第14話 春夏冬と御手洗と高橋宅①

「なんの用ですか、春夏冬さん」

「え? あれ? こんなところでどうかしたの? 奇遇だなぁ」

「いや、絶対狙って来てますよね。絶対ここが先輩の家だって知ってて来ましたよね?」


 自転車から降りた御手洗は、凄い顔で春夏冬と対峙する。

 二人の間には稲妻が走り、俺はその迫力に背筋を冷やしていた。

 この二人は仲が悪いんだな……俺のようなぼっちじゃないんだから、人付き合いは出来るはずだろ?

 なのになんでそんなに仲悪いんだよ。


「そ、そんなことないよ。たまたまだよ、たまたま」

「たまたま先輩の家に来ます? ご近所さんなんですか? そんな天文学的確率なことが起きることあります?」

「起きたんだから仕方ないじゃない。高橋の家は昨日聞いてたから知ってたから……ちょっとどんなところか見てみようかなって思っただけ」


 御手洗から顔を逸らして春夏冬は白々しい口笛を吹いていた。

 俺の家を見に来たのかよ……何かイタズラでも考えてるのか?

 俺は少し春夏冬を警戒しながら自転車を駐輪スペースに止めた。


 今日の春夏冬は黒い大きな服を着ていて、それは膝上ぐらいまでの長さがあり……スカートをはいているのかどうかも分からない。

 小さなハンドバックを持っているようだが、どうも高級ブランド品のようで高校生にしては金を持っているのだろうという印象を受ける。

 しかしいつもよりギャルらしさが増しているというか……着ている服も高そうだからか、俺とは違う人種のようにも見えてしまう。

 やはりギャルは警戒すべき人間……何を考えているのか分からない。

 気を引き締めて当たるとしよう。

 と言うか、家の場所と電話番号を教えるんじゃなかった……

 なんで俺は春夏冬に教えたんだ、バカ。


「まぁ偶然は偶然でいいとして……偶然ならもういいんだよな?」

「い、いくはない! ちょっとぐらい話しようよ、ね?」


 可愛い顔で俺を見上げる春夏冬。

 俺と話をしたいって……俺の弱点でも聞き出すつもりだろうか。

 だがそう易々と俺の弱点を教えるつもりはないぞ。

 そもそも弱点なんてないんだけど。


「俺と話をしたところで面白みも何もないだろ? 話すだけ時間の無駄じゃないか?」

「で、でもこの間、私の考えはバレバレだって言ってたじゃん……」


 春夏冬は赤面し、モジモジし始める。

 こいつが俺を罠にでもかけようとしているのはバレバレだが……なんでそこで赤くなる。

 おかしいだろ。


「あの、すいませんけど、自分と先輩の時間奪わないでくれないっすかね?」

「……ふ、二人の時間って……別に付き合ってるわけでもなんでもないじゃない」

「そうっすけど……でも、自分の気持ちは分ってますよね?」

「…………」


 御手洗の気持ち……そうか、そんなに動画が見たいのか。

 それがアキちゃんの動画なら一番言うことはないのだけれど、それは徐々に染めていくとしよう。

 そう、沼の如く、抜け出せないようになるまでアキちゃんの素晴らしさにどっぷりと浸からせるのだ。


「で、でも二人きりは嫌。高橋は私の気持ち知ってるみたいだし、その気持ちは分るよね?」

「ぜ、全然分からないんだが……」


 春夏冬の考えは分かっているが、二人きりが嫌とはどういうことだ?

 全然分からん。

 これっぽっちも分からない。

 何を言ってるの、この人?


 だが俺は必死に考え、なんとか答えを導き出そうとしてみた。

 これは当たっているかどうか分からないが、愕然としている春夏冬に向かって話すことにした。


「えー……二人きりだったら、俺たちの行動を監視できないから……とか?」

「……え?」

「え? 違うの? え? 本当に全然分からないんだけど」

「なんで分からないの……? 私の気持ちも考えも分かってて。それにそもそも高橋、私に興味あるって言ってたよね?」


 御手洗が膝カックンをされたように、急に体制を崩す。

 そして俺の顔を見て、ガタガタ震えているようだった。


「け、絢斗先輩……そんなこと言ったんすか?」

「……うん。言ったな」


 春夏冬に対して優位に立ちたかったから。

 俺は彼女にそう言った。

 

 だがしかし、俺の言葉を聞いた御手洗は少し涙目になっているようだ。

 

「そ、そんなこと本気で言ったんすか……先輩」

「あ、ああ。まぁそれなりに理由があってだな」

「興味があるなんて、そんなの理由は一つしかないじゃないっすか!」


 声を荒げ、今にも泣き出しそうな御手洗。

 興味があるなんて言うのはそんなに怒るようなことか?

 俺は不思議に思いながらも、御手洗に同じことを言うことにした。


「俺は御手洗にだって興味あるぞ」

「「え?」」


 春夏冬と御手洗が同時に声を上げた。 

 まぁ、同じバイトの後輩として興味があるのは間違いない。

 三次元の女に興味は無いが、純粋に後輩として興味は持っている。

 この言葉に嘘偽りはない。


 御手洗は少し嬉しそうな顔をしているが……今度は春夏冬が額に青筋を立てていた。

 なんでそこで怒るの?

 君たち何を考えているわけ?


「私にも興味あるとか言っておいて、この子にもそんなこと言うんだ……」

「お、おかしいことか?」

「おかしいわ! 二人同時に興味持つなんておかしいわ!」


 突然京都弁で怒りだす春夏冬。

 もうこいつが何を考えているのか完全に分からなくなり、俺は額に手を当てた。

 やっぱ、人付き合いって面倒だな……そんな風に考える俺に、冷たい午後の風が吹く。

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