第2話 私の本音は

「……すみません。ちょっと…」


 少し落ち着いた私は涙をぬぐう。

 ケイさんそんな私をやさしく見守ってくれて穏やかにほほ笑んだ

 やっぱりケイさんは優しい人なんだ、と改めて思った。


「…じゃあ、お願いしますね。」


 私は気を取り直して記憶のことをたのんだ。


「はい。じゃあ、ちょっと目をつむっててくださいね。」


 私はわざわざ目を通るということの意味少しが分からなかったがそういいうものなんだろうと私はおとなしく目をつむった。

 …多分儀式とか、そんなのをするんだろう。

 すると突然、体が温かくなったような気がした。

 そしてやがてケイさんの「目を開けてもいいいですよ。」という声が聞こえ、私がゆっくりと目を開けると、体に何も変化はなく、ただ何かが流れ込んでくるような感覚があった。


 …みんなと楽しく遊んでいる私。

 幸せそうに食卓を囲む私。

 …どれもどれも、今の私とは違う、もう一人の自分がいる世界を見ているかのような不思議な感覚があり、今までのことが噓のように消えていく。

 これで本当に幸せになれるのだろうか。

 …たとえ幸せになれなくても、あの現実を忘れられるだけで十分だから。


「……ありがとうございます。…ケイさん。これでやっと楽になれる気がします。」


 私はケイさんに微笑んだ。

 でも本音を言うと、これでケイさんに会えなくなるんだと思うと少し切ない。だけど、私が無理してでも笑ってなきゃ幸せになんてなれやしないから、精いっぱいの笑顔を向ける。


「…無理はよくないですよ。」


 また、ケイさんは私の心を見透かしたように言った。


「やっぱりケイさんをだますことなんてできっこないんですね。…すみません。」

「いえ、誤ることなんて何もないんですよ。……ただ、無理をしてるなら今はその悩みを聞いてあげます。」

「……こんなこと言っていいのかわからないけど、私、ここから離れたくないです…。わがままなのはわかってるんですけど、それでも…もう少しケイさんと一緒にいたくて……。」


私は、勇気を出して本音を口にした。

なんでこんなにもケイさんから離れたくないのかは私もよくわからなくて、でもケイさんと一緒にいたいという思いが強かった。


「…そうですか。困った子ですね。」


ケイさんは苦笑いを返しながら私を見て言った。


「…迷惑ですよね。わかってます。……わかってるんですけど、もう少しここにいさせてください。」


私は頭を下げて言った。


「…しょうがないですね。少しだけですよ。僕もここにいられるのは少しだけなので…。」


ケイさんは私から目をそらして呟いた。


…ここにいられるのは少しだけ、という言葉がよくわからなかったけどここにいられるだけでもうれしいから別に気にしなかった。




「…ケイさんは、いつもこうやって人の願いをかなえてるんですか?」

「……えぇ、まぁ。あなたみたいな人もいますし…お金が欲しいだとか、そんな些細な願いを願いに来る人もいますよ。…まぁ僕がかなえてあげるのはお参りに来た人ではなくそれをかなえたくてしょうがない…っていう人の願いだけですけどね。」

「びっくりするんでしょうね。…私は信じましたけど普通の人なら神様なんて言っても信じてくれないんでしょう?」

「そうですね。まったく信じてくれない人もいればあなたみたいにすぐ信じてくれる騙されやすそうな子もいますよ。」

「騙されやすそうな子って…ちょっと余計じゃないですか?」


私は怒り気味の声でケイさんに聞いたがケイさんは私を馬鹿にするように「あはは」と笑った。

…そんなところが、誰かに似ているような気がしたのは気のせいだろうか。


「…ケイさんっていうことが結構失礼ですよね。」


私は少しほほを膨らませた顔でケイさんから顔をそらしていった。

さすがにケイさんも私が起こっていることに気が付いたらしく小さく頭を下げて謝っていた。


「別に面白がっているわけじゃないんですよ?ただあなたが…何というか、かわいらしいからつい……。」

「…かわいらしいって何ですか。…ていうかそれじゃあ面白がってるのとおんなじですよね……。」

「………ち、違いますよ。これはいわゆる愛情というもので…」

「まだ会って全然たってないのに愛情なんてあるわけないでしょう?」


「…あなたは僕より強いのかもしれませんね……。」

「神様より強いなんてありえませんよ。」

「…あ、いやそうじゃなくて痛いところを突いてくるなって……。」


もしそうだったのなら今頃私は両親とクラスメート脅して平和な日常送ってる。

…私がこんなに楽なのも、この記憶のおかげかな。


「でも、あなたには隠し持った力があるかもしれませんね。」

「……え?」


聞いたことがあるセリフ。

昔、誰かがこんなことを私に言ってくれていたような気がする。


『お前には隠し持った力があるんだ、きっと!』


誰、だっけ。

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