悪の力



 二人で助かる方法が、愛華の心を壊す以外になかった。という言い訳で、罪悪感の重みを軽くしようとする自分にうんざりする。


 ただ俺が弱く、悪の力が欲しかっただけだろ! と言われればそうなんだろう。


 俺が悪の力を取り込んでまで、弱いという事を考えてない、愚かな考えだ。


 だが俺は負けられない。生きて、愛華に会うまでは。


 会ってどうする? 誤解は解いて? 誤解ってなんだ? 全てが真実じゃないか。


 魔法少女の心を砕いたら、俺には何が起こるかまで分からないんだから。


 愛華に死ねと言われるかも知れない。俺は愛華が助けに来なかったら死んでいたはずだ。だからその時は死ぬとしようか。


 怖いな。死ぬことじゃなくて、正気を取り戻した愛華に嫌われるのは。


 やっぱり俺は悪の組織がお似合いだ。自分のことばっかりだな。



 目の前には巨大ウサギ。


 こんな雑魚、さっさと片付けよう。


 悪の力を取り込んで、怪人になった今。


 自然と目の前のウサギが、デカいだけのただのウサギとしてカウントしていたことに、自分でも驚いている。


 


 刀を正面に、両腕で持つ。


「ケケケ、オマエ、コロシテ、アクノチカ……ッ!」


 ウサギが喋っているのを無視し、トットットと、一歩目でウサギの足のスネに刀を這わせ、二歩目で切り裂き、三歩目でウサギに向かい振り返る。


 俺から見たウサギは、後ろ姿と、壊れたスプリンクラーのように血が噴出している足。


「ガァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」


 ウサギの楽しそうな歌声は俺の心を癒す。


「ドコイッタ! ドコイッタ!!!」


 ウサギは俺の動きが追えてないらしい。



 ウサギの足は一本が使い物にならず、目で追えていたとしても、コチラに身体ごと振り返るのは苦労することだろう。


 俺は切ってない長い方の足に刀を添えた。


「ア゙ッ!」


 そして、ギャャと再度ウサギは歌う。それはもう聞いたと、ウサギに向き合いながら刀を見つめる。


「これ相当切れ味いいな」


 ウサギの両足が使い物にならなくなったと思っていたら、ウサギは腕の力だけで飛んできた。


 殴るモーションのおまけ付きだ。


 段々と、時間と共に大きくなる刀から溢れる白い炎。その炎を左手で抑えながら、左手を腰の辺りに持ってきて、構える。



 そして、ウサギの拳が俺の目と鼻の先まで到達すると、数瞬、刀が鞘もないのにカチャリと噛み合わせが良い音が聴こえた。


 飛んできたウサギは目と鼻の先にいるのに、空中で止まっている。



 まず地面が先にどこまでも一直線に割れ、次はウサギの顔が身体が斜めに裂ける。


「オマエ、ハ、ダレ、ダ」


「言っただろ? 悪の組織のバイトのモブAだ」


「シンジラ……」


 信じら? 信じられないか?


 そこで言葉が終わり、真っ二つのウサギが地面に落ちた。



「おいウサギ、狙う相手を間違えたな」



 刀を地面に刺すと、白い炎になって消えていった。



 ウサギを倒したからか、左手に熱い紫の炎が現れる。


 これを自分の中に入れると、さらに強くなることができ……。


 俺は紫の炎を取り込むことが出来ずに、専用の試験管状の入れ物に紫の炎を入れて、変身ベルトの機能にあるアイテムボックスにしまい込んだ。


「さらなる力とか、いらない」


 愛華は更衣室で正気を取り戻しているかも知れない。


 悪の組織のスーツを解除して、スーハースーハーと深呼吸する。


 そして俺は転移石を手に取り、更衣室に転移した。







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