キス死にサイドストーリー【恋愛・日常・エロもあり!】

ももきちすもも

タスの恋愛

アタシの可愛いご主人様・プロローグ【一部暴力的】

 この異世界において貧困で苦しむ集落があるのは普通でもあった。異世界では冒険者と呼ばれる神からチカラを授かり活動する特別な生命があり、異世界の中には貧困で苦しむ者たちの手助けをしてくれる者もいた。それでも手が行き届かない場所もあれば、そもそも世界の仕組みで冒険者が活動し難い異世界もあったり、冒険者も厳しい制約の中で活動しなくてはならないので、救護活動にも条件があったりと単純な善意だけでは活動できないのが面倒な縛りを持つ冒険者のルールであった。


 そんな中でソニアと名付けられた12歳の少女は冒険者を含めた異世界人全般が転移してきて活動するには条件が厄介な異世界に生まれ育ちました。この世界では魔法のような奇跡的なチカラが極端に制限されてしまい、人も亜人も、生命全てが便利なチカラを振るいにくい世界となっていました。そのため本来あるべき肉体のみに宿るチカラくらいしか思うように使えず、人間よりも亜人の方がチカラに勝る環境にもありました。しかしそれは護りのチカラにも同じことが言えるので、魔道具でもない武具ですら活躍の場が見込める世界でもあった。そのためけして人種では優劣がつかない環境なのかもしれない。そんなチカラが制限された異世界では不安で活動はできないと、他の世界からも転移をしてくる者は少なく、従って交流が盛んな異世界と比べると孤立している世界でもあり、中には鎖国された地域もあったりと冒険者の活動が活発でない世界でもありました。




 そうした世界でソニアという黄色い鮮やかな金髪の映える少女は貧困で苦しむ集落で生まれ育ちました。周りの者たちも今日を生き抜くことに精一杯であり、他人に構う余裕すらない環境であった。自分の命は自分で養う。それは12歳の少女であろうと同じ条件に立たされてしまうくらいの貧困状況でもあり、ソニアはろくな教育もできないまま働く場所を探しては安い賃金でなんとか暮らしていました。そんな環境が劣悪な場所にも時折冒険者の支援が回ってきますが根本的な解決策にはなっておらず。明日明後日を生き抜くための衣食支援くらいなものでした。冒険者が個人的な善意で支援したくても彼らには制限があり、困窮者では到底到達し得ない施しを一個人で行うことには制約がついてしまい、神から特別なチカラを与えられた存在としてそのチカラで手助けするにも選別があるように善意にも制限があるという、悪意すら感じる神の考え方がありました。しかし個人ではなくギルドを通じての団体活動であったり、神からの依頼を含めた支援の依頼という方でなら仕事としての支援活動でなら制限はなく冒険者は活動が許されていました。


 それでも異世界にはまだ数多くの貧困地区があり、冒険者の手が届かない地区は沢山ありました。そうした場所がソニアが両親と弟妹の五人で暮らしていた地区でもあり、さらに彼女の暮らしていた場所は同じ世界の住人でも移動に制限があるくらいの鎖国された国である、そんな国のとある貧困街でありました。つまり冒険者のような支援をしてくれる者も容易に出入りが難しい環境に、ソニアの家族も同じく貧困で苦しみながら生活をしていました。そうして彼女が12歳にして弟妹母を病で失い、父は家計を支えるために戦に出向き戦死して家族を全て失い孤児となってしまいました。


 貧困街で少女が一人きりで暮らすにはあまりにも過酷であり、ソニアはなけなしの両親の貯蓄をもとに一人きりでの生活に不安を抱えつつも、これまで彼女はやるべきことをして生活をしてきてもいたので、寂しくとも投げ出さずに孤独ながらも前を向いて生活を続ける覚悟をしていました。ただそんな彼女に絶望がまた襲いかかり、手薄になった家に強盗が入りソニアは一門なしにされたばかりか強盗に辱められてしまい心と身体に深い傷を負ってしまい家すらもそこで失って全てを失ってしまいました。


 犯罪も頻繁に起こりえる地区であり、12歳のソニアでも性に触れ合うことはあったので意味も内容も全てを理解できていたことでした。だからこそ初体験は好きな人になんて環境でもなければ、身体を売り明日を買ってゆく生き方をする同じ少女の姿も知っていました。ただ唯一の幸せであったはずの家族を失い苦しんでいたところに、最大の絶望が再び襲ってきたのなら少女の心は折れかけてもいました。命だけは少女が苦しむ姿が愉悦であるとばかりに見逃されていたのが不幸の始まりでもあり、家も金も失い、心は擦り減り、身体には純潔だけでなく煙草を押し当てられて焼け跡が刻み込まれてしまい、その苦しみにもがき苦しみ泣き叫んだソニアを愉快に笑い飛ばした強盗がさらに背中に広く焼け爛れさせてしまい、苦痛に歪むソニアを楽しむように痛む背中を床に押し付けて羽交い締めにし、かわるがわる欲望を容赦なく吐き出して、限界まで広げられた足が痛み上手く立てなくなるまでに犯されて意識を手放すまで苦痛は続けられました。


