第10話 ユノンの真価【side : ギルティア】


「さて、さっそくランタック村に向かうとするか。勇者さまが故郷へ凱旋だ! はっはっは! しかも魔族の血を浄化してやるのだからなぁ!」


 俺たちは野宿を片付けて、旅立つ支度をする。

 故郷とはいえ、ここ王都からは遠く離れている。

 だから地図がなければ、場所がわからない。


「よし、地図を出せ」


「…………」


「どうした? 早く出せ!」


 俺はイライラした声をエルーナにぶつける。


「地図なんてないわよ? それはユノンの担当だったじゃない」


「あ……? そうだった……………………」


 クソ……。

 マッピングスキルも、アイテムボックスも、全部ユノンの仕事だった。

 なぜ魔族のあんな奴に、俺はそんな重要な役割を任せていたのだ?

 我ながら、昔の自分の行いが腹立たしい。


「じゃあ代わりの人間を雇おう」


「は? なに言ってんの? どこにそんなお金があるのよ?」


「う、うるさい……!」


 まったく……なにをするにも金か。

 ユノンのアイテムボックスに預けていたせいで、すべて持ち逃げされてしまったからな……。

 なぜ勇者であるこの俺が、英雄であるこの俺が……!

 金なんかで苦しまなければならないのだ?


 多少の金なら、城にいって王様にでも言えば恵んでもらえるだろう。

 勇者として国を守るためだと言えば、納得するはずだ。

 だが、あれだけ意気揚々と出てきて、今更戻ってそんなこといえるか!?

 いや、それだけは俺のプライドが許さねえ。

 俺は、なんといったって勇者なのだからな!


「仕方がない。金を手に入れるためだ。クエストでも受けるか」


 俺たちはギルドへと向かった――。







「その……ギルドカードはお持ちでしょうか……?」


「は…………? なんだそれ?」


 俺は一瞬、受付嬢に言われた言葉がわからなかった。

 ああ……そういえば、ギルドでクエストを受けるには、ギルドカードなるものが必要なのだったな……。

 だが、俺は自分のギルドカードなどというものを、一度たりと目にしたことはなかった。


「ギルティア……その、ギルドカードってもしかして……」


 レイラが俺に耳打ちする。


「何ぃいい……!?」


 どうやらギルドカードの管理も、ユノンがやっていたようだな……。

 クエストを受けるたび、パーティーメンバー全員分を一括で渡していたようだ。


「ギルドカードは……ない……」


「紛失ですか? でしたら、お作りしなおすこともできますが」


「ああ、頼む」


「でしたら、再登録料が500ギルガスになります」


 受付嬢は笑顔で残酷なる金額を告げた。







「クソ……どこに行っても金、金、金! この世の中は、腐っている! こんな世の中、間違っているだろう!?」


 俺はボロボロになった服を引きちぎりながら、怒りをぶちまける。

 アイテムボックスに替えの服を入れていたせいで、服がどんどん臭くなる。

 レイラもエルーナも、汗でべっとりした服を、今にも脱ぎたそうにしている。


「ほんとよ……まったく……これもぜんぶユノンのせいだわ……」


「ああ……本当に、いい迷惑よ」


 なんで勇者である俺が、こんな目に遭わなければならない!?

 いや、こんな理不尽は間違っている!


「そうだ、いいことを考えたぞ!」


 俺は、とりあえず人気のなさそうな一軒家を探し出した。







「邪魔するぜぇ」


 俺はその一軒家に、堂々と押し入る。


「な、なんだアンタらは!?」


 髭面の中ねん親父が、飯を床に落とし、驚いている。

 こんなモブに用はない。


「俺は勇者さまだ。お前の家の物を、ありがたく使ってやるから感謝しろ? 末代までの誇りにして、語り継ぐといい。そのくらいの特権は許してやろう」


 俺は言いながら、食卓に並んでいたパンをひとつ頂戴する。

 昨日から何も食べていなかったのだ。


「あ! これおいしー!」


 レイラもなにか適当につまみ、阿保っぽい声を上げる。

 俺はレイラのそういう素直なところが好きだった。

 アンジェは頭がよすぎて、利用価値がない。


 エルーナはエルーナで、家の中を物色し始める。

 壺を割ったり、タンスを破壊したり。

 エルーナは頭がいいが、誰に着くべきなのかをよくわきまえている。

 本当に頭のいいのはこういうやつのことかもしれんな。


 そんな俺たちのようすを見て、家主のおっさんは、なぜだかわなわな震えだす。

 そんなに光栄に思っているのだろうか?


「ふ、ふふふ……ふざけるなぁあああああ!!!!」


「…………!? なんだと!? キサマ今何を言った!」


 おっさんの意外な言葉に、俺は憤慨する。

 感謝こそされても、怒られるなんて、おかしいだろ?


「おい、そのおっさん、口を縛ってそのへんの柱にでもくくりつけておけ」


「はーい!」


 レイラがさっそく、おっさんを縛る。


「な、なにをするんだ! やめろ!? あんたら正気か!?」


「フン……正気じゃないのはお前のほうだ。俺は勇者さまだぞ!?」


 クソ……むしゃくしゃする。

 こうなったら女でも犯さないと。


「お……ラッキー!」


「や、やめろ……! 娘にだけは手を出すな!」


「うるせんだよ!!!!」


 俺は家具の隙間に隠れていた、おっさんの娘を見つけた。

 これはいい拾い物をしたな。


「はっはっは! この世のすべては俺のものだ!」







「クソ……! 離せよ!」


 どうしてこうなった――!?

 俺は城の兵士複数人に、腕を掴まれ、連行されている。

 どうやら城へと連れていかれるようだ。


「俺が何をしたっていうんだ! 俺は勇者だぞー!」


「まるで子供だな……」


 兵士の一人がぽつりと言った。


「は……?」


 俺はそいつに向けて、殺意を飛ばす。


「ひ……!」


 するとそいつは俺の殺意だけで、頭が吹っ飛んで死んでしまった。

 くっくっく……ザコのくせに粋がるからだ。

 俺の勇者の能力値を考えれば、低レベルのザコなんか目線で殺せるね。


「貴様! クソ! 取り押さえろ!」


「うわ! なにをするんだー!」


 だがさすがの俺も、屈強な兵士たち複数人に取り押さえられると、なす術がない。

 さすがは王国最強の兵士団だ。

 さっきのはたまたまザコだっただけか?


 まあそんなこんなで俺は、気絶させられ、王城へと連行された。

 腕には魔力封じの腕輪までしてある。

 なんということだ、これでは勇者ではなく――。


 まるで罪人ではないか。

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