後に引けないから

横田巡よこためぐりside


ほんの少し前、私はこの学校に転入したの。

学校なんて行かなくても勉強は出来たし、

運動も出来た。芸事だって一通りなら。


義務教育はお父様の指示であまり行っていなかった。

私立へ行っていても周りには庶民ばかりだからと許してもらえなかったし、義務教育なのでそれで卒業も出来たわ。


高校はそうはいかないから行っていたけれど

世間の事情が理解できずに前の学校ではすぐにいじめられるようになってしまったの。


転入後に話しかけて来たのは香奈。

ガサツな笑い声をあげて話す彼女の存在は下品ながらも面白いと思ったわ。


初めて学校帰りに寄り道をしてジュースを飲んだ。はっきり言うと紅茶の方が美味しいけれど皆んなと飲めばジュースも美味しいと思った。


コンビニエンスストアへ行ったのも初めてだし、カラオケという棺桶と似た名前の場所へ行ったのも初めてだった。


お父様が私に隠していた世界は隠す意味もないくらい素晴らしいもので、私の世界は彩られたわ。美しすぎる...。

この世界を邪魔するお父様は必要ないのかもしれないわ。






そう思った時から数週間。

悩んだ末にお父様を殺すことを考えた。

お父様だけでなくお母様も権力を持っているから私が殺したとバレだってお咎めもない。

お母様も私のことを愛しているもの。

お父様に対してなんかよりも。


ヴァイオリンのお稽古をしてから書道の練習、今日はそれしかない。

終わってから夕食を食べるまでに少しの時間があるからその時間に呼び出して殺して仕舞えば良い。


「お父様!」


予定の時間。私はお父様を呼び出した。


「どうした?巡。」


「私、お父様のこと苦手なの。」


「え...なんだ突然。」


「私にあんなに美しい世界を隠していただなんて。許せない。」


隠し持っていた果物ナイフをお父様の脇腹に突き刺した。


「あ...ぁ。」


傷口を見て唖然とするお父様は後に膝をついた。現状を理解できていないご様子で目を見開いたまま動かなくなった。


「人は...こんなに簡単に亡くなるのね。

興味深いわ。今度またってみようかしら。


「ふふ、これで自由よ。」






雛乃が香奈のことを大好きなのも知っているし、莉乃が後野さんのことを好きなのも知っている。


私はグループを後ろから見守っているから。


「巡、私はアリアを殺したいのです。」


雛乃からの相談。


「人は殺してはダメよ?








後に引けなくなるから。」

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