 もちろんソニアを助けてくれるような正義の味方はいなく、家を燃やすついでに死にたいか奴隷にでもなるかと問われたソニアは痛む身体を引きずり恐怖から逃れるために逃走をすると、強盗は興味を失ったように彼女を見逃していた。それだけの絶望を味わったソニアには自殺すら考えられましたが、死ぬことはいつでも出来るからと絶望の中でも生き抜くことを選び家なし文無しの路上孤児生活を始めることになってしまいました。


 傷だけでも放置すれば重症でしたが猫又の亜人の家系であったソニアは通常の人間よりも身体が丈夫であったようで火傷による傷で命の危険とはならずに生き延びました。しかし身体には酷い火傷の跡が残り、奇跡でもない限りは癒えることのない傷跡を残してしまいました。彼女には亜人としてのチカラがあるはずでしたが、まだそのチカラには目覚めておらずに、それを目覚めさせる環境にもいなかった。さらに言えば目覚めても制限がある世界であるので余程チカラが覚醒するか、特別な信仰などチカラを振るうのに制限が緩和される条件を得なければ種族の血を有効活用することもできない状況にもありました。つまりソニアは普通の少女に近い条件で、過酷な環境を生き延びなければならずに、そのための知恵や覚悟は彼女は環境故に知っていて実際に実行する事で必死に今日を生きていました。


 ソニアと同じ境遇の者は沢山いて、彼らと協力したり時には囮とすることも躊躇わなかった。それはソニア自身も含めて全員がそうあるべくして生きていたからであり、一人で生き抜くことは難しいなら助け合い、しかし自分の命を一番とするために他人を騙しても、見捨てても生き抜くことを最重要とする生き方が全てであったから。そのために必要とあらば少女は犯罪となる窃盗をしたこともあり、辱められて癒えない傷を与えられた男たちにも抱かれて、心を擦り減らしながらも生きることをやめないでいました。


 死んだ方が楽なのかもと考えたことは沢山あった。しかし「いつでもできるから」と自分を言いくるめてソニアは辛い現実を彼女なりに避けながら生きていました。ただふとした瞬間に「幸せ」の意味が分からなくなり、涙が溢れて止まらなくなることが何度もありました。そうして空腹に耐えかねてソニアが珍しく訪れた支援者の食事にありつこうとした15歳の時に、彼女はまた絶望を味わってしまうことになりました。




 支援者と思っていた人物は強大なチカラを使い各地で奴隷を力ずくで集めていた魔人であり、制限がある世界でも少女を一人など簡単に拘束してしまい拉致することなど簡単なことであったのでした。そうして厳しい環境で生き抜いてきた注意力が増したソニアであっても、僅かな油断から捉えられてしまい、意識を奪われ身動きできないまま連れてゆかれて、気が付いた時には別の異世界に転移していて奴隷として売り飛ばされる状況となっていました。


 教育すらままならない状態でのソニアでも魔法などの奇跡は知り得ていて呪いの存在も知っていました。そのためこれからソニアは奴隷として逆らえない呪いが刻まれることに恐怖していました。すでに彼女には自殺ができない呪いなどが刻まれていて、抵抗できない証が身体に刻まれた後でした。こうした呪いを解呪できる存在が冒険者には多く輩出するのであろうが、ソニアには同じようなチカラなどなければ助けを求められない環境にこれから拘束されてしまう。つまり彼女は死ぬまでずっと奴隷として生きなければならずに、引き取られた場所次第では生きることが苦痛にもなり、かつソニアが支えとしていた「いつでも死ねる」という歪んだ思想すら折られてしまったことにもなりました。


 自分よりも先に売り飛ばされる者を虚な瞳で見つめながら、ほぼ裸体の自分の身体を見て品定めしていた買い主の会話を思い出して嫌悪感と絶望からくる諦めすらも感じていた。傷跡が残る身体に加えてこの生き様とあれば、人並みに恋愛などできないとは思っていたが、最後まで愛のある行為はないままに肉体関係が積み重なり、そうして今度は性奴隷にでもなって絶望したまま死んでゆくのかと嘆いていた。ソニアは自分の人生は幸せを感じて生きていけたのだろうかと振り返ってみても、苦しいことばかりが思い出してしまい、辛くても家族がいて楽しかった日々は記憶の片隅に追いやられて忘れかけていました。そうしてソニアが15歳の時に性奴隷として売り飛ばされるように決まり、催淫効果がある呪いで縛られて強制的な快楽を得てしまう身体にされて売り飛ばされることが決まってしまう。




