first season 第四章

第15話 影

受付「あれ?どうしたんですか?その子」

HHAの玄関、大きなモニターの前に立つ1人の受付の女性。

彼女は入隊の日の受付でシンタや龍二、雛等のレートを計り案内をした人物だ。


桜花「新しい部下。連れてきた!」

❮9番隊 隊長:喜多 桜花(21)レート790❯

ピースをしながら笑みを浮かべるそのクールな女性の後ろには2人の青年


シンタ「ここが、受付。で、隊員のレートとか計れる場所」

❮9番隊 隊員:泉シンタ(17)レート120❯


9番隊、たった1人の隊員としてHHA内では有名のシンタ。受付の目の前にはさらにもう1人の少年がいた。


翔弥 「本日づけで入隊させて頂きます!居間翔弥です!よろしくお願いします!」


その元気の良い挨拶と深いお辞儀の第一印象は礼儀がキチッとしている好青年といった感じだった。


受付「上には通してるんですか?」


桜花「まぁ、いちよう……?」

曇るようなその返事は逆に不安を煽る。

受付「んじゃ、えっーと!パスポート見せて下さい!」


辺りが静まり返る。さっきまで元気だった桜花の顔が次第に虚ろになっていく。

シンタ「どうしたんですか?」


桜花「……忘れた」

桜花「翔弥のパスポート用意するの……忘れた……」

訓練学校を卒業するとHHA専用のパスポートが貰える。それが仕事をする上での身分証明書のような物だ。

先日、橘瑠亜柰が警察に見せたパスポートだったり入隊日に見せたパスポートだったりがそのパスポート。

年齢。名前。所属隊。階級。レート。

HHAに必要な情報が一目で分かる優れもの。


隊長からの推薦で入れる特別推薦時は隊長が入隊させる隊員のパスポートを発行しなければならない。

セキュリティ上、パスポートが無いと隊員室や玄関以外ほぼ全面で弾かれてしまう仕組みだ。


シンタ「パスポート作るのどれくらい掛かりそうですか?」


桜花「……2週間」


シンタ「えっ。じゃあその間どうするんですか?」

シンタ「翔弥の寝る場所とか」

そんな時だった。突然HHAの緊急アラームが鳴ったのは。

桜花「あっ。アラーム。」


緊急--緊急--


都内にて人喰いが出現--


人喰いの対象者は都内在住の柳 誠さん25歳


尚、人喰い化現象の原因は不明。

レート400。大都市被害級。至急、副隊長以上の隊員で出撃を要請する--


繰り返す……--


最近になって人喰いの発生確率が頻繁になってきている。

それに平均レートも上がりっぱなし、レート400以下の人喰いなんて滅多に現れなくなっている。

原因はおそらく、ストレスの増加だろう。

現代社会と同じようにどんどんと抱える物が大きく、そして多くなるにつれてその人物の負の感情も爆発してしまう。


このままだと、またあの大きな事件に繋がりかねない。

そんな危機感は桜花だけだろうか?


シンタ「桜花さん!」


桜花「あっ。すまん!何だ」


シンタは自分のスマートフォンを桜花見せる。

それはメールのやり取りだった。

シンタ「咲さん、電話でないって怒ってますよ」


桜花「あぁ。鳴ってたのか……。」

考え事をしているとついつい他がおろそかになってしまう。


桜花「もしもーし」

気の抜けた返事は電話越しに咲の耳元へと入ってくる。


咲「早く出てくれませんか!?もうっ!」

❮9番隊 オペレーター:三月 咲(20)❯

その高い声は電話越しだとさらに高く聞こえる。


桜花「んで?何?」


咲「出撃命令出てますよ。場所は五反田の駅前」

帰って来て直ぐにうちの部隊に出撃命令、他の隊員に行かせるだろ普通……。

そんな事を思ったがシンタを成長させるためにも実戦の経験は積んでおいた方がいい。

それに翔弥もどうするか考えるいい時間になる。


桜花「まぁ、分かった。」


シンタ「どうしたんですか?」


桜花「さっきのアラームの人喰いは私らが担当する事になった。」

桜花はポケットから小さめの箱を取り出し、中から1本を口に運ぶ。

桜花「仕事だ。行くぞ。」

そう言い後ろを向き外へと歩き出す。

そのジャケットを纏った後ろ姿は煙も相まって一段とかっこよく見える。


シンタ「あっ。分かりましたっ。」

シンタも後を追うように走り出す。

だが翔弥は下を向いて立ち止まっていた。

シンタ「どうしたの?」

気になったシンタは立ち止まり翔弥の方へと向く。


翔弥「……」

翔弥「あっ。いや、何でもないですよ!」

翔弥「行きます!」

シンタを”エデン”に連れていく。実力的にはシンタよりも自分の方が強いハズ。

ならば桜花のいない2人っきりの時間を作ればあるいは……。


玄関を出て外に行く桜花を追って走るシンタとその後ろから翔弥。

前を向いて歩く桜花はその思惑に気付いていた。

桜花 (どうせ2人っきりになったらシンタ半殺しにして連れてかえるとか思ってんだろうな)

桜花はため息と共に煙を口から昇らせる。


シンタを1人きりにせず、翔弥に細心の注意を払いつつ人喰いを対応する。

桜花の頭にはそう浮かんでいた。


だが……その影に隠れているもう1人には気付かなかった─


九鬼 「泉シンタ。アイツか」

❮解放軍:九鬼 弥一(19)レート770❯


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