『ランタック村』

第12話 アンジェとの再会


 俺は急いで故郷のランタック村へ向かっていた。

 だがもちろん、俺の身体はあの「ダン」とかいう冒険者のものだ。

 この見た目で行って、何ができるだろうか……?


「妹に説明するのが面倒だな……」


 とはいえ、スライムの身体のままでは、ダンジョンを出ることさえできなかったのだ。

 俺は急いで野山を駆ける。

 身体に棘や枝が刺さろうと、大して気にしない。


 俺の身体じゃないしな……。

 それに俺は2度も死を経験しているから、痛みにも鈍感になってきている。

 そのおかげで、飲まず食わずで走り続け、ようやく見知った土地に到着する。


「ここを行けば、あと数時間でランタック村だな……懐かしい」


 ここまで来るのに、道に迷うことはなかった。

 それは俺のマッピングスキルのおかげだ。

 普通なら、地図を買うか専用の『地図師』と呼ばれる職人を雇う必要がある。

 だが俺は膨大な魔力を利用して、自分でその能力を使っている。


「しかし、魔力が肉体に依存するものでなく、魂に由来するもので助かったな……」


 学会では、魔力とはその人の肉体に、なにか専用の器官があって、そこで生成されると考えられている。

 だから、人の肉体によって、魔力の量が決まるというのが、定説だ。

 だが、俺は別の身体になっても、相川らずバカげた量の魔力を有している。

 これは……俺の《憑依》スキルが特殊なものなのか……?


 それとも、学説が間違っているのか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 俺がマッピングスキルやアイテムボックスをはじめとする、さまざまな便利なスキルを使える、というのが重要なポイントだ。

 これがなかったら、マジで《憑依》しかできないところだったからな……。


「あれ……? アレは……まさか……」


 俺はランタック村に向かう街道で、見知った人物を見かけた。

 だが、今の俺が声をかけていいものかと迷ってしまう。

 俺は、もはや俺でないのだから――。







【side : アンジェ】


 私は、ユノンくんの妹さんを、ギルティアたちの魔の手から救うために、故郷のランタック村を目指していた。

 ここまで、聖女のスキルを駆使してなんとかやってこれた。


 聖女のスキルは思った以上に便利で、私ひとりでも旅を続けてこられた。

 それに、思った以上に早くたどり着けた。

 これならばギルティアたちに一泡吹かせれるだろう。


 路銀は、旅の途中で辻ヒールを繰り返して、なんとか稼ぐことが出来た。

 辻ヒールとは、その辺の困っている冒険者を見つけては、勝手にヒールをかける行為のことだ。

 ヒーラーは常に不足しがちだから、何割かはお礼にお金やアイテムをくれたりする。


「さあて、ようやくランタック村が見えてくるころかな……」


 ランタック村に続く街道を行きながら、久しぶりの故郷に少しワクワクする。

 だけど、目的は里帰りなんかじゃない。

 ギルティアの暴走を止め、ユノンくんの代わりに彼の妹を救うんだ!


「よう姉ちゃん、一人かい?」


「へっへっへ、そんな格好で、こんな人気のない街道を歩くとは……命知らずな女だぜ」


「あ、あなたたちは……!?」


 突然、しげみの中から二人組の男が現れ、私の両側を塞ぐ。

 盗賊……なのだろうか。

 それにしても、こんな田舎の街道に……?

 いや、人気がないからこそ、彼らにとってはねらい目なのかもしれない。


「俺たちは今ここらでぶいぶい言わせている、盗賊兄妹だ。なあ兄ちゃん」


「おうよ、弟よ。俺たちはここいらじゃちょっとした有名人よ。道行く人を助けては、お礼に少々物資をわけてもらっているのさ。おおっと、無理やりじゃないぜ? 相手はちゃんと俺たちに感謝をしているからなぁ。命だけは助けてくださり、感謝しますってな! がっはっは!」


「それって……ただの盗賊じゃない……!」


 いまどきこんなにわかりやすい悪党っているのかな、と思う。

 でも、ギルティアも似たようなものかと思いなおす。


「はぁ……私、忙しんだけどな」


「いいじゃないか姉ちゃん。俺たちといいことしようぜ?」


「へっへっへ、悪いようにはしねえからさ! げへへ」


 盗賊たちは、さっきから私の胸ばかりを見てくる。

 つまりは……そういうことね……。

 はぁ……。

 呆れてしまう。

 こういう手合いは、枚挙に事欠かないが……。

 それにしても、うんざりだ。


「ユノンくんなら、そんなことないのにな……」


「は? 誰だソイツ……?」


「あんたたちみたいなクズとは違って、とっても素敵な人です!」


 私は、ユノンくんを思いながら、彼らにキックを喰らわせる。

 仮に私が身体を許すとしたら、それはユノンくんだけだ。


「ぐえぇえ! この女、手を出しやがった!」


「やっちまえ!」


 私だって、伊達にAランクパーティーにいたわけじゃない。

 それに、聖女のスキルもある。

 こんな奴らに、負けはしない!


「ホーリーアロー!」


 ――ビュン!


「っへ! そんな攻撃、効くかよ!」


「そんな……!?」


 驚いたことに盗賊の兄弟は、かなりの手練れだった。

 私は距離を取りながらも、じわじわと追い詰められていった。

 どうやら名うての盗賊兄妹だというのは、あながち嘘でもないようだ。


「へっへっへ、観念しやがれ」


「っく……」


 私は、自分の軽率な行いを後悔する。

 なにもこんな奴ら、まともに相手しなければよかったのだ。

 村まで走り去れば、それでよかったはずだ……。


「ユノンくん……! 助けて……!」


 私は、思わず彼の名を呼んでしまう。

 ここに、ユノンくんがくるはずはないのに……。


「はっはっは! 無駄無駄無駄ァ!」


 盗賊の一人が、ついに私につかみかかろうとする。

 そのとき――。


 ――ドゴォ!!!!


「ぐわぁああ!? なななな、なんだぁ!?」


 盗賊の身体が吹っ飛んでいった。

 そして現れたのは……。


 ユノンくん――?


 いや、違う……?

 見た感じ普通の冒険者だけど、どこかユノンくんに似ている……。

 まさか……!?


「ゆ、ユノンくん……なの……?」


「待たせて悪かったな、アンジェ」


 姿は変わってしまっていたが、中身は確かにユノンくんだった。

 その青年は、私に振り返り、あの柔らかな笑みを向けた。

 ああ、確かに彼だ。


 私は、今までにないほどの喜びと、安堵を感じていた。


「もう大丈夫だ。このクソ盗賊どもは、俺に任せろ」


「ユノンくん……!」


 こうして私たちは、劇的な再会を果たした――。

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