エピローグ【side : ギルティア】


 俺たちは魔族ユノンとの戦いで受けた心の傷を癒すため、王都一番の高級ホテルにやって来た。


「その……勇者さま、さすがにお金がありませんと……」


「は? 俺は勇者なんだが? 俺に野宿しろと……?」


 驚いたことにこのホテルの従業員は、この俺を追い返そうとしている。


「ですがその……こればかりは決まりですので」


 世間知らずの若造のくせに、勇者様にたてつくとは……。

 どうやらこのホテルは潰れたいらしいな。


「は? お前じゃ話にならないよ。支配人を呼んでくれ」


 数秒待って、支配人らしき男がやってくる。

 こいつはまともな、話のわかる大人だといいが……。


「俺は勇者なんだ。この世界を救ってやるというのだぞ? だからタダで泊めてくれるよなぁ?」


「ああそうかい。ぜひこの世界を救ってくれ。だがな、それとうちのホテルが損をしなきゃいけないのと、どう関係があるんだ?」


「……は?」


「別に明日すぐ世界が滅びるわけじゃないんだ。確かにあんたのことは応援しているがね。それとこれとは別だ。世界の命運なんかより、今月の売り上げのほうが、俺にとっては重要な案件ってだけだ。それに、うちは客には困ってないんでね。乞食を泊めたとなっちゃ、うちの格が落ちるってもんだ」


「っち……! 話のわからん奴め。このホテルが魔王軍に襲われても、助けてやらないからな」


「ああ、構わんよ。どのみち王都まで進軍されたら、ただでは済まないだろうさ。そうなる前にアンタらが止めてくれるんだろう?」


「クソ……!」


 というわけで、俺たちは勇者パーティーであるにもかかわらず、またもや森の中で野宿する羽目になった。

 しかも、一文無しでだ。

 装備もろくなものがないし、狩をするにも道具がいる。

 また明日からアイテムを集めたり、一からやり直しだ。


「すべてはあのユノンのせいだ……!」


 俺は腹いせに、そのへんにあった木を殴りつける。


「まあまあ、別にいいじゃないの。明日から取り戻せばさ。ギルティアが勇者であることには変わりないんだし」


「ああ、そうだな。いずれ皆もわかるだろう。俺の価値がいかに高いかがな……!」


 翌朝になって思ったのだが、なにも高級ホテルに行かなくとも、そのへんの民家なら、頼めば泊めてくれたかもしれない。

 もしくは、あのまま王城で接待を受けることも可能だったかもしれない。

 俺はどうやら焦っているらしい。

 大丈夫だ。

 俺は正真正銘の勇者なのだから――。

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