コツリと叩きました。板は蜘蛛の形になりました。


「スパイダー?! 」


そうです。あのエヴィルスレイヤー家のスパイダーがいます。


「我ハ何故イツモ同ジ登場ノ仕方ナノダロウ……」


「そりゃスパイダーはああやって呼び出したいでしょ」


「ハーフエルフモ案外ボッチャマト変ワラナイナ。久シブリ、人形ヨ」


どうしてスパイダーがここに。


「辺境伯家には辺境伯家を。ということで、デモンキラー家と中の悪いエヴィルスレイヤー家に『そちらのボンボンがやらかしたことは黙ってるからお父様を助けて! 』ってお願いしたんだ。お父様がやらかしたのは派手に家を壊したってだけだから、デモンキラー家が罰金でいいやっていえば罰金で済むはずだよ」


「ホンケモエヴィルスレイヤー家ノ体面ニカケテ絶対ニ助ケロト言ッテイタ」


「それは心強いです」


私は納得しましたが、キムはそうもいかないようです。


「いや、それは心強いけどさ〜。いくらエヴィルスレイヤー家とはいえ、カンカンに怒ったデモンキラーを止めれる? 」


「交渉相手ハデモンキラー辺境伯家ノ人工知能ダ。デモンキラー辺境伯家ニ敵ガ多イノハアノ人工知能トテ心得テイル。善処スルト言ッテイタ」


「そうかなぁ」


「コレヲ見ルトイイ」


スパイダーはエディーに合図して週刊誌をキムに見せました。


「なになに、『襲撃事件のあったデモンキラー辺境伯家の闇!? 給料未払いに長男のアリエナイ生活ぶりまで、元使用人激白!! 煌びやかな社交界の華の実態!! 』あれまあ局長の事件にかこつけて暴露記事が出てる」


「我ラハ何モシテイナイゾ。モトモト恨マレテイタノダロウ」


なんと元々の素行の悪さが災いして、デモンキラー辺境伯家ではなくケイスケさんに同情が集まっていたのです。これではケイスケさんに厳しい処分をした途端に厳しいバッシングを受けるかもしれません。スパイダーの働きもあり、あっさりケイスケさんの釈放が決まりました。




✳︎✳︎✳︎




「その、なんだ、心配をかけてすまなかった」


「そうっすよ局長! 」


「いやお前じゃなくてエディーに言ったんだ」


「え?! 酷い!! 」


「お前はこんなことぐらいじゃ凹まないだろ」


「ひっど! ぼくだって心配してましたよ! 」


ケイスケさんをキムとエディーと三人で迎えに行くと、そんな会話が繰り広げられていました。やつれてはいますが、ケイスケさんは憑物が落ちたような表情です。


「D2も。シャットダウンしたまま放置して悪かったよ」


「いえ、こちらこそごめんなさい。無神経なことを言いました」


ケイスケさんは気恥ずかしそうに頭をかきました。


「あの時は俺も余裕がなくてね。謝るようなことじゃないよ」


「それなら、よかったです」


「ああ、ありがとう」


私達は顔を見合わせて笑い合いました。


「僕やっぱり家に帰ることにしたんですけど。いいですか? 」


エディーが尋ねると


「もちろんさ。あの家は君の家でもあるんだ」


と頷きます。親子喧嘩はこれにて解決とあいなったようです。


「局長、良かったっすね。エドワード氏が家出してから明らかにヤキモキしてましたもんね」


「うるさいな。それになぜ君は私のことを局長と呼ぶんだ? 」


「あっ、そういえばこの人前科持ちの無職だったわ。へこへこする必要ないじゃん」


キムったらナチュラルに失礼です。


「お前なあ」


ケイスケさんも怒ることはせず、苦笑いしています。


「これからはスミスさんでいいっすか? あ、でも相談者さんと被っててなんか嫌だな〜」


スミスと言う名字はたくさんいますからね。


「ミヤサカでいいよ」


「うっす! ミヤサカさん! みやっさんとかどうですか? 」


「嫌だ」


「みやっさん! 荷物持ちますよ。年長者への義理として」


「だからその呼び方は断っているんだけどな……」


「僕もそう呼ぼうかな」


「やめなさいエディー」


こうしてわだかまりが解けた私達は再び歩き始めました。


「局長、そっち逆方向ですよ」


「……」


「なんというか、局長……じゃないやみやっさんって意外と抜けてますよね」


「そうか? 」


「そうっすよ」


「僕もそう思う」


「君達なあ」


こうして私達の長い一日が終わりました。明日からもきっと大変な日々が続くでしょう。それでも私は今、こうしてケイスケさんとエディーとついでにキムの笑顔が見れて良かったです。


 そして良いことは続きました。家に帰ると


「おかえり、遅かったじゃん」


とチャーリーが出てきたのです。


「チャーリー?! 」


そう最初に言ったのはケイスケさんですが、飛び出して抱きついたのはエディーが先でした。


「暑苦しいなあ、なんだよもう」


「……おかえりチャーリー」


「なにがおかえりだバーカ、お前が先に出てったんだよボケナス! 」


ゲンコツが頭めがけて振り下ろされます。鈍い音がしましたが大丈夫でしょうか。


「おばあちゃんが、お父様はダメダメだから貴方がそばにいてあげなさいってさ」


「そうか……」


「なんか言うことない? 」


「すまないことをした」


「……もういいよ」


仲直りできたみたいですね。


「まあまあ、とりあえず上がってください。キムも。ご飯食べましょう」


「いいの?! やったー!! 」


キムは大喜びです。積もるお話は夕食の後にいたしましょう。

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