第24話 孤毒

 夫である清は17時頃に帰ってきた。そのあまりにも早い帰宅に妻の由佳は驚いて、慌てて夕飯の用意を始めていたよ。


「早いのね。いつも、8時回ってから帰ってくるじゃない?」


「まあね、たまにはいいだろ?こういう時があってもさ?風呂に入りたいんだけど。」


「ああ、ごめんなさい。まだ沸かしてなかったわ。」


 とせくせく風呂場に向かう女。その姿を何も言わずに見つめる男の姿があった。


 その形は日本中でも多く見られるものだろう。さして、気にすることではないね。


 男は自室に籠もってなにかしてた。詳しいことはわからないけど。その間女はボクでも下手だなと思うくらい慣れない手付きで包丁を握って肉や野菜を切っていたよ。


 それから、風呂がわいたことを知った男が風呂に入り、女はまだ、野菜を切っている途中だったよ。それが終わったら皿にガバっと載せて机に置いていた。人間って切って載せたものを料理って言えるなんてすごい図々しいと思うな。ああ、感想は要らないんだよね。ごめんごめん。


 それから、男が風呂からでてきて機械を色々と使っていた。女はスマホをじっと見て笑っていたよ。料理するより楽しそうだったね。18時前くらいで二人が食卓について食事を始めた。ああ、正確にいうと食べていたのは男の方だけ。女はそれをじっと銅像かなにかのように視てるだけだった。よっぽど、美味しかったんだろうね。男は料理をすぐに食べ、すぐさまトイレへ。暫くしてまた戻ってきてから。


「ごちそうさま。」


 と一言。まだ、皿には残っていたんだけど、腹八分目っていう言葉もある。うんうん、身の丈に合った食事をするっていう男のスタンスは嫌いじゃないな。むしろ、男にピッタリだと思ったよ。女は黙って、男が使った食器を下げた。まだ、残っていたのにね。


 ああ、また不満そうな顔してこっちを視ないでくれよ。


 こういうスタンスだと思って許して欲しい。なにせ、説明なんて行為ボク等には必要ないからさ。しかも、人間の行動の説明なんて久方ぶりなんだ。それに、きみが理解できるように話さないとダメだろう?これでも、気を使っていることを分かって欲しいな~


 さて、どこまで話したかな?そうそう、食事が終わったところだったね。


 それから男が部屋から紙を持ってきたんだ。


「この離婚届けにサインしてくれないか?」


「は?なによ?なんで?こんな急にそんなことをいうの?」


「急ではないだろ?お前も薄々考えていたことじゃないのか?」


「いいえ、いいえ、違うそんなこと考えてない!それに、離婚して、それからどうするの?」


「どうしたっていいだろ。これからは関係ないんだから。」


「なに?なに?なんなの?じゃあ、理由は?離婚理由は?」


「今の状態が苦痛だから、では理由にならないか?」


「ならないわよ。離婚するなー「慰謝料は払わない」


「・・・・・・」


「誠司と梨子のことは任せる」


「ちょっと、巫山戯ないで、じゃあ、どうしろっていうのよ。どうやってアイツラを育てていくのよ。」


「・・・・・」


「ねえ?聞いてるの?」


「金なら、あの男を頼るんだな。」


「・・・・・・・誰のことよ?」


「知らないとでも、思っているのか?お前の不倫相手だよ。」


「知らない、そんな相手いるわけないじゃない!」


「この写真に全て写っていたんだよ!」


 男は写真を女に見せていたよ。そうしたら、女の方は暫くだまって何も言わなかったんだ。


 それから、女はブルブル身体を震えさせて、顔を真赤にさせて言ったんだ。


「ええ、そうよ。浮気してました!悪い?悪い?ハハ、ばれないようにしてきたんだけどね。


 そうよ、彼が浮気相手、あんたが仕事してる間に相手してました。でも、別にいいじゃない。私達の間に最初から愛なんてなかったんだから。私はあんたの経済力目当てだったし、あんたは結婚しているというステータスがほしかっただけでしょ。利害は一致してたから結婚した。世の中の結婚なんてそれが普通でしょ。子どもだって、老後の肥やしとして生んだんだし。それはあんたも一緒だったでしょ。それをいまさら、浮気の件で目くじら立てるなんておかしいんじゃない?」


「俺はお前みたいなゴミとは違う。一緒にするな!俺はただ、ただ、開放されたいだけなんだ!この行き止まりの道からな!」


 この瞬間女は近くの皿を男に向かって投げたんだ。それから、言い合いが始まった。悪いけど、ボクには理解できない言葉だったから、再現はよしてほしい。男は女を殴ったり、その逆もあったかな。そうして、女はカバンに色々詰め込んで出ていったわけさ。それからはきみが知っての通りだよ。


 長い話が終わる。コーヒーはとうに冷めきっていた。


 そう──とつぶやく。やはり知らない方が良かったかもしれない・・・と後悔した。


 というのも、私から視たら彼らの家族はとても幸せそうに映っていたからだ。私の欲しい異常が彼らにとっては当たり前であったこと。それが、とても眩しくてしかたがなかった。でも、本当は仮面をつけあった偽善と偽善の馴れ合い。そんなものを太陽だと思っていた自分に呆れがでる。人を見る目がない、と思う。これは高校生の時、天斗君とのことでもそうだけど。


「・・・・・ねえ?このSWを使えばあの家族救えるかしら?」


 わかりきった質問をする。私はどうしても、高田清さんが父と被って仕方がない。だから、もう、救ってあげたいという気持ちしか考えられなかった。そして、そんな手段を私は知っている。


「もちろん、SWの力は絶対だからね。」


 予想通りの答え。もう、心は決まっている。後ろを振り向くことはできない。


 分かっている。この力を今度こそ使ってしまえば、もう、───── 人という枠組みではいられないだろう。


 けれど私は──────────。

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