巧妙な手口

横田巡side


「こんにちは。」


何なのよこいつは。

不気味なやつね、莉乃も可笑しなやつに付き纏われたものね。


「何かしら?どうかした?」


「それ。」


横たわる莉乃を指差して後野さんはこちらを見ためている。

怒っているのでしょうね。

でも残念ね貴方はこの件には関われないの。

これは親友で同士な私たちだけの神聖なやりとりなんだから。


「莉乃に触れたの?」


これやったの?ではなく、触れたの?と聞くあたり突っかかったけれど別にいいわ。


「貴方も殺すまでですもの!」


「同感、同じ気持ちだね。」


後野さんがこちらに向けてきたのは...。

カッター。凶器をいつも携帯していた!?


「貴方、どういう。」


「さっきのあんたと同じ気持ち。

殺せばいいなーって思っている異常者の気持ち。」


こいつ、自覚があったのね。

その通り、人を追ってきているようなやつが自分のことをまともだって言い張ったら引くわ。


「凶器も持っていないあんたが私に抗えるとでも?」


「えぇ。どうせは一般人。

私、武術の心得が多少あるのよ。」


「そう。でも大丈夫?

私、警察が多い家系で幼い頃からそれとなく訓練してたけど。」


警察の家系...。


「そんな人が罪を犯していいとでも!?

え...っ。」


前に集中していた。

けれど、衝撃を感じたのは後ろから。


「な...に..?」


「アリアちゃんの幸せは莉乃ちゃんの幸せ。

莉乃ちゃんの幸せを妨害する人は許さないっ!巡ちゃんでも。」


「悔...無..?ま、さか。」


「ごめん、でも私が殺すとは言ってないじゃん?」


「まさか...後野さんが...香奈を。」


「当たり前じゃん。

あ、そうだ。悔無、莉乃にバレるといけないからそのナイフは彼女に握らせて。

莉乃以外でもバレれば確実に莉乃といられなくなる。私は莉乃が目を覚ました時のために保健室に運ぶから。

あと、これを持っていて。」


「わかった!」




後野アリアside


「失礼します!前島さんが横田さんに首を絞められて...!」


「えっ!?前島さんは生きている?」


「はい、錯乱していたのか途中でナイフを取り出して自分の背中を突き刺したんです...!

何が起きたのか..わからなくて。

でも、近くに先生もいなかったので。」


「前島さんをベッドに寝かせておいて。

私は横田さんを。」


保健室の先生・曲岬まがりみさき先生はすぐに飛び出していった。


まぁいい。

彼女が莉乃に触れようものなら殺そうと思っていたから。


「莉乃ぉ。なんて可愛くて...素晴らしいの..」




曲岬side


いきなりの事件。

横田巡という生徒が他の生徒を、しかも仲の良かった人を襲って自分を刺したという奇行、何があったのか。


後野さんはさぞ怖かっただろう。

そんなものを目撃して...。


「横田さん!?」


本当だった。本当に横田さんがうつ伏せに倒れている。

不自然な体制でナイフを握って。

とても自分で刺したとは...。


「もしかして...後野さん。いたっ..。」


何事なの。首に痛みが。


後ろに振り返った。

そこにはカッターを持った斜洲井悔無が立っていた。

うっとりとした目つきで異常な表情で。


「く...び.?」


首に異変を感じた。

手を当てると深い切り傷がある。

時間差で血が噴水のように噴き出る。

自分の中にこんなにも多い血液が入っていたことを確認しながら、私の体は床に近づけられた。


血が出ている時、痛みは感じなかった。

感じたのは、ただぼんやりとした絶望と、

意識が遠のいていく少し気持ちのいい感覚。

目の前が暗くなって頭に少し衝撃が走る感覚。


微かに感じたそれらすらもう頭にはなかった。



後野アリアside


悔無は上手くやっただろうか。

きっとあの遺体を見て先生は自殺でないことに気づくだろう。


悔無が持っていたナイフは巡に握らせてしまったから私が脅すために持っていたカッターを渡した。

それで上手く殺してくれただろうか。

にしても便利な人、悔無って。


莉乃の手が動いた。

そろそろ起きてくれるかな。


「莉乃、愛してるよ。」


莉乃の額にキスを落とし、その上から親指で撫でた。

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