スポーツ漫画みたいな

「じゃあ、次は俺が行くよ」


(『ストック1、魔力10000。風龍、魔力10000』)


 結構最近、〈創造〉のレベルが上がった。そして、新しい技能が追加された。


 同時発動。


 空中に解き放たれる二体の龍。


 一匹は、炎を纏う龍。


 一匹は、暴風を纏う龍。


「はっ?きゅ、急に現れたっ?!まさか、無詠唱っ?!」


 無詠唱で発動したことに驚くクライスさん。

 そうか、クライスさんはまだ、普通に到達していないんだね。


「行け」


 俺の命令に従い二体は、クライスさんに迫る。


「えっ?!えっ?!きゃ、きゃぁぁぁぁぁぁあ!!」


 そのままクライスさんは為す術なく、その場に倒れた。どうやら、恐怖で気絶したようだ。

 龍は当たる直前で止めたので、クライスさんに外傷は見当たらない。


「炎龍、風龍戻ってこい!」


 二匹の龍は俺の方に戻ってくる。


 俺は龍を消して、クライスさんのところへ駆け寄った。


「だ、大丈夫?」


 怪我していたら治してあげようと、思ったが杞憂だったようだ。


「ん〜。あ、あれ?私……」


 クライスさんの意識が戻ったようだ。


 クライスさんは、ゆらゆらと視線をさまよわせて、俺の方を見る。


 もちろん目が合う。


 クライスさんの顔が赤くなる。


「わ、私は負けてないから!でもあなたのことは認めてあげる!」


 威勢よく言うクライスさん。


 うん、やっぱり顔が赤いな。


 これは、あれだ。


 模擬戦始まる前に、偉そうな態度取ってて負けたから恥ずかしいのだろう。


 うん。凄く分かるよ。


 こういうのは、見て見ぬ振りをするのがクライスさんのためだな。


「ありがと、クライスさん」


 俺は、少し休憩しようとクライスさんから離れる。


「……ちょっと待ちなさい」


「ん?何?」


 後ろからクライスさんの声がかかった。


 振り返ってクライスさんを見るが、俯いていて肝心な表情をうかがえない。


「……エリザ」


「ん?」


 エリザ・クライスでしょ?それがどうしたのかな。


「エリザって呼びなさい!」


 クライスさんが顔を上げて怒鳴るように言う。


 こ、これは……!


 スポーツ漫画とかである。試合前は仲が悪かったけど、互いがぶつかり合うことで友になる、あれか!


 つまり、俺とクライスさんはもう友達。


「分かったよ、エリザ。俺のこともフィンって呼んで」


「わ、分かったわ。フィン」


 よし、俺はもう休憩だ。


「貴様、俺と模擬戦をやれ」


 え?また?



◆◇◆◇◆◇



「模擬戦、始め!」


 エリザの掛け声で始まる、二回目の模擬戦。


 俺とマルコは剣を抜き構える。


「『悪を滅ぼし光よ。資格ありし我に力を与えよ。我は神の代行者。目の前の悪を浄化せん――ペネトレイト・シャイニング』」


 先に動いたのはマルコ。


 何らかの魔法を発動し、マルコの周りにいくつかの光の玉が浮いている。


 マルコの顔には、疲労が隠れていない。

 どうやら、結構大技らしい。


「行けっ」


 マルコが俺を指さす。


 すると、光の玉が二つ迫ってくる。


(意外と速いっ!!)


 しかし、細かい動きはできないようでただ、前に進むだけのようだ。


(なら、かわすだけ)


 右に走り抜けようと膝に力を込めた。


「爆ぜろ」


 瞬間、二つの光の玉が爆発した。


 威力は低い。

 だが、目を焦がすような光を放つ。


 もろに見てしまった俺は目が塞がる。


「行けぇ!」


 マルコの声が耳に入る。


 どうやら光の玉をまた放ったらしい。


(どのくらいだろうか?分からないけど、どこに来るのかは音や空気の動きで予想はできる……と思う)


 どうやら、目がやられたことで他の感覚が鋭くなったみたいだ。

 かろうじて、近くの範囲だったらたぶん分かる。


(右腕と左足)


 俺は、直感に従い右にずれた。

 避けきれなかったようで、左腕が少し抉れる。


 だが、無視だ。


(両足、両腕)


 ジャンプでかわす。


 今度は上手くいった。


「ば、バカなっ!見えていないはずだろ?!どうして避けられる!」


 マルコが驚いたように言う。


 このくらい、普通だよ。誰だって努力すればできる。


「これで全部かな」


 十回くらい動き続けて、ようやく落ち着いた。


 後は、


「うおぉぉぉぉお!」


 正面から見えないけど、マルコの剣撃がくる。


 俺は冷静にそれをいなす。


 金属のぶつかり合う音が響く。


 それを十回、ニ十回と重ねていくうちにマルコの動きが鈍っていく。


 そろそろかな。


 俺はマルコの上から下ろす剣撃を横に流して、がら空きの胴に剣を入れる。


「ガハッ」


 マルコが腰から崩れ落ちる音が聞こえる。


「……降参だ」


 マルコの声音には諦めと悔しさが混ざっていた。


 少し意外だと思った。

 彼の性格からして、自分から負けを認めるとは失礼ながら思わなかったのだ。


 ようやく目が開くようになった。


 前を見ると、マルコが悔しそうに座り込んでいた。


「最初の魔法を使った目眩まし、凄かったよマルコ」


 俺はマルコの技を称賛する。


 目が見えなくなった瞬間はとても焦った。


「……貴様には通用しなかった」


 マルコが俯いて呟く。


「マルコの技量がもう少しだけ凄かったら危なかった」


 「だから、そんな落ち込むなよ」と、続くはずだった。


「慰めなどいらん。次は、俺が勝つ」


 マルコが吐き捨てるように言い、 第二練習場から去って行く。


「まっ――」


 「待って」と呼び戻そうとした言葉が後ろの少女によって消される。


 エリザが俺の腕を掴んでいた。


「アイツは、あんなでも努力家なのよ。だから意外とショックを受たんだと思う。でも、すぐに元通りになると思うから今はそっとしてあげて」


 授業が終わってもマルコが姿を見せることはなかった。


 でも、部屋に戻ったらいつもどおりいた。


 



 





 


 



 

 


 

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