いや、なりませんよ

〜ゼノム視点〜


 儂はナタス村へと来ていた。


「じゃ、儂は街を少し見てくるから、宿をとっててくれ」


 従者というか、儂の監視のフォレスに伝え歩き出す。


「え?って、何言ってるんですか?あなたを一人にしたら……ってもういない!」


 アイツは若いくせしてうるさいからのう。逃げるんじゃ。


 『あの、クソジジィーーッ!』って聞こえるが無視じゃ。


 街を歩いていると、不思議な少年に出会った。


 まだ幼いのに剣を振るっている少年じゃ。

 普通、平民が剣を握るのは五、六歳くらいじゃ。そして、素振りをするのなんてそうそういない。

  多くは剣を振り回して遊ぶのじゃ。


 それに、あの若さで剣を持っているのも、貴族くらいじゃ。

 貴族なら、あの若さで持っているのも普通じゃが、あの服装から平民じゃろう。


 儂は興味を持ったので話しかけてみた。


 少年の名は、フィンというようじゃ。


 そして、剣を振る理由を聞いてみたら。まさか友達が欲しいと言うとは。

 面白い少年もいたようじゃな。


 しかも、中々に光るものがある。

 あれは、知能じゃ。まだ、腕は稚拙。才能もまだ感じられない。

 じゃが、恐ろしい程、頭がキレる。一回一回の素振りを修整、改善している。

 だから、前よりも速く、力強く、鋭くなっていく。


 これは、化ける。


 だが、残念なのは普通に囚われすぎていること。

 少年が、普通に達したと見れば素振りはやめてしまうじゃろう。

 それは、もったいない。


 だから、少年の師となることにした。


 最初教えてやるって言ったら疑わしそうに見てきた。


「なに、こう見えても儂は元冒険者じゃ。だから、冒険者の普通も知ってるぞ?」


 なので、普通って言ってあげたらすぐに食いついてきおった。


 じゃが、少年は勘違いしておる。儂は一度も普通の実力に育てるとは言ってない。


 はは、十二歳までに儂の全てを注ぎ込もう。


 こう見えて、儂は世界に十人しかいない元Sランク冒険者じゃからな。



◆◇◆◇◆◇



 儂は模擬戦をすることにした。


 少年は、頭が回るから儂の剣術、戦い方などすぐに吸収するじゃろう。


 五戦くらいで少年の体力が尽きた。


「さて、今日はこのくらいじゃな」


「ありがとうございました」


 少年は深く頭を下げる。


 ふむ、やはり他の子とは違う。とても、礼儀正しい。


「明日も今日と同じ時間にくるぞ」


 儂は少年に背を向け歩き出す。


「あ、ちょっといいですか」


 すると、少年から声がかかった。


「なんじゃ?」


「魔法を教えて下さい」


 魔法か……。魔法は少し危険なんじゃがな。


 魔法には属性というものがある。

 火、水、風、土、光、闇の六つ。


 人には適正属性というものがある。

 そして、適正属性以外の魔法を使うと拒絶反応が出て最悪の場合死ぬ。


 適正属性は五歳になったら教会に行って調べるのじゃが、少年は三歳。


 おそらく、少年は魔法を使う危険性を知らない。

 じゃが、あの眼は何も知らない眼ではない。


「魔法は使えるのか?」


 本来なら使えない、というか使えてはならない。


「はい」


 少年は何にもないように言う。


 全く、お主は儂が手を加えるまでもなく異常じゃ。


「使ってみろ」


「はい。『照らせ――ファイアー』……『十で』」


 少年の指先に炎が宿る。


「他のはできぬのか?」


 これで、少年ができないと答えたのならよし。

 五歳まで、炎属性の魔法を鍛える。

 他の属性は危険じゃ。


「できます。一応初級魔法は全部」


「なっ?!」


 こればかりは驚いた。


 全部ということは、全属性が使えるということ。


「え?え?ふ、普通ですよね?」


 これが普通なわけあるか!と言いたくなった。

 じゃが、


「いや、普通じゃ。独学で全部学べたということに驚いただけじゃ」


 このままの方が面白い。


「ですよね!」


「じゃが、普通の冒険者は絶級まで使えるから。まだまだじゃの」


 これは、もういけるとこまで育てる。


「えっ?で、でも中級が普通って」


 ば、ばれたじゃと?!

 や、ヤバいぞ!誤魔化さなければ!


「さ、最近、魔王が現れたのは知っておるか?その影響で魔物が強くなり、冒険者のレベルも上がったのじゃ」


 こ、これでどうじゃ!


「ああ!なるほど!いや〜危なかったなあ。ありがとうございます……え〜と」


 む?ああ、そうじゃった。まだ名乗ってなかったな。


「儂の名はゼノム・アスフォードじゃ」


「ありがとうございます!ゼノムさん!」


 う〜ん、何か違うな。


「フィン、一回師匠と呼んでみてくれ」


 少年は少しびっくりしたようじゃった。


「し、師匠?」


 こ、これじゃああぁぁぁぁぁぁぁあ!


 こう、何かが胸に来たのじゃ。


「う、うむ、今日から儂のことはそう呼ぶように」


 少年は疑問を持ちながらも、頷いていた。



◆◇◆◇◆◇



「ふふふ〜ん、ふ〜ん」


 儂はフォレスのいる宿に向かった。


 場所はフォレスの魔力を感知できるので分かる。


 そして、宿に入るとちょうど飯を食っているフォレスがいた。


「何、ニヤニヤしているんですか?気持ち悪いですよ」


 フォレスの毒舌すら今の儂には届かない。


「フォレスよ。逸材を見つけたぞ」


 儂はフォレスに伝える。


「名前は?」


「フィン・トレードじゃ」


 Sランクを超え、後にSSランク冒険者になる男じゃ。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る