第13話  出会い

 数ヶ月前、彼女は死にかけていた。


 隣に住む亜香里ちゃんは、同じ年頃の子供が、身近にいなかった事もあり、僕の家で、遊ぶ事が多かった。


 小学生も高学年になる頃には、だらしない男の一人暮らしに、気付きはじめて、将来お嫁さんになってあげると言い始めた。


 ゆっくり眠っていたい日曜の早朝、僕の家に入り込み、声をかけてくる。


「あなた、起きて」


 それが、彼女には楽しかったらしい。幼い手で、それでも一生懸命、掃除をしてくれ、焦げすぎたトーストと、インスタントコーヒーの朝食を作ってくれた。


 僕は、お礼に彼女の勉強の面倒をみてやった。


 亜香里ちゃんのご両親とは、仲がよかったので、感謝された。


 彼女の成績が、とても良かったからだ。


 しかし、それは、僕が教えているという事実よりも、亜香里ちゃんが元々頭の良い子だったからだろう。


 亜香里ちゃんのその習慣は、高校生になっても変わらず、相変わらずお嫁さんになると言い続けていた。


 そんな彼女が、ある朝から姿を見せなくなった。週末でなくても、学校に行く前には、必ず僕を起こしに、この部屋に来ていたのに…。

 彼氏でも出来たのかなと、僕は、何も知らず、気楽に笑っていた。


 1週間も経つと、さすがに心配になり、お隣に様子だけでも聞きに行こうかとしていた時、スマホが、震えた。


 亜香里ちゃんの入院の知らせだった。


 病院に駆けつけるとたった1週間で、痩せてしまった亜香里ちゃんがいた。


 ぼう然としている僕は、こんな時にかける言葉を持っていなかった。

 無機質なベッドの上で、苦しそうな笑顔が、その年に、最初に開く桜の花の様に、寂しげに咲いた。


「ゴメンね。お嫁さんには、なれないみたい」


 この時、いい加減に生きてきた僕の人生は、大きく変わっていった。


 衝撃と混乱から抜け出せないでいる僕に、奴が声をかけてきたのだ。


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