本当にヤバいときは声が出なくなる

 準決勝終了後、生徒会室にて。


「それでは、ただいまより緊急会議を行う」


 机に四人の男女が座っている。


 四人とも表情が固く、緊張感に満ちている。


「内容はフィン・トレードについて。エイベル」


「はい。今日も彼のステータスを見たのですが、前と変わらず学校側の記録と同じものでした」


 眼鏡をかけた女性――アメリア・エルベルは毅然と言う。


「……そうか。なら、やはりステータスは学校側の記録が正しいと言いたいところだが」


 この場の司会を努める、アルトは少し違和感があるように眉をひそめる。


「僕も彼は何かを隠していると思います。絶対に」


 アルトに同意を示したのは、雰囲気から高貴な感じが漏れ出る青年、ノア・ヒューマー。


「私もそう思います。彼のこれまでの試合で使っていた魔法は全て既存しない魔法です」


「では、彼のオリジナルとでも?」


 アメリアの発言にそれこそありえないというようにアルトが聞く。


「そうです。今日使った魔法も彼のオリジナル魔法です」


 アメリアは断言する。


「まぁ、君が言うのなら本当なんだろう。それで、あのオリジナル魔法は絶級……いや神級魔法と同等以上の威力に見えたが」


 アルトがアメリアに問う。


「それで間違いないと思います。あの爆発の威力、それにたぶん温度もかなりの高熱でしょう」


「そうだな、本人が発動前に張ってくれた障壁のおかげで俺たち観客は無事だったが」


「あの一瞬であれだけの障壁を発動とは彼の魔法技術は誰から……」


 室内が沈黙に包まれる。


「もう!そんなことどうでもいいじゃん!今大事なのは、フィンくんを生徒会に勧誘するか、しないかだよ!」


 沈黙を破ったのは小さな少女、ライラ・カーミュラ。


「一位はフィンくんみたいなものでしょ!」


「今、私たちは彼が何者かを話し合っているのです。彼がもしも危険な人物だったらどうするのですか?」


 アメリアがライラに厳しく言う。

 他の二人もアメリアに賛成なのか、黙っている。


 三人に攻められているような形となったライラは、


「だからこそだよ!」


「はあ?」


「フィンくんが何者かは、今は分からないけど一緒にいれば分かるかもしれない!ここで話し合って、結論は出るの?」


「そ、それは……」


 ライラの言葉にアメリアが口ごもる。


「それに、彼は私じゃ手に負えない。たぶん皆も手に負えないと思う。でも、私たちならできるでしょ!

 彼がもしも危険な行為をしようとしても私たち四人で止める!

 だから、彼を私たちの目が届くところに置いておくの!」


 ライラの主張に三人は黙って顔を見合わせる。


「よし、フィン・トレードを生徒会に勧誘する。異論は?」


 アルトが結論を出す。


「ありません」


「僕も」


 アメリアとノアも同意する。


「ライラの言う通りでした。先程は言い方がきつくなりました。申し訳ございません」


 アメリアがライラに向かって頭を下げる。


「気にしてないから顔を上げて、アメリアちゃん!」


 ライラは笑顔で言う。


「ありがとうございます」


 アメリアも少し微笑んだ。



 本人の知らないところで勝手に話がどんどん進んでいく。


 生徒会。それは学園でもトップの実力を持つ者が所属するエリート集団である。



◆◇◆◇◆◇



 一方、職員室にて。


「第一闘技場の半壊。フィン・トレードの実力。入学戦。これらについてどうするか。……話し合いたいのに何で学園長が失踪してんだ!」


 職員室では、学園長であるゼノムを除いて全員が集まっている。


 予定では職員会議が始まるところだが……。


『少し急用を思い出した。一年くらい開ける』


 そんなふざけた内容の紙がゼノムの机に置いてあった。


 それを見たフォレスは、怒りに満ちていた。


 また、職務放棄をしたゼノムに怒っているように見えるが内心は、


(この、老いぼれがぁ!何で私も連れてってくれなかったんですか?!もしも、フィンさんが普通じゃないことに気づいたら私が殺されます!)


 今回の件でフィンが自分の異常性に気づくことを危惧するフォレス。


 フォレスは職務放棄したゼノムに怒っているのではなく、自分をおいていったことに怒っていた。



◆◇◆◇◆◇



「はあ〜」


 学校に着くなり俺は机にうつ伏せため息をつく。


 今日が決勝だと思うと気が重いな。


 ちゃんと強い人が来てほしい。


「おはようございます、フィンさん」


 隣から声がかかる。


 この声はアリスか。

 というか、何故か俺にアリス以外誰も話しかけてくれないんだよね。


 何でだろう。


「おはよう、アリス」


 アリスとは毎日一緒に昼食を取る程度には仲良くなっている。


「あ、フィンさん。入学戦、優勝おめでとうございます」


 ……は?


「まさか、フィンさんがこんなに強いなんて知りませんでした」


 ……え、ちょっと待って。


 まだ決勝してないよ。


 ああ、そういうことね。

 アリスの中で俺が優勝することは確定みたいな。

 でもね、それは外れるんだよね。


「アリス、俺は優勝してないよ」


「えっ?!」


 当たり前のこと言ってるんだけど何でアリスはこんなに驚いてんだろ。


「戦ってないじゃん」


「そうですけど……」


「あと、俺はまだまだ弱い」


 これ以上強くなることは望まないけどな。

 なんて言ったって俺は普通だからな。


「なるほど。フィンさんはもっと高みを目指すから優勝したくらいで喜ばない、ということですね」


 いや、さっきから優勝優勝って。

 それじゃまるで俺が本当に優勝したみたいじゃん。


「ましてや、相手が棄権し得た優勝なんていらない、ということですね」


 ……は?

 棄権だと?


 ヤバい。衝撃的すぎて何て言えばいいか分からん。


 てか、入学戦って棄権できたんだ。


 優勝か〜。

 ははっ。嬉しいな〜。


 ……ちくしょう。




 


 

 




 


 











 


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