 ソニアが性奴隷としての一生が始まろうとしていた時、なんとその奴隷商に冒険者の集団が駆けつけてくれて見事に悪を拘束討伐してくれて、ソニアは奴隷から解放されたばかりか呪いが解呪され、無事不安のない生活まで戻れるようになるまでは冒険者が管轄する街で教育から生活に至る全てを支援してくれることになったのでした。初めの頃はソニアも境遇から警戒心が強くなかなか心を開けずにいましたが、冒険者の慈愛に触れてゆくと次第に打ち解けてゆき初めてとなる明日を不安にしない生活に幸せを感じて、それを与えてくれた冒険者へ感謝の気持ちが溢れていました。ただ救護されても苦しみはまだ続いてもいて、魂に深く刻まれた呪いはなかなか解呪することが叶わずに、特に身体に直接害のあった催淫の呪いが彼女を蝕み、定期的な異性の体液を欲してしまう程に気が狂いそうな発作的な発情があり、解呪できるまでの間は薬すら効果がないと分かると愛の契りを解放していない冒険者に頼み、子作りに絶対にならないことを利用したセックスをして呪いの催淫を宥めてもらう経験を何度もして、そのときのソニアは呪いであると割り切って快楽に負けてしまい、それを辛いとも不快とも思いもしなかったのですが、治療してくれた相手の男性には申し訳ないという悲しいセックスを繰り返すことになっていました。


 ソニアの容態が改善して無事呪いが解呪してくれると、彼女も本格的に社会に復帰できるように教育を始めてくれました。いくつか選択肢がある中でソニアはほぼ完全なる安全で賃金が見込める冒険者の使用人となるための勉強をする道を選択して、メイドのいろはを学ばせてもらいました。これまで彼女と交流してくれた冒険者にはソニアも感謝していましたが、その中でも一番に印象に残っていたのが自分を檻の中から救ってくれた小さな少年の冒険者でした。ジルと呼ばれていた少年冒険者はソニアを救ってくれ、彼女を冒険者が管轄した街まで運び支援施設に送り届けてくれた後の数日間は彼女の様子を見に来てくれましたが、それから数日後には姿を見せなくなり、警戒心が解けて心からのお礼をできないままジルとは疎遠となってしまいました。後に彼の消息や詳細を聞いても、またソニアと同じ境遇の者を助けに行ったはずと聞かされただけであり、その他の情報は本人希望で秘匿にされていると伝えられました。


 ジルがどんな志しで奴隷の解放をしているのか分かりませんが、けして安全とは言えない仕事でもある。冒険者が団体で活動をする場合は大抵が依頼を受けてのこと、仕事であるからとソニアを助けてくれたとしても、そこに一つも善意がなく淡々と仕事を全うしただけであったとしても、自分を救ってくれた正義の味方であることは代わりないのでソニアはもう一度ジルに会って感謝したいと考えていました。もし自分に才能さえあればジルの手助けもできたならと考えもしましたが、ソニアには特別な才能もなければ社会復帰すらまだ勉強している身。そんな状態では足手纏いにもなりますし、なにしろ何もない孤児である自分を側に置くことすら迷惑となるかもしれないと、勝手に使える主人を決めつけてしまい幸せな妄想を膨らませては、現実を見ろと冷静になって落ち込んでみたりと。これまでの壮絶な人生の中で初めてとなる淡い気持ちが芽生えてもいました。


 それが恋や愛なのかソニアには分からなかったものの、檻の中から初めて救いの手を差し伸べて救ってくれた恩人の、自分を不安とさせないように微笑みながら握ってくれた温かな手と優しい表情が忘れられずにいました。ソニアはいけないことだと理解しつつも詳細すら知らないジルに愛してもらえる妄想をしては身体を宥めて、しかし自分を宥めてくれた男性は別の人でもありそれが虚しくもあった。呪いが解呪されてからは肉体関係は求められなくなってしまい、彼女は寂しさを埋めるように毎夜一人で慰めて苦しい快楽を覚えてしまっていました。ただそれも彼女が16歳を迎えた時に終わり、社会復帰することが可能として旅立つ準備期間に突入してくれたのでした。


