緩やかに命をかけた都市競争

レースというと、個人かリレー競技が多いけれど、こちらは都市一つが丸ごと移動してレースしている。
当然、レースに携わる――出場していると言ってもいいと思う――人物も一人ではなく、何人もの人が、それぞれ別の役割を担っている。

そこには内政もある。レースと言えば、政治とは無関係に個人の情熱や意志が物を言う舞台なのに、この作品では内政が大きなウェイトを占めていて独特な緊迫感がある。
チームをまとめる、というレベルではない。自分の主張をいかに通すかという政治だ。

この緊迫感を煽っているのが、都市が動き続けないと隕石で狙われて滅びてしまうという世界設定だ。
レースには直接関係ない設定ではあるけれど、どうして都市なんてものを常に移動させなければならないかの説得があり、このレースと同じ行為が都市全体の人々の生死を左右する、という緩やかな命懸けの状況がずっと背後にあり、不気味で薄気味悪い恐怖を付け加えている。作品にいいスパイスになっている。

しかし、競争相手は味方ではなく、他の競技参加都市だ。そこにレースならではの、勝つか負けるか、線引きのはっきりした結末がある。
最初から最後まで、これはレースをテーマにしたスポーツ小説だと思う。
それなのに他のスポーツ小説にはない、コミュニケーションの難しさが前面に出ていて、オリジナリティに溢れている。

とてもいい作品を読ませていただきました。