第21話 『無謀』

パイソンは前を行くミツルのロケットボートに翻弄されていた。

小惑星帯でブースターエンジンを点火させる戦法は、聞いたことがなかったからだ。

まだ小惑星帯の半分も過ぎていないが、ミツルとの差は徐々に開き始めていた。

ここに来て差が開くということは、それほどまでにミツルの操縦テクニックが、素晴らしいものだということだ。


パイソンはふと、自分のレーサーとしての人生を振り返っていた。

堅実なレースを心がけ、基本に忠実の飛行を繰り返してきた。

だが今までロックの後塵を拝してきた自分には、やはり何かが足りないのだと、パイソンはミツルの操縦を見ていて思い知らされた。

それはチャレンジ精神。命を省みず、無謀に挑まなければならないと。

若くして家庭を持ち、家族のためにレーサーを続けてきたが、パイソンは今回で引退する。

ムチャをしてでも勝負しなければいけない。妻のアリソンにはムチャをしないよう釘をさされているが、自分の腕を信じれば大丈夫だ。


だがその時、地球の司令塔から無線が入った。


「パイソン、悪い知らせだ」


「なんだ?どうした?」


「自動燃料補給ロケットに関してだ」


自動燃料補給ロケットとは、MWコーポレーションが極秘で開発していたものだ。

飛行するロケットボートと宇宙空間でドッキングし、飛行しながらにして燃料を補給できるロケットだ。

パイソンはこのロケットを秘密兵器として、活用しようとしていた。ガニメデでのピットインをせずに、一気に地球までの帰還軌道に乗せようと考えていたのだ。


「なんだ?何かトラブルか?」


「いや、そうじゃない。このロケットの使用をNASAに確認したんだが、ルール上、ピットインのガニメデの上空であれば使用可能だが、しかしそのロケットをレース途中で切り離すことはダメだそうだ」


「何故だ?」


「切り離されたロケットが、コース上で障害物になりうると。安全上、故意的でないとしても、ロケットの切り離しは違反だそうだ。もし切り離しをした場合、レース妨害で失格になる可能性があるとの回答だった」


「そんな・・・」


迂闊だった。

ルール上の規定がなかったため、自動燃料補給ロケットは使用可能だと踏んでいたが、切り離しがダメだとはパイソンを始め、MWコーポレーションの誰もが考えていなかった。


しかし冷静に考えれば、NASAの言う通りだ。

切り離した部品が、別のロケットボートにぶつかる可能性を考えれば、安全上、NASAも容認は出来ないだろう。


「動揺させたくなかったので、本当なら小惑星帯を抜けるまで黙っていたかったのだが、こちらも色々な準備があるので、このタイミングになってしまった。パイソン、どうする?」

司令官が尋ねてきたが、パイソンは暫く黙ったままだった。


「とりあえず小惑星帯を抜けたらまた連絡してくれ。それまで準備は進めておく」

司令官はそう言うと無線を切ったが、パイソンは考えを張り巡らせていた。

この自分の決断がレースの行方を左右するだろう。


「くそ、どうするのが最善なんだ?」

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