 勤め先が決まり、最後には新居が決まってくれたら支援施設からは退去する決まりとなっている。そのための照会制度もありますが、希望があるなら街に出向いたりして仕事を一から探すこともできました。そうしてソニアには支度金としての必要経費が渡されて、それを元手に彼女は街に出向いて仕事を探しつつも、足を自由に伸ばせることを利用してジルの足取りをつかむための活動もしていました。そうして冒険者の照会をしている施設を利用するも、やはりここでも必要な情報は開示されておらずに、ジルは自ら秘密の正義の味方になっていることが判明しただけでありました。




 ある日のことその日もジルの僅かな情報だけを頼りにソニアが片っ端から行き交う通行人を呼び止めて聞いて回るも、有名人でもない人物を街に居るかも分からない知人探しをするのは限界があり、ソニアにもこれが無謀な行為であることは理解しつつも止める選択などありえなかった。苦しかった日々すら耐え抜いて生きてきた彼女からしたら、生きる希望が見つかった今は寂しくも幸せでもありました。そうした健気な行為がようやく実ったのがとある酒場での男性冒険者二人組からの情報でした。


 冒険者と偽っていないと仮定すれば、ソニアに与えられた情報には信憑性があり冒険者であるからこそ偽りはなく、勘違いでなければ信用ができました。その為ソニアは善意で教えてくれたジルの行きつけであった夜の店を突き当てて、そこで張り込みジルと遭遇することに決めました。男性に限らず冒険者であろうとなかろうと性欲があることにソニアは理解はあり、ジルが夜の店を利用していることに失望することはなかった。そうして彼女が張り込みを決意したのですが、ジルが常日頃そこを利用するわけではないのがこの店の格式がある利用料の請求額でした。


 そのオトナの店は神がプロデュースした神の遣いや、厳正に品定めして制約をしっかり縛られた異世界人などの一級品の美男美女が揃う特別な店であり、冒険者が法外な報酬を対価に遊べる施設であったのでした。そのため冒険者のジルでも好きだと通いつめることが困難な店でもありました。つまりソニアがここで動かぬ人形を決め込んでもジルがいつ来店するかもわからなければ、ソニアにも次の生活への期限もあるために猶予はありませんでした。さらに新生活を始めてからもこの場所で休みを返上してゆくわけにもいかず彼女は途方に暮れた結果、その場所を仕事先に決めてしまい客を待つ立場になり常日頃見張ることを覚悟してしまいました。


 せっかく使用人の道を案内してくれた支援者には申し訳ない気持ちはありましたが、これが自分が決断した道であると割り切りソニアはまた慕ってもいない冒険者の男性に抱かれてゆく道を選んでしまいました。冒険者であるなら苦痛も与えられず、むしろ危害がないので仕事と割り切り快楽を感じることも抵抗は少なくできる。あとは自分の容姿と傷ついた身体と、劣悪な環境を生き抜いてきた事で染み付いた性格の尖った部分が客商売に見合うかどうかであったが、意外にも採用されてしまい働き口が確保されてしまいました。


 ソニアには冒険者に危害を与えたり仕事を投げ出したりしないような当たり前の制約が呪いでもしっかりと刻まれて、やる気がないからと仕事の放棄はできなくなりました。しかし彼女は神の遣いではないために永久に縛られたわけではなく、あくまで仕事上に必要な縛りを与えられたに過ぎず、行動を多く縛る呪いではありませんでした。ただし、ジルを見つけた側から退職することもできないようにはなってもいる。さらに客の情報をおいそれと話してくれることもないだけに、仕事仲間との交流を深めて聞き出すか自らが指名されることを願うしかなく、気長な勝負にもなる可能性がありました。


 ソニアの容姿は申し分なく、性交渉を重ねてきた身体でもあるので少女の身体にしては発育はよく身体も負担なく男性を受け入れられるようになっていました。さらに性格面は使用人の仕事を覚える過程で抑え込める術を獲得してもいて、身辺調査を一瞬で終えた神代行が不敵に笑いツンツンでもそれはそれで需要があるからと、ソニアの新しい道を早速案内してくれました。その上で身体の傷を確認した面接官は仕事中にはソニアの猫又のチカラを解放してくれて、身体が変化するようにチカラを貸し与えてくれることになったのでした。これはあくまで一時的に身体を理想的な体型に偽装しているだけであり、年齢を調整できもしますし傷を含めた体型も変化できる種族特有のチカラとなりました。ソニアはこのチカラを仕事中なら振るえて、綺麗な身体を一時的に披露することができる。しかし職場外や退職でもすればまた元の身体に戻るので、根本的に身体が癒えたわけではないので、別段それでソニアは期待することはありませんでした。




