裏切り者

シャワールームに着つくとインディバーが帽子屋を摘み出し、ボクの服をそそくさに脱がしお湯の溜まったバスタブに放り投げた。


バシャァァ!!


バスタブに溜めてあるお湯が勢いよく溢れ出た。


「ほら!頭出しなさい!!」


「え、頭?何故…。」


「洗ってあげるから!!ほらほら!!」


インディバーはそう言ってチャカチャカッと音を立

てながらシャンプーを出した。


ボクは恐る恐る湯船から頭を出した。


インディバーが優しくボクの頭を洗ってくれた。


シャンプーを洗い流した後にトリートメントもしてくれた。


「どうしたんだインディバー。こんな事して…。」


「あら?意外だった?」


「意外と言えば意外だが…。」


「フフッ。ゼロの事お世話したくなちゃったから♡」


そう言ってインディバーはトリートメントを洗い流してくれた?


「お世話?」


「そうよ。だからゼロが気にする事じゃないわ。」


インディバーは手慣れた手付きでボクの髪をまとめてクリップで止めた。


パチンッ。


「体は流石に自分で洗って頂戴ね。一応コレでも男だからね。じゃ、ごゆっくりー♡」


インディバーは軽く手を振りながらシャワールームを出て行った。


ここは居心地がとても良いな…。


初めて来た感じがしない。


それと…、夢に出て来た男と鏡に映し出された記憶?と言って良いのだろうか、あれは一体…。


あの記憶はボクと関係があるような気がする。


Aliceの絵本を何故ジャックとアリスが読んでいた?


あの絵本はこちらの世界にもあったのだろうか。


どうして、教会で一緒にいた男の子の顔を思い出せないんだろう。


ズキンッ!!


頭に激痛が走った。


「いっつ…。」


ボクは頭を押さえた。


少しでも教会の事を思い出そうとすると激痛が走る。


何なんだ?


どうして教会の事を思い出そうとするだけでこんなに頭が痛いんだ?


あの男の言っていた言葉も気になる。


「強力な魔法。」


ボクに魔法が掛かっていると言う事か?


魔法が掛かっているとしたらいつから?


どこでボクに魔法を?


「ゼロー?長いけど大丈夫ー?」


ドアの外からインディバーが声を掛けて来た。


どうやら、インディバーが出て行ってからかなり時

間が経っていたようだ。


「い、今、上がる!!」


ボクは慌ててバスタブから出て急いで体を拭いた。


用意されたラフな服を着て扉を開けた。


「わ、悪い遅くなった。」


「急がせちゃったかしら?ごめんなさいね。マッドハッターが様子を見に行けってうるさかったら。」


「うるさいってなんだよ。」


インディバーの後ろから帽子屋が顔を出した。


「1分ごとに同じ事を何回も言われ続けられたらう

るさいわよ!!女の子が早く出てくる訳ないでしょ!!!」


「滑って転んで頭を打つ場合もあるだろ!!」


「そんなの滅多にないわよ!!」


「お、おい…。」


インディバーと帽子屋がボクの目の前で口論を始めてしまった…。


本当に仲良いな…。


しばらく黙って見ていると2人がボクの視線に気付いたようで、口論をやめて一息付いた。


「ごめんゼロ、本題に移ろう。ゼロの寝ていた部屋に戻ってから話そう。」


「そ、そうね。ごめんなさいゼロ。」


「い、いや大丈夫だ。2人は仲が良いみたいで…。」


ボクがそう言うと「「はぁ!?」」と2人の声が揃った。


十分仲良いぞ…、その反応は。


「早く行きましょう。」


「そうだな。」


ボク達は少しの間だけ口を閉じながらボクが寝ていた部屋に戻った。


部屋に戻ると、帽子屋がボクをベットに横にならせてから、椅子に座った。


インディバーも帽子屋の隣に椅子を持って来て腰を下ろした。


もう、体調は良いのにな…。


そう思いながら2人を見つめていると、先に口を開いたのはインディバーだった。


「それじゃあ、本題に入るわ。Edenの事なんだけど、ゼロも知ってる通りEdenの団長はアリスよ。」


インディバーの言葉を聞いてアリスが団長だと言う

事は確信に変わった。


「やはりそうか…。アリスは生きていたと言う事か…。」


「あぁ。ジャックが見つけたアリスの死体はダミーだ。アリスにソックリな女をバラバラにしただけだ。」


「だが、どうしてアリスはそんな事をする?アリスは幸せな生活を送っていたんじゃないの?」


ボクは帽子屋に尋ねた。


「ここからは俺の推測になるが、ジャックの事を支配したかったんじゃないかと思う。」


「支配?」


「四六時中アリスは自分の事を思っていて欲しかったんだろうな。だから、アリスは殺されたふりをした。」


「ジャックの思考や心を支配したかったと言う事か…。じゃあいつEdenは作られ、どうしてアリスは十字架事件を起こした?」


ボクがそう言うとインディバーが口を開けた。


「Edenが作られたのはジャックとアリスが付き合う前よ、丁度5年前かしら。」


5年前…か。


確か、Nightmareと言う男がいなくなった頃と一致しているな。


アリスはNight'sと言う組織の存在を知っていなかったと思うが…。


「丁度、Nightmareが姿を消した頃だった。十字架事件の被害女性は皆、教会育ちで容姿はアリスに似ていると言うのが共通点だ。恐らくだが、アリスは自分に似た女性がジャックと会わないように殺した

