ジャックとミハイル II

パァァァァン!!


銃声が教会に響き渡る。


俺達は同時に引き金を引き、同時に避けた。


アイツのTrick Cardは、俺のTrick Cardの相性が悪い。


だからアイツはTrick Cardを使わない筈だ。


だったら、俺は使わせて貰うぜ。


俺はミハイルに向かって手のひらを広げた。


「燃えろ。」


ゴォォォオオオオ!!


俺がそう言うと炎が勢いよく現れミハイルに向かって炎が放たれた。


火と風じゃあ、俺の方が上だ。


ミハイルを殺すのが目的じゃない。


とりあえず教会から出るのが先決だ。


ゼロの側にいて、ゼロを守るのが最優先だ。


どうにかしてこの状況を打破しないと。


パンッ!!


ミハイルが手を叩くと俺の出した炎が消えた。


「は?」


炎が消えた…だと?


「どうなってんだって顔してるよジャック。」


「っ!?、お前が炎を消したのか?」


「そうだよ。俺のTrick Cardの属性が風だから炎を

出せば勝てると思ったのか?と言うか、勝つつもりないよな?」


ミハイルは俺の事を良く理解している。


俺はミハイルの事を理解していたつもりだった。 


俺とミハイルとアリスは同じ教会で育った孤児だった。


一緒にいたのに、ミハイルがアリスに対して恋心を抱いているのに気付かなかった。


「ここからは出られないよジャック。」


「出られないって…?どう言う意味だミハイル。」


ゴォォォオオオオ!!


俺は再びミハイルに炎を放ちながら話した。


「だからさー、俺には通用しないんだよ。」


ミハイルはそう言って再び手を叩いた。


パンッ!!


炎に紛れてミハイルに接近し引き金を引いた。


パァァァァァァァァン!!


飛び散った火の粉だけがその場に残っていた。


た、弾がない!?


「放った筈の銃弾がない事に驚いた?」


どう言う事だ?


ミハイルが手を叩けば消える?


この空間がおかしいのか…?


何かがおかしい。


だが、何がおかしいのか分からない。


ミハイルの能力なのか?


「お前はこの世界の駒なんだよ。」


「駒…?」


「この世界は俺が作り出したチェス版だよ。」


この世界を作った…だと?


「ちょ、ちょっと待て。今、何て言った?」


俺がそう言うと、ミハイルはシャツのボタンを2つ

外し胸元を肌けさせた。


「このタトゥーが見えるだろ?俺もゼロと同じだ。」


ゼロと同じ…?


「お、おい…。ま、まさかお前はこの世界の住人じゃないのか!?ゼロと同じようにこの世界に来た…って事か?どうやって!?いつからこっちの世界に来たんだ!?」


ミハイルは最初からこちら側の人間じゃなかったと言う事なのか?


「うるさいなー、耳に響くから騒がないでよね。俺はゼロのように正しいルートで来なかった。それだけは教えてあげる。」


「ミハイル!!!ジャックを閉じ込めなさい!!」


ミハイルの後ろから走って来たアリスが叫んだ。


「分かったよ。」


ミハイルはそう言ってTrick Cardを取り出した。


Trick Cardには"World trick"と書かれていた。


World trick!?


ミハイルの能力は…typhoonじゃないのか!?


俺が驚いているとミハイルはフッと笑った。


「あー、俺のTrick Cardはコッチが本物なんだよねぇー。今までのは偽物だったんだ。」


「偽物…だと?」


確かにミハイルがTrick Cardを使っている所を見た事がなかった。


「世界が完成するまで大人しくしていてねジャック。」


ミハイルがそう言うと、俺の背後から巨大な鳥籠が現れた。


「っ!?」


逃げようと足を前に出した瞬間に鳥飼の扉が勢い良く閉まった。


パタン!!


「おい!!ここから出せ!!」


ガシャンガシャンッ!!


俺は鳥籠の網を掴みながらアリスとミハイルに訴えた。


だが、アリスとミハイルは冷たい目で俺を見下ろした。


「どうして、大人しく出来ないのかな?ジャックを閉じ込めなさい。」


「はいはい。」


ミハイルはそう言ってTrick Cardを床に置いた。


「Worldtrick。」


そう言うと、俺を入れた鳥籠の足元に大きな穴が空いた。


俺は鳥籠に閉じ込められたまま穴の中に落下した。



パシッ!!


ジャックが穴に落ちた後、頬を叩く音が響いた。


アリスがミハイルの頬を叩いていた。


ミハイルの頬が赤くなり、ゆっくりアリスの方に視

線を向けた。


「役立たず。」


「ごめん。」


「ごめんじゃないわよ。約束したよね?あたしの役に立つって!!」


アリスはそう言って、ミハイルの胸ぐらを掴んだ。


「約束したよ。」


「じゃあ、何でジャックはここから出ようとしたのよ!!ミハイルがちゃんとしていれば、ジャックはここを出ようとしなかった!!」


「落ち着けアリス。また、過呼吸を起こすぞ。」


「許さない許さない許さない許さない許さない!!ゼロが憎い!!あたしからジャックを取ろうとするゼロが憎い!!」


「大丈夫。俺がゼロを殺すから…、だから落ち着け。」


ミハイルはそう言ってアリスの体を抱き締め背中を摩った。


「鏡に写ったアリスに誓った事を俺は忘れた事はないよ。俺はお前のモノだ。だからアリスの願いを叶えるのも、アリスの為に世界を作るのも、アリスの為にゼロを殺すよ。」


ミハイルがそう言うとアリスはミハイルの背中に手を回した。




ゼロside


扉を開けた先には、教会があった。


「この教会は…、ボクが育った教会?」


「そうだよ、この空間は封じられた記憶の世界

だ。」


「ボクの記憶の世界…。」


そう言ってボクは周りを見渡した。


すると、小さい頃のボクとジャックが庭を走っていた。


「早く来いよアリス!!」


「ま、待ってよジャック!!」


ジャックの後を必死になって小さいボクは追い掛けていた。


「へぇー。小さい頃のお前って可愛いじゃん。」


ヤオはそう言ってニヤニヤしながらボクを見つめて来た。


「殴られるか、蹴られるかどっちか選べ。」


ボクはそう言ってヤオの尻を蹴り上げた。


「いってぇー!!俺が選ぶ前に蹴るなよ!!」


「うるさいな。」


ボクとヤオが少し口論していると、緑色の髪の少年が横切って行った。


「2人共!!お、置いてかないでよー!!」


緑色の髪の少年がジャックと小さいボクに声を掛け

て来た。


「さっさと着いてこいよミハイル!!」


ジャックはクルッと振り返り緑色の髪の少年に向かって言葉を放った。


「ミ、ミハイル!?ミハイルってあのミハイルか!?」


「ゼロとミハイル、ジャックは同じ教会で育った孤児だったんだよ。」


ボクが驚いて声を上げるとヤオが説明してくれた。


「ミハイルも孤児だったのか…。」


小さいボク達は3人で庭を走って遊んでいた。


「実感が湧かないんだが…。」


ボクがそう言うと、風景が変わった。


庭の景色が夜に変わり、ボクとヤオは教会の中にいた。


「景色が変わった?」


「ゼロの記憶の世界だからね?」


ペタペタペタッ…。


暗い廊下から小さな足音が聞こえて来た。


足音のした方に視線を向けると、ミハイルがこちらに向かって歩いて来ていた。


ミハイルはボクの体をすり抜け真っ直ぐ廊下を歩いて行った。


「ミハイルの後を追うぞゼロ。」


「分かった。」


ボクとヤオはミハイルの後に付いて行った。

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