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 朋香の学校は、今日が学期最後の日だった。明日から夏休みだ。朋香が学校へ行く途中、四人仲間の一人、麻美から声をかけられた。


「おはよう、朋香。今日の塾帰りは、またあのドーナツショップね」

「え、今日は行けないよ」

「どうしてよ」

 朋香の前に顔をニューッと出した麻美が「どうしたの?」と目を見開いた。


「どうって、何が?」

「目が真っ赤じゃない」

「え?」

 朋香は、目をごしごしこすった。


「やめなさいよ。もっと赤くなっちゃうわよ」

「なおった?」

「なおるわけないじゃん。ほら、もっと赤くなっちゃったよ。痛くないの?」

「痛くないよ」

「どうして、そんなになっちゃったの?」

「昨夜よく眠れなかったからかな?」

 きのうの夜、朋香は、おばあちゃんの事を考えてよく眠れなかった。


「あ、勉強のしすぎ?」

「そんなわけないじゃない」

「あやしいな。一人だけ、中学受験に受かろうっていうんじゃないの?」

 麻美は、ふふんと笑いながら、カバンをぶらぶらさせて朋香の周りを回った。

「ない!」

 朋香は、ぴしゃりといった。


「それよりさ、人間ってさ、目を使いすぎると、赤くなるじゃない」

 朋香がいうと、うんうんと麻美が首を振った。

「どうかすると、金色になることもあるのかなぁ」

「金色! そんな色になるわけないじゃない。妖怪じゃあるまいし」

「ということは、やっぱり妖怪だったらありえるわけ、金色に目が光るということが?」


 朋香は、金色に光る目と、有二がこの前いったねこの妖怪とが一つになってしまい、気になってしかたがなかった。年老いたねこは妖怪になる、年老いた人間も何かのきっかけで妖怪になる……。


「ああ、朋香はすぐそういう方向に話しを持って行きたがるんだから。いっとくけど、私が見たわけじゃないからね。ここで、そうそうなんていったら、もうみんなに麻美が金色に光る目を持った妖怪に会ったんだって、っていう話をしちゃうんでしょう」

「しないよ、そんなこと」

朋香は、ぷっとほほをふくらました。


「あ、でもさ、妖怪というと、私、聞いたんだ」

 麻美がニヤリと笑った。

「何?」

 朋香は、おばあちゃんの目をだれかに見られたのかもしれないとドキドキした。


「ねこがね」

「え、ねこ?」

 おばあちゃんの話じゃなかったと、朋香の肩の力がふっとぬけた。

「このごろ、ねこがいなくなったって話しをよく聞くんだ」

「あ、私も聞いた。おばあちゃんのとなりの家のねこ」

「やっぱりね。ねこってね、長生きすると妖怪になるんだって」

「二股っていう妖怪になるって話、私もきのう聞いたところ。麻美は妖怪になったねこ、見たことがあるの?」

 朋香は、麻美の顔をのぞき込んだ。


「見た」

 麻美は恐い顔をつくって、朋香をにらんだ。

「いやだ……。その妖怪、目はやっぱり金色だった?」

「何で金色なの?」

 きょとんとした顔で麻美が聞き返した。


「あ、あ、な、なんとなく……」

「ふふふ、やっぱり朋香は食いついてきたわね。こんな話は、好きだと思っていたわ。そんなの、見るわけ無いじゃない。ただ、そんな話をよく聞くなぁと思っただけよ」

 麻美は、おかしそうにケラケラ笑っていた。


 

 

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