可能性がかなり高い。」


「そ、そこまでしてジャックを支配したかったのか…?アリスは。」


ボクがそう言うと帽子屋は苦笑いをしながら話した。


「アリスの精神状態はいつも不安定でな。ジャックが側にいない時は狂ったように、突然、ジャックの名前を言いながら泣き出していたし。」


「な、なんと…。」


ボクがそう言うとインディバーも話し出した。


「十字架事件を起こす事でジャックの行動は支配出来たのに、構って貰えなくなって泣き出したんでしょ?矛盾してるけど。」


「アリスは異常にジャックに執着してると言う事か…。ボクを襲って来た理由も2人の話を聞いてハッキリしたな。」


ここまでする必要があるのか?


ジャックはアリスの事を愛していたのに、それだけじゃ足りなかったのか?


ジャックの思考や行動、感情すらも支配したかったのだろう。


「ロイドやエース、つまりは自分と関わった全ての人に自分の事を考えて欲しかったんだよアリスは。だが、その計画はエースのある行動を引き起こす鍵となった。」


そう言って帽子屋はボクの顔を見つめて話し出した。


「ゼロがこの世界に来た事で、アリスが止めた日常の歯車が動き出したんだ。」


「ボクが?」


「あぁ。アリスはエースがまさか、鏡を使って他の世界の住人を連れて来るとは思ってもなかっただろうからな。」


確かに、帽子屋の言う通りだな。


まさか、アリスはこの世界にボクが来るとは思ってもいなかっただろうな…。


帽子屋はさらに話を続けた。


「Nightmareの方が1枚上手だったようね。アリスはゼロの存在を知らなかった。だからこそ、Nightmareは仕組んだのよ。ゼロがこの世界に来るように。そして、エースとゼロが出会うように歯車を動かした。」


Nightmareは一体…。


「そして、私達はある事に気が付いた。」


「ある事?それはどう言う事だインディバー。」


ボクはそう言ってインディバーに尋ねた。


「私達の中にアリス側の人間がいる。」


「っ!?」


インディバーの言葉に驚いた。


ボク達の中に裏切り者がいると言う事か!?


帽子屋とインディバー以外の人物…?


「アリスが1人でここまで出来るとは思えないわ。それに、アリスは戦闘力が皆無だわ。アリスの駒として動いている人物がいる。」


「その人物は分かっているのかインディバー。」


ボクがそう言うとインディバーは首を横に振った。


そして、帽子屋がゆっくり口を開いた。


「まだ分かっていない。それでだ、ゼロには裏切り者を探し出して欲しい。」


「裏切り者を炙り出せば良いのか…?だが、手掛かりが何もないぞ?」


「アリスの思い出話をさせれば良い。アリスの事を話している姿をじっくり見て欲しい。裏切り者はかならずボロを出す。」


帽子屋は力強く言葉を放った。


ボクはその言葉を聞いて頷いた。


「分かった。裏切り者はかならず炙り出してやる。」


「悪いなゼロ。この任務はゼロにしか出来ない。」


帽子屋が申し訳けなさそうな顔をしてボクに謝って来た。


「気にするな。こうして頼られるのも悪くない。」


「そう言ってくれると助かる。」


「それなら、早くロイドの家に戻って探し出すよ。」


ボクはそう言って起き上がり帰る準備を始めた。


「Edenがゼロに何かしてくる可能性が高いわ。 Night'sの団員をロイドの家周辺に警備として数人派遣させるわ。」


「そうか。」


「何か分かったら団員に手紙を渡して。見たらすぐにNjhght'sの団員だって分かるわ。」


「分かった。」


インディバーと話していると帽子屋がジッと見つめて来た。


「ん?どうかしたか?」


「い、いや、何でもない。送る。」


そう言って帽子屋は部屋を出て行った。


「どうしたんだ帽子屋は…。」


「フフッ。心配してんのよマッドハッターは。」


「ん?何でだ?」


「もうすぐ分かるわよ。」


インディバーはそう言ってボクの背中を押して部屋の外に出した。


あれから何度も帽子屋の質問をしたが、答えれてくれなかった。


ボクとインディバーは帽子屋が手配した車に乗り込んだ。


ボク達の中にいる裏切り者を探すゲームが始まった。

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