第5話 発端

 夕方6時、オレは近くのスーパー、桜川マーケットに来ていた。といっても買い物をしに来たわけじゃない。


 ここに来た目的それは─────黒田奈津美の最期を見るためだ。そのために、支援アイテムを使った。奴は毎日この時間になると買い物をするのは調査済みだ。


 そんなことを思っていると、時間通りに奴が来た。偶然を装うようにオレは奴に近づく。


 ────その時、


「こんにちは。天斗さん。」


 奴の方から声を掛けてきた。まるで、オレがここに来ているのが分かっているかのように──


「ああ?えっと~」


 オレはそれでも、知らないフリをする。


「ああ、ごめんなさい。急に声掛けちゃって。この間、内の役所受けに来てたでしょ、その時に案内した───」


「ああ、思い出しました。確か案内してもらって、説明会の時に説明されてた方ですよね?」


「ええ、そうよ。黒田と申します。」


「天斗と申します。といってもご存知でしょうし・・・もう関係ありませんがね。」


「それなんだけど、君、居酒屋の『楽』でバイトしてるわよね。」


「ええ、まあ、それが何か?」


「そうね、立ち話もあれだから、そこのカフェでお茶でもしながら・・・どうかしら?」


(この女の粛清時刻まで、残り24分。あまり関わるのは良くないが・・・バイトの場所を訊いて来た時点であの夜の話なのは確定。どうせなら、罪悪感なくスッキリした気持ちで最期を看てやるのも、悪くはないか。)


「それ、逆ナンってやつですか?」


「違います!こう見えても、既婚者ですし。」


(ほーう、この女、結婚して・・・いるのか。───────)


 なんだ?、今一瞬、なんか、頭によぎったような。


「それで、お返事は?」


「わかりました。お付き合いします。」


「うん、OK。安心して、奢りだから。」


「・・・・・・・・」




 執行者は何か違和感を感じたまま、対象者について行った。






 カフェに行きオレは紅茶を彼女はアップルとグレープの炭酸割りというこの店、カフェピースのオリジナルを注文した。


「くぅぅぅぅ~、仕事の後の一杯は良いわね。」


 なんて居酒屋と勘違いしたかのような発言をしているこの女。


「今、失礼なこと思った?具体的にはオバさんみたいだとか?」


「いや、そうは思いませんでした。」


「じゃあ、どう思ったの?ちなみに、私まだ、28だから・・・」


 そんな、意味がなくなる発言を繰り返す。


(しかし、あの夜とは雰囲気がまるで、違うな。まあ、それも関係なくなるが・・・)


「それで、あの店で働いていることが何かあるんですか?」


 オレは無理やりに、話題を戻す。


「うん、そのことで訊きたいことがあるの。」


 彼女は襟を正し、座り直し、そう言った。


「なんです?訊きたいことって?」


「君、2週間前の金曜日、正確には9月13日の金曜日なんだけど・・・」


「バイト入っていた?」


「ええっと・・・どうだったかな?」


 思い出すフリをする。その日は間違いようもなく、あの話を聞いた日だ。忘れるはずがない。


「思い出して、重要なことなの!」


「そんなこと言われても・・・」


(焦っているな。やはり、あの話は本当で口止めにでもきたのかな?)


「ああ、思い出しました。確かにあの日はシフトに入ってました。」


「ホント!?」


「ええ、本当です。間違いありません。だって・・・」


 時計を確認する。粛清時刻まで、5分を切っていた。


「だって、スゴイ話を聴いた日でしたから。」


「!!!そう。やはり、あの話を聴いていたのね。」


 先程までとはうって変わって冷たい口調だ。


「驚きました。まさか、僕の働いていた居酒屋であんな話を聴くなんて思ってませんでしたから。運命ってやつですかね?」


「いいえ、偶然よ。」


(以外だな。オレが『楽』で働いていることを知っていて話していると思っていた。)


「その件なんだけど・・・」


「どこまで、知っているの?」


「どこまでって、全部ですよ・・・」


「それを、今ここで話しなさい!!」


 急に声を張り上げる。まるで、別人みたいだ。


 今までのオレなら萎縮し、完全にペースを持っていかれていたことだろう。だが、今は・・・


「へえ~、良いんですか?こんなところで喋って?」


「良いんじゃない?周りには誰もいないし。」


 先程まで混雑していた店内は静寂に包まれていた。


「じゃあ、言います。言わせてもらいます。あんたら3人は───────クズだ。」


「へ?」


「へ?じゃない、人の人生をなんだと思っているんだ。そんなに弄んで愉しかったか?愉しかったよな!それが、あんたらの仕事のやりがいなんだから。」


「ああ・・・聞いたのはそっちね・・・」


「おい、そっちってなんだ!?オレは・・・」


「その話なら結構よ。言いふらしても。部長も亡くなって、いい加減あのノリに合わせるのもうんざりだったから。それとも、欠員がでたら、優先的に採用してあげよっか?」


「そうやって、あんたらは人の人生を狂わしていくんだな。」


「悪いけど、その話ならごめんなさい。でも、私が訊きたかったのはその話じゃなくて・・・・・・・!!」


 瞬間、彼女は頭を抱え倒れ込む。思わず、笑みが溢れる・・・。


「フーフーはーはーあああああー」


 何か言っているようだが、言葉にはできていない。


「一応、救急車、よんでやるよ。」


(もう、手遅れだろうがな・・・・)




 誰かが彼女に気づいたのだろう。────辺りが騒がしくなる。


 そんな中、息が耐えつつある女が口を動かしていた。


「お・・・へ・・ん・・・・・ね・・・・・・・・・・──────」


 女のコトバを聞いたものは誰もいない。

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