強化合宿

 これから始まる、代表選手の強化合宿。

 合宿っていっても学園の闘技場だけど。


 周りには、猛者。俺だけが浮いている。あ、じゃあマルコもかな。

 マルコ、君がいてくれて良かった。


「これから一週間、学園対抗戦に向けて合宿を行う。全員がさらにレベルアップできるように」


 残り一週間か。


 一週間でどこまで実力を伸ばせるのか。

 いや、無理か。もう、いざとなったら魔法に頼ろう。俺の魔法だけはチートだからな。


 それでいいや。



◆◇◆◇◆◇



「しっ!」


 闘技場で舞う会長。

 会長の持つ剣が空を煌めく。


「『彼の者に焦げつく刃を――ファイアーアロウ』」


 書紀さんが会長に無数の炎玉を放つ。


 会長は目の前から迫る炎を表情を変えることなく躱す。


 ゆるりと動いていた会長は急にスピードを上げ、書紀さんに詰め寄る。


「ッ!!『風よ。目の前から迫る窮地を救え――ウィンドシャッター』ッ!」


 会長は流れるままに剣を縦横無尽に振るが、書紀さんの防御魔法がそれを阻む。


 凄いな。会長は緩急の激しい動きで相手の不意を奪ってくる。

 書紀さんはどんなときでも冷静に魔法を適切に発動する。

 二人とも強いな。


 会長さんは珍しく、属性を持っていないらしい。剣の実力がずば抜けている。何か、今年のある新入生に抜かれたらしい。凄いな、誰だろう。


 書紀さんは火属性と風属性。魔法への知識が深く、そのため相手の魔法を適切に対処する。


 感心して見てると、書紀さんが眼鏡に手をかける。

 どうしたんだろう?


「え、エイベル!少し休憩をするぞ!」


 お、休憩か。


 それにしても、会長は何でそんなに焦ってんだろう。

 こころなしか、周りで見ていた他の代表選手の人の顔が引きつっているような。


 本当に何なんだろう。


 今、くじで決めた二人で戦闘を行っている。


 一番初めはさっきの、会長と書紀さんだった。

 俺が勝てるかなってくらいだった。

 でも、あれは力を何割か抑えてのだと思うから二人が本気をだしたら手も足も出ないだろう。


 次の二人が出てきた。


 副会長さんとマルコだ。


 副会長さんは確か、土属性だった気がする。どんな戦い方をするんだろう。


「はあああっ!」


 マルコが剣を持ち駆け出す。

 副会長さんは丸腰。


「『錬成』」


 彼我の距離が十数メートルとなったところで、副会長さんが無詠唱で魔法を発動する。


 あれはたいてい鍛冶師などが使う土属性なんだが、一体何を作るんだろう。


 副会長の足元の土が盛り上がる。


 浮かび上がったのは、一振りの剣。


「はあっ!」


 副会長さんはマルコの剣を受け流し、無防備となった首に叩き込む。


 マルコはバックステップで躱す。


 なるほど。そういう戦い方か。


 マルコと副会長さんの距離が開く。


「『錬成』」


 まさか、剣だけじゃないのか?


 あれは……


「ッ!!」


 マルコが、反射で振り上げた右腕。

 手に握る剣から火花が散る。


「はああ!」


「くっ」


 槍をマルコに投げつけた後に、剣で怒涛のラッシュ。

 マルコは動揺とバランスが崩れているため、防戦一方。


 マルコは剣の腕では勝っているんだけどな。

 手札の多さと戦い方の技巧がそれらをひっくり返している。

 ついには、


「……参りました」


 マルコが白旗を上げる。


「驚きました。入学戦でのあなたは魔法ありきでしたから。剣だけでここまで圧倒されるとは思っていませんでした。剣の実力ではすっかり抜かされましたね」


「……ありがとうございます」


 俺が育てたんですよ!俺が!

 マルコが褒められると、自分が褒められたように嬉しくなるな。



◆◇◆◇◆◇



 さて、俺もそろそろ行きますか。


 闘技場に降り、手ぶらで立つ。

 俺は、剣が使えないからな。


 目の前にいるのは生徒会会計のライラ・カーミュラ先輩。


 彼女に関してはどんな戦い方するのか全く知らない。それに適正属性すらも分からない。


『うわ〜出て行ってくれねぇかな〜』

『まじで出る気なの?』


 はい、そこの男女二人。顔、しっかり覚えさせていただきました。

 まあ、何もできないんだが。


「ごめんね!フィンくん!」


 何で謝るんだろう。俺に言われているのに。


 ああ、なるほど。生徒たちのしつけがなっていないから、生徒会である先輩が責任を感じているんだ。


「いえ、大丈夫です。俺は気にしませんので」


 凄い責任感だ。尊敬します。


「……ありがとね」


 ん?先輩が何か言ったけど聞こえなかった。


「じゃあ、行くよ!」


 先輩は大きく息を吸う。


「はい、お手柔らかに」


 先輩に本気を出されたら、普通の俺なんか瞬殺だろう。


 先輩は、その魔法を一言唱える。




――「『魔物召喚』」




 

 


 

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