十字架事件II

ジャックside


ゼロ達と別れ殺害現場に向かった。


2年前に起きた十字架事件と関わりがあるのか分か

らなかった。


現場に着くと、ピンク街の中央広場の大きな噴水が見えた。


大きな十字架の置物が設置されている噴水広場で、


その十字架に女性の死体が両手足を釘で打ち抜かれていた。


あまりにも酷い殺され方なので、死体を見たハートの騎士団達は隅で吐いていた。


あんな死体を見て吐かない方がおかしいよな。


殺された女性達はアリスとゼロと同じようなフワフワの髪の女性ばかり狙われているみたいだ。


今日見つけた死体もフワフワ髪の女性だった。


十字架事件の被害女性達の共通点だった。


「相変わらず酷い殺され方だよね…。」


エースが鼻を押さえながら呟いた。


殺害現場に嫌な匂いが漂っていた。


その匂いを嗅ぐ度に胃の中にある物が込み上げて来る。


女性の腹から腸が抉り出されていて、両目は抉

り取られていた。


そして叫び声を出させないように喉を切られていた。


いつ見ても慣れない死体だ。


「やっぱり…。2年前の十字架事件がまた始まったのか?」


死体をジッと見ていたミハイルが俺に話し掛けた。


「だろうな。ディとダムが騒いでいたせいで死体の発見が遅れちまったし。また"Eden"が動き出したのかもしれない。」


"Eden"殺人団の名前だ。


ピンク街でDragを売買し、殺人まで犯す最低最悪の団だ。


Edenのメンバーは30人程で、未だに誰1人捕まっていない。


俺達、ハート騎士団はEdenのメンバーを捕まえろとマレフィレスから命令されていたので血眼になってEdenのアジトやメンバーを探していた。


だが、Edenの団長が女と言う情報しか得られずにいた。


数ヶ月前まで音沙汰がなかったのに、またどうしてEdenが動き出した?


それに、ゼロの言っていた事も気になる。


「でも、どうしてあの双子はロイド達を狙って来たんだろうね。」


エースが不思議そうな顔をして呟いた。


「確かに。ディとダムはゼロちゃんの存在を知らない筈なのに…。」


「俺もそれは思ったんだ。双子の気まぐれか、あるいは…違う目的があってゼロ達を襲った…か。」


ミハイルと話していると後ろから足音がした。


振り返るとマレフィレスが歩いて来ていた。


何でマレフィレスがここに来たんだ!?


騎士団の騎士達はマレフィレスの姿を見て跪いた。


ミハイルとエースも跪いていたので、俺も跪いた。


「ジャック。」


マレフィレスが俺の名前を呼んだので顔を上げた。


「状況の説明を。」


「はい。」


俺はマレフィレスに事細かく現状の報告をした。


報告が終わると、マレフィレスはEdenの存在を気にしていたので現場に来たそうだ。


「お前の目から見てやはり…。」


「はい、間違いないかと。」


「はぁあ…。」


マレフィレスが溜め息を吐きながら煙草を咥えた。


カチッ。


俺はマレフィレスの口に咥えてある煙草に火を付け

た。


「良いかお前達。Edenの居場所とメンバーを探し出せ命令だ。」


マレフィレスがそう言うと騎士団一同は「御意。」と言って再び跪いた。



ゼロside


鏡の歪みが緩くなりヤオの顔が映し出された。


何故か今日、血塗れのヤオが鏡の前に現れる気がした。


「ゼロか?どうかしたのか。」


「お前に用があってな…って、どうしたその血は。」


「あ?あー。抗争帰り。」


ヤオはそう言って脇腹を押さえた。


脇腹からは沢山の血が流れていた。


「怪我したのか?お前が?」


戦場ではボクの右腕だったヤオがこんなに酷い怪我をしている事に驚いた。


「帰って手当てをしろ!!何でこんな所に来たんだ!!」


ボクはヤオを怒鳴りつけた。


「ハハ…。」


「笑ってる場合じゃないだろ!!」

「だってゼロが感情を露にする事なんてなかったろ?」


ビリビリッ。


ヤオはそう思って近くにあった布を破りお腹に巻き付けていた。


ボクだって驚いている。


自分がこんな大きな声を出してヤオに怒っているんだから。


「それよりどうして俺が来る事が分かったんだ?」


「それは…なんとなくだ。」


「そっか。で?俺に聞いたい事って?」

ヤオは話しているのも辛そうな様子だった。


「今度で良いよ。早くアジトに戻れ。」


「何?心配してくれてんの?可愛い所あんだなゼロ。」


「はぁ!?テメェ…殺すぞ。」


「ハハ。ゼロが落ち込んでる方が傷が悪化するだろ。」


「…。」


そうだ。


ボクはヤオが無理をしている顔を知っている。


ハハッと言う時は無理してる証拠だ。


「話せよ"Buddy"。」


そう言ったヤオの顔は真剣だった。


ボク達はギャングだった頃からBuddyだった。


どうしてヤオがBuddyと言ったのかは分かっていた。


だからボクは傷が酷いヤオに十字架事件の事を話した。


「十字架事件がゼロのいる世界でも起きてんのか。」


「あぁ。そっちはどうだ?」


「こっちは何にも。」


「そうか。もしかしたらそっちの世界でも起きているかと思ったのだが…。」


「気になる感じなのか。了解。調べてみるわ。」


「助かる。」


「それで?アリス殺しの方は?」


ボクはヤオにアリスの裏の顔がある話と双子の話やDragの事を話した。


「…りな。」


ヤオが小さな声でポツリポツリッと呟いた。


「え?何か言ったか?」


「ん?いや、何も。」


「そうか。」


「もうそろそろ行くわ。また来る。」


そう言ってヤオは重たい体を立ち上がらせた。


「あぁ、頼むなヤオ。」


「おう。」


「それと。」


「ん?」


「早く…手当てしろよ。」


自分の耳が熱くなるのが分かった。


「あぁ。サンキュー。」


ヤオがそう言うと鏡が歪んだ。


鏡を見たままポケットに入れていた煙草に手を伸ばした。


ボクがボクじゃなくなっている気がした。


ヤオの事を心配したのは本心だった。


他人を心配する事もそれを口に出した事が信じられない事だ。


だけど、そんな変化を気持ち悪いとは思わなかった。


むしろ…。


「ッフ。悪くないのかもなこう言うのも。」


そう言って煙草を吸い煙を吐き出した。


ヤオが鏡に現れなくなる事にこの時のボクは知らなかった。

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