繰り返す過ち

 俺は本を閉じた。

 俺は最後の一文に聞き覚えがある気がした。

 この小説は、もしかしたら諒の日記なのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。確かに、俺は子どもの頃の記憶があまりない。諒との出会いも、あの一文のような会話だったと記憶している。

 今朝は喰字鬼についてあんまり興味がないと言っていたのも関わらず、これを渡してきた意図が俺にはわからなかった。なぜこの日記を俺に見せたのだろう。考えがまとまらない。きっと諒には、考えがあるのだろう。今ままでの諒との時間が俺にそう思わせた。

 感想を書いて、諒へ持って行こう。そして諒に話しを聞こう。そう思い、俺は文字を書き綴った。


                  ♢


 本と紙を持ち、諒の部屋の扉を叩いだ。返事を待っていると、扉が開いた。

「もう書けたの?」

 そう顔をのぞかせる諒は、体調が悪そうだった。

「あぁ、それよりも大丈夫なのか?」

「うん。それより、書いてくれたんでしょ?見せてよ」

 そう言いながら諒がふらついた。俺はとっさに扉を開け、体を支える。諒の体は、明らかに熱を帯びていた。

「熱があるじゃないかよ。とりあえず、ベッドに行くぞ」

 諒の体を支えながら、ベッドへと歩く。

「諒、もしかして喰字期なのか?」

 それを聞いた諒は少し驚いた顔をした。そして、

「そうだと思う?」

 と、俺に微笑んだ。

「あぁ。これ、諒の日記だろ?」

「そうかもしれないね。もし、そうなら僕を軽蔑するかい?」

 どこか悲しそうに微笑む諒に、俺はすぐ返答することはできなかった。すると、諒は天井を見上げながら息を吐くと、僕の顔を見た。

「そうだよ、僕は喰字鬼だ。今ちょうど喰字期なんだ。だからね、その紙が必要なんだよ。渡してくれないかな」

 呆然と立ち尽くす俺にまっすぐ手が差し出された。俺はいわれるがまま、紙を渡してしまった。

「ありがとう」

 諒は一言感謝を告げると、俺を部屋の外へ追いやった。諒の部屋の前で立ち尽くしていると、ふいに何かを忘れた気がした。


                  ♢


 僕は漣が部屋から出たのを確認して、紙を見る。漣は毎回違う感想をくれるから、とても助かっている。 

 今回はどんな想いを僕にくれたのかな。

 期待を胸に文字を口へと運び入れる。


 今回もありがとう。また、期待しているね。

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