第24話 『決断と油断』

パイソンは小惑星を躱しながら、熟考していた。

自動燃料補給ロケットの使用を強行するか、安全策を取りガニメデにピットインするか。

今までのパイソンであれば、後者を選択していただろうが、ラストレースを優勝で飾るためには、自動燃料補給ロケットを使うしかもう手は残されていなかった。

トップをひた走るロックや、前を行くミツルとの差をなんとしても詰めたい。

ガニメデへのピットインの時間を省くことが出来れば、それは最大のアドバンテージになる。

多少のデメリットには目を瞑り、一縷の望みに懸けるしかない。


「こちらパイソン。司令塔、自動燃料補給ロケットの準備を頼む。ガニメデへのピットインは無しだ」

パイソンは司令塔に無線を入れた。


「分かった。もう既にガニメデのメンテナンスクルーには、そちらの準備もするよう伝え、準備は万全と連絡があった」


「いやに冷静だな。自分がこの決断をするのが分かってたみたいだな?」


「今更何を言ってるんだパイソン。俺たちはチームだろ?お前の気持ちくらい、みんな理解しているさ」


パイソンは頬が緩むのが、自分でも分かった。

MWコーポレーションのチームとして、第1回大会から挑戦を続けてきたのだ。

家族よりも長い時間を共にしてきたこのメンバーこそ、パイソンにとっての誇りだった。


「頼もしいチームだ。自分は、自分の仕事をしっかりとこなすぜ」

パイソンは力強く言い切る。


「我々も全力でサポートをする。思う存分勝負してくれ」


「感謝する」


だがパイソンが謝意を伝えたその時、操縦席にガツンという鈍い衝撃音と、操縦桿に微かな振動が届いた。


「しまった!しくじったか」

パイソンは思わず声を上げる。


「なんだ?どうした?トラブルか?」

司令官が慌てて尋ねてきた。


「小さな岩石と機体が接触してしまったみたいだ。油断していた。回避出来なかった自分のミスだ」


「こちらの計器では、機体異常は出ていない。そちらはどうだ?何か違和感を感じるか?」


「こちらの計器も特別異常はない。大きく機体が破損したわけではなさそうだ。かすっただけだろう。だがこれは自分の不注意だ。注意力散漫になっていた。このアクシデントは防げたはずだ」


「いや、こちらも小惑星帯を飛行している最中に、自動燃料補給ロケットの件を聞いてしまったのがいけなかった。余計な考えを与えてしまい、すまなかった」


「準備もあるから、仕方ないさ」


「どうする、パイソン。ロケットボートの機体点検をするため、やはりピットインするか?」


「いや、ピットインはしない。さほど損傷はない。感覚で分かる。ここは勝負に出るべきだ」


「分かった、パイソン。だが機体に何か違和感があれば、ガニメデで必ずピットインしてくれ」


「分かってるさ。今は小惑星帯を抜けることだけに集中する」


「了解」


司令塔の無線を終えると、パイソンは深呼吸をした。


「落ち着け。大丈夫だ」

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