 そうしていく日も変わる変わる男性に抱かれながら、時には同性に抱かれたりもして月日だけが流れてゆき、ジルの足取りは全然掴めないまま16から飛び込んだ世界も、今では六年を越えてしまい異世界人としては長く勤めて、悲しくも裕福になりつつあった22歳の時にソニアに転機が訪れました。行為の合間に身の内話をする冒険者は中はいて、その中でも性交渉より話をすることが大好きな物好きもいたりした。ソニアは店で働く上で源氏名が日向(ひなた)として与えられて、その呼び名がすっかり定着した頃にようやくジルを知る冒険者に出会うことができました。


 ソニアは自分の鮮やかな髪色から付けられた源氏名が苦手でもありました。自分は日陰ばかりを歩んできた人生であり、その日の当たるような名は皮肉めいて好きになれずにいました。それでも実名を客に教える気分にもならなければ、それを客から教えるように願われてもヒラリと交わしてソニアは客自身の身の内話へと話術で誘導した所に、冒険者が奴隷を救っているという話を切り出してくれたのでした。その話を聞いてゆく内に一人の先輩冒険者の話に行きつき、志しを高くもち身を投げ出しても奴隷を救ってきたジルという青年がいたことをソニアは聞いてしまう。ジルはどうやら基本的には青年以上の姿で常日頃生活しており、奴隷商や拉致役の悪人などの目を欺くために少年に成りすまして奴隷を救うことをしていたようでした。


 そうしてジルの善行に救われた異世界人は沢山居ましたが、ジルは奴隷を救うことにかけていた為にその志しの理由は誰にも明かしてはくれないながらも、不要となる交流を避ける意味と、奴隷商に警戒されないようにとなるべく情報をひた隠しにして、そうして命が尽きるまで冒険者の活動を繰り返していたのでした。悪魔や上位の魔人さえ関与する奴隷解放任務となれば命の危険は沢山あり、何度も死を繰り返しながらもジルは第一線で活躍し続けて、そうしてソニアが再会する間もなく、最後の命すら消費してそのまま輪廻の流れに帰ってしまいました。それを聞かされたソニアは唯一であった希望の光を失ったことで、また絶望を感じることになってしまいました。


 名前と少年時の姿と冒険者として奴隷を解放する任務を中心として活動しているという情報くらいしか知らないジルにソニアは想いばかりが先走り依存していたのかもしれない。また自分を光の道に救い出してくれる。もしかしたら恋や愛を教えてくれるかもしれない。尊敬して慕う人に尽くすことが喜びになり幸せになれるかもしれない。そんな可能性を心の何処では期待していて、人並みの女性としての幸せを掴んでもいいのでは、そんな期待を抱く前に彼女はまた打ちひしがれることになりました。改めてジルの照会をすると情報は少ないながらも、つい先日のこと冒険者からの登録が抹消されて死亡扱いとなっていました。これにてソニアは店で男を待つ意味を失ってしまい、彼女は退職を決意したのでした。


 そうしてソニアが新しい就職先に選んだのは自分を助けてくれた冒険者に恩返しができるかもと冒険者の使用人をする道を選び、ジルが本来ならソニアにそうあってほしかった道に戻ることになったのでした。彼女はブランクを埋める研修を受けてから23歳となり、初めてとなる使用人の仕事を冒険者見習いの世界で行うことになりました。使用人と世話主のマッチングは神を仲介として最善な組み合わせでなるべくは行われており、世話主が冒険者であれば彼らと使用人の間で制約が取り決められますが、見習いに関しては少し違く神自らも手を下して制約を与えるものがあります。見習い段階では情報の開示に制限があり、それらや冒険者自体への縛りなどを含めた決まりを守るように使用人にも厳しい制約が縛られてもしまいます。


 この様に世話主によっては使用人にも厳しい制約や取り決めがあるために、冒険者の使用人は異世界人からすると割高な給与にもなります。しかし神の遣いと違って彼らは普通の異世界人でもあるために、環境にも順次適応してゆかなければならない。だからなのか厳し目の見習い時代の冒険者を支える使用人になる異世界人はあまりいなく、ソニアのような新米使用人だと尚のこと珍しいことでした。しかしそれで緊張して失敗ばかりしていては先はないだけに、ソニアはこれまで必死に真っ当な道に戻ることを願って支援してくれた人への期待を裏切らないようにも、新しい環境に慣れて冒険者見習いを支える職業に誇りが持てるようになれたならよしと意気込んで、このマッチングを受け入れて冒険者見習いの『タス』という少年の世話をすることになりました。

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